気になるライトスタンドとの温度差

 8月の上旬、千葉県幕張のZOZOマリンスタジアムで行われた千葉ロッテマリーンズ対福岡ソフトバンクホークスの試合を観戦する機会がありました。 イニング間のイベントなども含めて楽しませてもらいながら、観客の一人として感じたこと、球団社長を経験した者として見えたことを、今回は書いてみたいと思います。

 論じて、批批評家然とするのは簡単ですし、部外者である私が大上段に「こうすべき」と持論を主張するのはおこがましいと承知しています。あくまで推測も交えた奔放な意見・感想として読み流していただければと思います。

 ロッテは借金がかさんで最下位に低迷中。かたやソフトバンクは例年通りの強さを発揮して首位争いを演じていました。そうしたコントラストの明瞭な試合だったこともあり、私がスタジアムでまず感じたのは「ちょっと雰囲気が暗いな……空気が重たいな……」という印象でした。

 一緒に行った知人も、横浜スタジアムでベイスターズの空気に慣れている人物で、マリンで野球を見るのは初めてでしたが、スタンドの光景がイメージと違ったようです。ビジターゲームの時にレフトスタンドに集結する熱狂的なロッテファンの姿を見たことがある知人は、「ホームでは球場全体に広がっているのかと思っていたら、そうでもないんだね。ハマスタの光景と同じような感じなんだね」と意外そうに言っていました。

 コアなファンが集結しているのはライトスタンドだけで、1人で座席3つぶんぐらいを占めて飛び跳ねていて、初めてスタジアムに行った人がそこに入っていくのはかなりハードルが高いだろうなと思います。ライトスタンド以外の客席の人たちとの温度差があり、一体感が生まれにくい状態になっているようにも感じました。

 対処法として、外野応援席も全席指定にするのは一つの手かもしれません。いまの応援団の方々やコアファンの方々からは当然に批判しか出ないことは想像できますが(ハマスタの外野スタンドを全席指定にした初年度もそうでした)、指定席にすることで心理的なハードルが低くなり、誰でも座りやすくなるという効果が期待できます。

盛り上がった“謎の魚”、次のストーリーは?

 ファンを楽しませるために、球団がいろいろなことにトライしている姿勢はうかがえました。盛大な打ち上げ花火は、予算のイメージがわかるだけに、「お金をかけてがんばっているな」と感心しながら見させていただきました。

 一方で、イニング間のイベントの中には、「なぜ?」と首をかしげてしまうものもありました。

 その一つが「マリーンズYOGAタイム」です。

 これは、ヨガインストラクターの女性がビジョンに登場し、観客に短いレッスンを行うというもの。飛行機内での取り組みからヒントを得た、エコノミークラス症候群予防も兼ねたアイディアかと想像しますが、野球の試合中にヨガ、という流れは唐突感が否めないように感じました。

 また、今シーズン突如現れて大きな話題となった“謎の魚”。最初はグラウンドに登場するだけで大盛り上がりだったのでしょうが、話題になってからある程度の時間が経ち、「次何やるの?」という期待感が雪だるま式に積み上がっていくような良循環スパイラルに持ち込めていないように感じます。あの魚は何なのか。どういう意味があるのか。今後どうなっていくのかというストーリー性も、ファンと共有されているとは言えないような気がします。

 そうこうしているうちに、グッズ生産のリードタイムもあり、ぬいぐるみが発売されたというネットニュースを目にしました。最初のころの「熱」が盛り上がっていくと、グッズの売り上げも倍々ゲームになるのですが、現状では「ある程度売れる」といった感じで、「出した商品が次から次に売れていく」状態になるにはもう一息必要なのかな、という印象を受けました。

 また、“第2形態”になる時に、それまで着ていた“魚”を地面に置いてしまうことにも、個人的には強い違和感を覚えました。置いていってしまった時点で、生き物という設定が崩れ、ただの「モノ+人間」になってしまう……。そうした部分は妥協せず、細部まで詰めるべきではないかと思いました。

 とかくインパクト重視の“ビックリ箱”をやってしまうと、最初の反応はよくても、すぐに飽きられてしまったりするものです。出してしまったものをどう収拾させるかも難しくなります。

 私がベイスターズの球団社長だった時は、突拍子もないものより、むしろ「お客さんの期待をちょっと超えるもの」という絶妙なラインを意識していました。「そうそう、そういうのが見たかったんだよ」というレベルで、あとは徹底的にクオリティにこだわる。そうすると、イベントにせよグッズにせよ、長く愛されるものができあがるのではないかと思います。

球団にできることは「スターが生まれる環境」づくり

 試合を見ながら、大げさにいえば“暗黒感”を感じ取ってしまったのは、ただチームが弱いからだけでなく、編成上の問題が表に見えてきてしまっていることも原因の一つだと思います。

 主軸を打っていたデスパイネが、あろうことか同じパ・リーグのソフトバンクに移籍。不振に陥ったロッテは、かつてソフトバンクにも在籍していたペーニャを獲得しました。金銭面も含めて球団間の力関係が見ている側に伝わるような編成になってしまい、今季限りでの退任を発表している伊東勤監督の発言にフロントへの不満がにじむこともありました。一番驚きだったのは、キューバから俊足のサントスを獲得することが決まった時、伊東監督の「いま絶対ほしい選手ではない」という発言が公に出ていたことでした。

 さらに、最下位とはいえ、シーズン途中に伊東監督が「辞任」を表明したことも驚きでした。この時期に「休養」でもなく「辞任」と表明されるのは、選手の側にとってはモチベーション的にも困ることではないかと思いました。

 WBC出場メンバーなど10年ほど前には数多く所属していたスター選手がすっかりいなくなってしまったのも、明るさを感じにくい理由の一つでしょう。

 スター選手というのは、球団の努力だけでつくりだせるものではありませんし、かといって、そういう選手が現れるのをただ待っているだけでもいけません。

 球団にできることは、「スター選手が生まれる環境」をつくること。プロ入り前からのストーリーも含めて、スターの素養がある選手を複数揃えて、実力と乖離しない範囲で押し出していく。最終的には選手次第であり、球団がコントロールできるものではありませんが、できることには力を尽くしながら、球団の未来を支えるスター選手の誕生を後押ししていくことが重要だと思います。

 ベイスターズの筒香嘉智選手でさえ、なかなか芽の出なかった期間にはトレード話が出たこともありました。しかし、近い将来のスター選手候補としての評価が揺らがなかったからこそ、彼が球団を出ることはなく、いまのベイスターズがあるのです。

 ロッテで言えば、平沢大河選手(2015年ドラフト1位)などがそうした期待を担うべき存在なのでしょう。監督も交代して、新体制で臨む来季。より明るい雰囲気の中で試合が見られることを楽しみにしたいと思います。

<第九回に続く>

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■第3章理想の「スタジアム」をつくる
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日比野恭三

1981年、宮崎県生まれ。PR代理店勤務などを経て、2010年から6年間『Sports Graphic Number』編集部に所属。現在はフリーランスのライター・編集者として、野球やボクシングを中心とした各種競技、またスポーツビジネスを取材対象に活動中。