ピーク時には875億円を売り上げたビッグレース・有馬記念

12月24日に東京・中山競馬場で行われる中央競馬のグランプリ・有馬記念。ファン投票で選出されたサラブレッドのみが出走できる1年で最後の大レースには、今年もG16勝馬・キタサンブラックを筆頭に多くのスターホースが名を連ねる。

中央競馬の最後を締めくくる大一番だけに、動く金額も半端ではない。昨年の同レース売り上げは実に449億257万2000円。中山競馬場に押し掛けた観衆の数は9万8626人に及んだ。キタサンブラックの引退レースとなる今年は売り上げ、入場者数ともに昨年を大きく上回ることも予想されている。

とはいえ中央競馬界の置かれている現状は、特に2000年代に入って以降、決して安穏としていられるものではない。

1980年代後半から90年代にかけてのバブル景気、さらには日本中を熱狂させたスターホース・オグリキャップの出現により、中央競馬界は全盛期を迎えた。馬券の年間売り上げは右肩上がりに上昇し、ピーク時の1997年には年間売り上げで4兆円を突破。その前年、1996年の有馬記念で記録した875億104万円という売り上げは、今なお中央競馬史上に残る1レースの最高売り上げ記録として残っている。

しかし、バブル景気の崩壊を機に馬券売り上げはピーク時の1997年を境に年々下降線をたどり、2016年の年間売り上げは約2兆6000億円まで落ち込んだ。金額的には十分すぎるようにも思えるが、全盛期の約3分の2であることを考えると、どこかで歯止めを利かさなければ衰退の一途をたどるのは間違いない。

事実上、国が経営を担う公営競技とはいえ、この現状を指をくわえたまま看過するわけにはいかない――。

そこで中央競馬界はここ数年、経営方針を見直し、大きな「モデルチェンジ」を図っている。

それが、「ファミリー層の顧客獲得」だ。

競馬界が着手した改革とPR方針の変化

競馬といえば一昔前までは「オヤジの趣味」と相場が決まっていた。競馬場には野球帽をかぶり、耳に赤ペンをさし、タバコをふかした中年男性が集まり、レース中には容赦ない怒号やヤジが飛び交う。とてもじゃないが、女性や子どもがやすやすと足を踏み入れられる場所ではない――。

そんなイメージを払拭すべく、競馬界がまず着手したのが競馬場のリニューアルである。

例えば、有馬記念が行われる中山競馬場。レース開催日はもちろん、それ以外の土日にも場内では乗馬体験や馬との撮影会といったイベントを積極的に行い、子ども向けのアスレチック、ゴーカートといった遊具も充実。子連れで行っても十分楽しめる設備を充実させ、特定の「男性層」だけでなくファミリー層を意識した改革を行った。

また、レストランやファーストフードの店舗、バリエーションも、ここ数年で飛躍的に増加。これは中山競馬場に限ったことではなく全国的な傾向でもあるが、子どもを遊ばせられて、おいしいご飯も食べられる。言ってしまえば「馬券を買わなくても1日中楽しめる」をコンセプトとした施設づくりを徹底している。細かな話ではあるが、中山競馬場では今年から、東京競馬場では2年前から、レストラン内は「全面禁煙」。これもまた、一昔前の競馬場では考えられなかったことだ。

さらに言うと、中央競馬が毎年放映しているCMからも、時代によってターゲット層の変遷が垣間見られる。以下は、1990年代から中央競馬のCMに起用された主なタレントだ。

1990、91年 柳葉敏郎、賀来千香子
1992、93年 高倉健
1994、95年 真田広之、時任三郎、中井貴一
1996、97年 本木雅弘、鶴田真由
1998、99年 木村拓哉
2000年 緒形拳、松嶋菜々子
2001年 岡村隆史
2002年 永瀬正敏、妻夫木聡、小林薫
2003、04年 明石家さんま
2005、06年 中居正広
2007年 織田裕二
2008~10年 佐藤浩市、大泉洋、蒼井優、小池徹平
2011年 吉高由里子、佐藤健、桐谷健太
2014年 竹野内豊
2015、16年 笑福亭鶴瓶、瑛太、有村架純
2017年 松坂桃李、柳楽優弥、高畑充希、土屋太鳳

中央競馬全盛期の1990年代中盤までは男性層に人気の高いタレントが起用され、ここ数年は複数の俳優、タレントを起用し、老若男女問わず支持されている「万人受け」するタイプをキャスティングしていることがわかる。

実際に観客が足を運ぶ「競馬場」、さらには集客を全国にPRする「テレビCM」。双方で明確な「ファミリー層獲得」という方針を打ち出したことで、中央競馬は今、間違いなく生まれ変わろうとしている。

事実、全盛期にはまだまだ及ばないが、ピーク以降右肩下がりだった中央競馬界の年間売り上げは、ここ5年連続で増加し続けている。

ボートレース、競輪、オートレースにも見られる新たな色

また、こういった「公営競技の企業努力」は、なにも競馬界に限ったことではない。

例えば、ボートレース(競艇)は現在、若い女性に圧倒的な人気を誇る渡辺直美をCMのメインキャラクターに起用。ボートレースのCMキャラクターは過去、競馬同様に遠藤久美子、優木まおみ、南明奈など、明らかに「男性向け」を狙ったキャスティングが続いていたが、ここ数年は女優・モデルのすみれ、前述の渡辺直美と明らかに「女性向け」へとターゲットをシフトしていることがわかる。

そもそもボートレースにはいわゆる「イケメンレーサー」が多く、一部のレーサーには追っかけや出待ちがいるなど、もともと女性ファンも多いという現状があった。現在はその「特性」を生かし、より「女性ファン獲得」へと舵を切っているといえそうだ。

競輪界では、2012年に女子競輪が実に48年ぶりに復活。「ガールズケイリン」としてリニューアルさせた。メインのターゲット層は男性だが、メインビジュアルや興業の方向性を見ると、これまでよりもやや若年層をターゲットとしていることがわかる。また、同性の支持を集めて女性客を「競輪」の世界に引き込みたい、という確かな狙いも見て取れる。

オートレース界で現在「顔」となっているのが元SMAPの森且行だ。1996年にオートレーサー転向のためにグループを脱退し、芸能界を引退。レーサー転身後も、CMや競技のPRイベント出演、カレンダー発売などオートレース振興に尽力していたが、大きな話題となったのが今年、Abema TVで放映された『72時間ホンネテレビ』への出演だろう。元メンバーとの再会が注目されたが、何よりも衝撃だったのがその放映がレース開催中だったということ。公営競技はギャンブルという特性上、レース期間中の外部との接触は原則、禁止されている。Abema TVでの同番組放映が決定した際も、生放送期間がレース開催とかぶっていたため、共演はなし、もしくはVTR出演などになるのでは……、というのがもっぱらの噂だった。

しかし、オートレース界はある意味「おきて破り」の禁じ手を使ってまで番組に協力。ネットテレビのメイン視聴者の大半が10~20代の若年層であることを考えれば、「オートレーサー・森且行」、さらには「オートレース」という競技の存在を若い世代にPRすることに成功したといってもいい。

公営競技ではこの年末、大きなレースが全国各地で行われている。

競馬では前述のとおり、有馬記念が24日に東京・中山競馬場で、ボートレースの賞金王決定戦は同24日に大阪・ボートレース住之江で、競輪ではKEIRINグランプリが30日に神奈川・平塚競輪場で、オートレースではスーパースター王座決定戦が31日に埼玉・川口オートレース場で行われる。

公営競技は、いまや「オヤジの遊戯」ではない。各団体がそれぞれの「企業努力」のもと、新たな色を生み出している。

年末年始、家族連れで「初めての公営競技」に足を運んでみるのも、また一興かもしれない。

<了>

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花田雪

1983年生まれ。神奈川県出身。編集プロダクション勤務を経て、2015年に独立。ライター、編集者として年間50人以上のアスリート・著名人にインタビューを行うなど、野球を中心に大相撲、サッカー、バスケットボール、ラグビーなど、さまざまなジャンルのスポーツ媒体で編集・執筆を手がける。