ヨーロッパ仕込みの指導法を取り入れたフエダ監督

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2018年ワールドカップロシア大会、日本と同じH組で戦うことになったコロンビアは、前大会では準々決勝進出。その前の3大会は南米予選を突破できなかったことを考えると、近年の好調ぶりは目覚ましい。

その好調の要因の一つが、自国のサッカー文化を大事にしながらも、10年、20年をかけて、育成年代からヨーロッパのメソッドを取り込んだことだったのでは、という意見を聞く。

その先駆けとなったのが、昨年、アトレチコ・ナシオナウ(コロンビア)を率いてクラブワールドカップのために来日した、ヘイナウド・フエダ監督だ。

現在、ブラジルの伝統クラブであるフラメンゴを指揮しているフエダは、2006年W杯を目指しながら、南米予選で苦戦していたコロンビア代表監督に、予選半ばで就任、成績は向上したものの、最終的に勝ち点1の差で、プレーオフ進出を逃した。

しかし、その後はホンジュラス代表を2010年の、エクアドル代表を2014年のW杯本大会に導いた。その後は、コロンビアのクラブチームであるアトレチコ・ナシオナウで、リベルタドーレス杯優勝と、クラブW杯3位を達成。

そうした輝かしい功績を重ねる彼の指導歴の出発点は、U−20コロンビア代表だった。

フエダにはプロ選手歴がない。早くにコロンビアの大学で体育学を学んだ後、2年間をかけて、ケルンのドイツ体育大学院で学位を取得するに至った。ヨーロッパでUEFAの監督講習も受けた。

ドイツ語が堪能で、研究熱心な彼は、その後もドイツでの国際監督会議に出席したり、度々ヨーロッパを行脚してビッグクラブを視察しながら、現地の監督と情報や意見の交換を続けている。そうやって、戦術・技術を研究し、アップグレードしているのだ。

コロンビア人でありながら、ヨーロッパ仕込みの指導スタイルを身につけたフエダが、92年から2003年にかけて、通算6年間、U−20と21のコロンビア代表を指揮。2003年にはコロンビアサッカー史で初めて、U−20ワールドカップ3位を達成したのだ。

彼が下部年代代表を指揮する上で、徹底に植え付けたことが2つある。

まず、ピッチの中では、“魅力的な組織プレー”。

彼がドイツで学んだと自負する、チームの中での意図を持ったプレー、連動性のあるプレー、集中力の持続したハードワーク。彼は、コロンビアの伝統である個人の技術力の高さとパスワークを活かしながら、そうしたチームプレーの意識を徹底し、ピッチで実践することに力を注いだ。

そして、もう1つが“人間形成”。

コロンビアのサッカーというと、ラフプレーや、カチンバで有名だ。「カチンバ」とは、審判の見ていないところで、相手を蹴ったり殴ったり、暴力的で、相手を怒らせるために行われるもの。日本でも有名になった、よく“ズル賢さ”と訳されている「マリーシア」とは違う。サッカーに重要なマリーシアと違い、南米でもカチンバは汚い行為とみなされている。

そんな中、フエダはU−20、21代表を指導している時、メンタリティの指導にも非常に力を注いでいた、というのが、コロンビアメディアの評判だ。対戦相手やチームメイトを尊重すること。チームの結束。生活や練習での規律を守ること。戦術に対し、献身的にプレーすること。

彼はその指導力の中で、人的側面から見たチームの管理、つまり、ピッチの内外で人を上手に動かし、導くことに長けていると言われている。その彼が、常にこう語っている。

「育成年代において、その時点の結果以上に重要なのは、コロンビアサッカーの将来のために、良い選手の育成方法を植え付けること。そして、選手に対しては、人間形成をサポートする、ということだ。国際舞台で戦う選手を育成するためには、スポーツマンシップを育てること、そしてそれ以前に、人間として成長することが必要なのだ。そのためにも、指導者が選手達を尊重し、選手達は監督を、そしてチームメイトや対戦相手を尊重する。そういうスピリットを育てることだ」

コロンビアが力を入れる若手育成と指導者養成

あの現代のコロンビア代表最大のスターであるハメス・ロドリゲスが、少年時代、身長が低く、痩せて貧弱な体型だったため、ホルモン療法をおこなったことは有名だ。

その当時所属していたコロンビアのクラブ、エンヴィガドのチームメイト達は、その医療の効果も去ることながら、ハメスの献身ぶりに、感嘆したものだと語っている。

誰よりも先にクラブに来て、一人でトレーニングをはじめ、チームの中でも最後まで、練習に取り組んでいる。

「世界で成功するには、やっぱりそういうしっかりした人間であることが大事だ、という良いお手本だ」

国際舞台で活躍するハメスについて、元チームメイト達がそうコメントしているのを、メディアを通して見たことがある。

フエダはドイツ代表の2014年大会優勝、そして、現在も続く好調の理由の一つとして、2002年からドイツで始まった、継続性のあるプロジェクトと同時に、育成のための投資を挙げる。

だからこそ、コロンビアで現在、育成と指導者養成に注目が集まっていることは、国内メディアでもよく取り上げられている。2014年には、FCポルト(ポルトガル)が、ボゴタに少年のためのサッカー学校を設立した。2017年にはコロンビアサッカー連盟により、サッカー監督・指導者養成学校が創立された。

この監督養成学校では、ピッチの中での技術・戦術・指導法などをはじめとする、指導者育成のための最先端の講座が行われ、修了するとCONMEBOL南米サッカー連盟の指導者ライセンスが得られる。

そして同時に、積極的に社会活動を展開する予定であることも、CONMEBOLは評価している。学校や地域などに出向き、すべての人にサッカーの機会を与えると共に、サッカーを通して少年達への人間形成を手助けしようというプロジェクトだ。ピッチの中だけでなく、サッカーを通したこうした取り組みが、コロンビアサッカーの未来を、さらに広げるかもしれない。

現在のコロンビアでは、年を追う毎に、才能の発掘に関する能力が上がってきているとも言われている。全国各地に、非常に意欲的で挑戦的なサッカースクールが増え、才能ある少年達を見出す仕組みが出来上がってきている。コロンビア人指導者達のレベルも上がってきたのが、その才能の発掘を、さらに確かなものにしている。

フエダがコロンビアだけでなく、南米の指導者達にとって、ヨーロッパで学ぶことがいかに重要かを、よく語っている。

「トレーニング方法や、違ったサッカーの概念を観察する機会。ヨーロッパのサッカーを心酔するのではなく、それを南米に持ち帰って、自国の伝統や選手の特徴に適応させ、独自に進化させることが、監督という仕事において、刺激的な日々に結びつく。」

代表で、クラブで、その成果を出してきた監督の言葉は説得力がある。育成に力を注ぎ始めたコロンビアサッカーは、これからもさらに発展していくのかもしれない。

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藤原清美

スポーツジャーナリスト。2001年からリオデジャネイロに移住し、スポーツやドキュメンタリー、紀行などの分野で取材。特に、ブラジルサッカーの代表チームや選手の取材を活動のベースとし、世界各国を飛び回る。選手達の信頼を得た密着スタイルがモットーで、日本とブラジル両国のメディアで発表。ワールドカップ5大会取材。ブラジルのスポーツジャーナリストに贈られる「ボーラ・ジ・オウロ賞」国際部門受賞。