新球場建設地はどこになるのか? 迫る「決定期限」

北海道日本ハムファイターズの新球場建設予定地の選定が大詰めに近づいている。
従来から、「平成30年3月末までに決定する」との意向が示されているからだ。決定に向け、このところ新たな動きも加速している。

以前のコラムでは、「札幌市内の2候補と北広島市の1候補(総合運動公園)、計3候補のいずれかが遡上に載っていると書いた。だが、札幌市の2候補はいずれもファイターズが目指す球場建設のイメージに合わず、新たな候補地の提案が望まれている」という状況だった。つまり、その2候補以外に札幌市から新提案がなければ、「札幌から北広島市に移転する可能性もある」というのが当時の空気だった。

ファイターズが札幌ドームからの移転を決めたのは「札幌市から本拠を移したい」からではない、と当初は誰もが考えていただろう。近年、MLBの球団経営に学んで日本の球団が採用し始めている「自前の球場を持つことで、球団経営の健全化、収益力の向上を目指す」という経営的な判断とともに、「大切な選手の体調管理を最優先に考えたとき、現状の札幌ドームの人工芝は怪我や故障につながる懸念が大きい。しばしば札幌ドームに改善を申し入れているが、選手や球団が望む切実さで対応してもらえない」「ファンサービスの面からも、観客席の改修などが球団の希望通り勧められない」といったジレンマが募っていた。

従って、「札幌市内にいい候補地があれば当然検討する」というのが、球団のこれまでの態度だ。そんな中、昨年10月8日に「新たな候補地として、真駒内屋外競技場とその周辺敷地が検討に入った」と北海道内の新聞・テレビが一斉に報じた。真駒内屋外競技場は、1972年札幌五輪の会場となったスケート施設。住所は札幌市だが、土地は北海道のもの。札幌市としては、頭越しに北海道と球団が交渉したような形に不満を抱いたのか、10月12日の定例会見で札幌市の秋元克広市長が、「日本ハム球団から、真駒内はどうかという話があった」と説明した。同時に、「札幌市の提案している2候補地を諦めて真駒内にするという話ではない。2候補地の協議も進めることは変わらない」とも明言した。

この時点では一時的に候補が4つに増えた形に見えるが、当初の札幌市2案では実現性はない、札幌市のやる気が感じられない、新球場への認識が低すぎるという感触が球団にはあったのだろう。実質的に、2候補に絞られた。言い方を換えれば、「これでようやく札幌市にとどまる可能性が残された」

地元メディアに明かされた「移転の真相」から見える現状

真駒内をめぐる対応においても球団と市の温度差が否めない状況に憂慮してか、昨年12月初旬、日本ハム球団の前沢賢・事業統轄部長は、北海道新聞朝刊「地域の話題」の取材に答えて、ファンにとっては衝撃的な事実を明らかにした。

12月5日の15面に一問一答形式で掲載された内容を一部抜粋しよう。

-札幌市所有の札幌ドームを離れる球団が、市に支援を求める理由は。

「球団は札幌ドーム側に、球場を継続的に使えるフランチャイズ契約をお願いしたが拒まれた経緯があります。施設と球団のやり方が違っては充実したファンサービスは難しい。だから自前の球場が必要です。大勢が訪れる球場には交通アクセスの改善や開発許可などの課題がでてきます。市に候補地の提案をお願いするのは民間だけで決められない問題あるからです」
北海道新聞

新球場建設の理由を、球団は前向きな理由で表現し続けて来たが、その大きなきっかけとなったのは、「札幌市から長期的な札幌ドームの継続使用を断られていたからだ」と明言したのだ。つまり、「ファイターズが出て行く」のでなく、「出て行くしかない事情があったから移転を決意した」。

こうした報道や流れもあって、札幌市の従来の2案は消滅し、「北広島市の総合運動公園」か「札幌市の真駒内屋外競技場とその周辺」の二つに絞られた。」それが現状だ。

この背景には、いまも「札幌ドームでいいじゃないか!」、移転に反対し続ける多くのファンが数多く存在する現実もある。

ただし、改めて球団に確認すると、ビジネスの見地以上に、選手の体調面での改善が急務だと球団は切実に理解している。簡単にいえば(サッカーと併用で)、コンクリートの上に巻き取り式の人工芝を敷くだけの札幌ドームは選手の腰などに与える悪影響が大きい。因果関係が証明されたわけではないが、実際、足腰の故障が他球団に比べて目立つという。性能のよい人工芝が敷設される球場を本拠にする他球団の選手に聞くと、「札幌ドームの三連戦は、できればフル出場したくない」「ダイビングしたり、横っ飛びのプレーは札幌ドームでは絶対しない」と語る選手たちがいるという。それを聞けば、いかに現在の札幌ドームの人工芝が危険で、最高のプレーが期待できない環境であるかが理解できる。こうした認識をもっと共有することも、大切ではないか。

現時点で、札幌市内の真駒内か北広島市か、どちらが有利か不利かという判断はできる状況にない。ファイターズが一切、そのような意向や情報を発表していないからだ。取材によれば、軽々な発言が、親会社の株価の変動にもつながる昨今の社会状況もあって、未確定な情報や個人的な見解などを口外することも厳しく戒められているようだ。それほど、ファイターズの新球場建設問題が、ファイターズファン、プロ野球ファンだけでなく、社会的な関心事、地域経済に大きな影響を与えるインパクトを持っている証でもある。

北広島、真駒内、有力候補地で相次いで行われる二つのシンポジウム

2月3日には北広島市で、2月11日には札幌市で、それぞれシンポジウムが行われる。参加を希望する市民と球団側が直接意見を交換する貴重な場だ。両候補地とも、熱烈な歓迎がある一方で、環境保護団体や静かな環境を求める市民たちの反対もある。
 北広島のシンポジウムは定員500名、先着順で募集を受け付けたところ、すでに満席になっている。球団からはプレゼンターとして前沢賢(執行役員 事業統轄本部本部長)、と三谷仁志(執行役員 事業統轄本部副本部長)が参加の予定。市側の説明者は川村裕樹(北広島市役所企画財政部長)。川村部長は甲子園にも出場した高校球児でもあり、新球場建設に並々ならぬ情熱を持って担当していると聞く。ちなみにシンポジウムの正式名称は『北海道日本ハムファイターズ ボールパーク構想シンポジウム』。主催は北広島市と北海道日本ハムファイターズ・ボールパーク誘致期成会。

札幌の方は、『新球場建設構想フォーラムinまこまない』、主催は、さっぽろ商店街わくわく応援団。札幌市は球団とともに「協力」に名を連ねているが、主催ではない。プログラムの中の「意見交換会」の出席者には、北広島のシンポジウムと同じく、前沢、三谷両氏の名が記されている。こちらの定員は550名、2月6日が応募締め切り日だが、1月29日の時点ではまだネットからの申込みを受け付けている。

新たに浮上した「真駒内屋外競技場とその周辺地域」は、最寄り駅から徒歩25分。いまはスケートリンクだが、浅田真央、羽生結弦といった人気選手が出場するイベントがあると、ものすごい渋滞が発生し、ファンはもとより、周辺住民に大きな影響が出ることが知られている。球場建設に際しては、こうした交通の整備が大きな課題とされている。近くを通る地下鉄南北線の新駅を作る案もあり、駅からの『動く歩道』や『シャトル電車(モノレール)』など、解決策はもちろん提示されるだろう。

ボールパーク構想の現実的な着地点は? 新球場の未来図はどうなる?

球団は昨年、壮大なボールパーク構想を発表した。巨大な商業施設を併設したボールパークの建設予想図は、これまでの野球場のイメージを遙かに上回る衝撃をファンだけでなく多くの人々に与えた。しかし、真駒内となると、球場と一体となった商業施設の建設は難しい。自然環境への配慮が必要だし、駅から遠すぎるからだ。

こうして改めてまとめてみても、新球場をめぐる北広島市と札幌市の情熱は言わずもがなの感がある。しかし、ファイターズは「札幌」を本拠に、2004年以来、新たな土台を築いてきた歴史がある。札幌のファンに支えられて、ファイターズは日本のプロ野球界で独特の姿勢を実現してきた。本来は「北海道日本ハム」だが、札幌市民にすれば実質的に「札幌日本ハム」だという潜在的な認識というか自負があるだろう。北広島市に移ることで「出て行った」という印象は作りたくない。今後たとえ市外に移っても、札幌市民の支持がなければ球団経営は成り立たない。球団にとっても苦渋の選択があるだろう。

果たして、どちらが選ばれるのか。現段階では、ある日を持って球団がどちらを選んだか発表するような展開が予想される。が、最終段階に入って、「新球場で何をしたいのか」「現実的に、真駒内ならどんな絵が描け、北広島ならどんな未来が描けるのか」を公表し、ファンと共有し、オープンに最終決定を検討する段階を踏むことも、せっかく高まっている関心をいい形でプロ野球の人気回復につなげる方法ではないかと夢見たりする。球団の意向や立場をある程度公開した上で、突っ込んだ議論を市やファンと交わすことも最終的にはひとつの方法ではないか? 公開討論すれば、球団も、市も、ファンも、何らかの約束を互いに求められる可能性がある。それでこそ、三位一体で作る新しいプロ野球のあり方を現実的に展望し、実践できる。正式でなくても、道民投票のような形が取られてもいいのではないか。シンポジウムがそのスタートになれば楽しみだ。

なぜ日本ハムは新球場を建設するのか?  壮大なボールパーク構想の全貌

29日、プロ野球の北海道日本ハムファイターズが、新球場構想に関する発表を行った。札幌市内で行われた説明の中で、責任者である前沢賢事業統轄本部長は「ここにしかない場所、道民の皆様に誇ってもらえるような施設にしていきたい」と夢の構想を語った。新球場構想は単なる球場移転の話に留まらない。球場新設に託す思い、その先にファイターズが描く夢とは? 作家・スポーツライターの小林信也氏に寄稿いただいた。(文:小林信也)

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小林信也

1956年生まれ。作家・スポーツライター。人間の物語を中心に、新しいスポーツの未来を提唱し創造し続ける。雑誌ポパイ、ナンバーのスタッフを経て独立。選手やトレーナーのサポート、イベント・プロデュース、スポーツ用具の開発等を行い、実践的にスポーツ改革に一石を投じ続ける。テレビ、ラジオのコメンテーターとしても活躍。主な著書に『野球の真髄 なぜこのゲームに魅せられるのか』『長島茂雄語録』『越後の雪だるま ヨネックス創業者・米山稔物語』『YOSHIKI 蒼い血の微笑』『カツラ-の秘密》など多数。