【前編はこちら】大橋海人が見据える東京五輪 湘南生まれ湘南育ち、生粋のサーファーの流儀

東京2020オリンピックの正式種目となって注目されるサーフィン。その日の丸を背負って戦うのは誰かと、サーファーの間でも大きな話題となっている。有力な候補の一人と目されているのが、湘南を代表するサーファーの大橋海人選手だ。両親がサーファーという家庭に生まれ、物心がついたときにはもうサーフボードの上に立っていたという海人。大舞台に強いと言われるこの代表候補に、試合やライフスタイル、そしてオリンピックに向けての熱い思いを聞いた。(取材・文=李リョウ(サーフィンジャーナリスト))

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大舞台に強い海人 伝説の稲村クラシックでの勝利

――車をもらえるならって約束(※詳しくは前編参照)で国内のプロの試合に出るようになって、2012年にランキング2位になったんですね。

大橋海人(以下、海人) そうですね。プロの認定をいただいて、2年目に総合ランキングで2位になりました。

――それで2014年には伝説のコンテスト。稲村クラシック(※1)でみごと優勝。
(※1 稲村クラシック:鎌倉の稲村ガ崎で開催される伝説のコンテスト。特別なビッグウェーブのときだけに開催されることで知られている。2014年は24年ぶりに開催されて話題になった)

海人 そうですね。

――あのときはすごかったですね。僕は試合会場で見ていたけど、ファイナルでぶっちぎりの勝利でしたね。

海人 ありがとうございます。あの日は朝起きたときから勝つような気がしていましたね。渋滞で遅れて試合会場にはギリギリの到着だったんですが、それでも不思議なくらい気持ちが落ち着いていて、予選から勝ち続けることができました。

――大舞台になると強いんですか?

海人 プレッシャーに強いのか、ゾーンに入るというか、試合というよりショーを演じているような気分になるんです。そうなるとサーフィンが楽しいというか、失敗するような気持ちは全く無くなります。

――それで2015年のWSL日本チャンピオン(※2)となり、翌年のプライムイベント(※3)の出場権獲得。
(※2 WSL:世界的なプロサーフィンの組織)
(※3 プライムイベント:QS(クオリファイリングシリーズ)の中のビッグイベントで、CT(チャンピオンズトーナメント)の選手も数多く出場する)

海人 はいそうです。

――でもその頃に足をけがしたとか?

海人 そうなんです。練習中に足を骨折して、それで2016年と17年は思うように試合で戦えませんでした。でもやっと調子が戻ってきて今年2018年は気合いが入ってます。

――2018年の予定は?

海人 1月からハワイの試合に出て、それからオーストラリアの試合があって、その後はフランスですね。ヨーロッパを転戦します。友達のサッカー選手がオランダに住んでいるので、そこに泊めさせてもらったりします。

――プロのサッカー選手ですか?

日本代表の小林祐希選手です(SCヘーレンフェーン所属)。サーフィンの試合も応援に来てくれますよ。サッカーとは違う競技を見ると勉強になるみたいです。すごく仲が良いんです、茅ヶ崎とかにも遊びに来ますし。

――今年は国内の試合も出る予定ですか?

海人 海外の試合の合間にスケジュールが合えばスポットで参戦します。できるだけ出られるようにはしたいんですけど、海外の試合をどうしても優先したいという思いでいます。

©荒川祐史

自然は気まぐれで同じ波は一つもない、でもそれがサーフィン

――今まで世界のすばらしい波に乗ってきたと思うけれど、印象に残る波はありますか?

海人 そうでうすね。ハワイのパイプラインはそのパワーがすごかったですね。強烈な印象が残っています。でも一番楽しい思い出は地元の茅ヶ崎の波です。

――茅ヶ崎の波はそんなに良いんですか?

海人 波の良いところは世界中にいろいろありますけど、茅ヶ崎の海は子どもの頃からの思い出がいっぱいあって。友達も多いから自分の家に帰ってきたような気分になれるんです。そんな気持ちになれるのはここだけですから。

――さて2020年の東京オリンピックにサーフィンが正式種目となりましたが感想は?

海人 すごくうれしいです。オリンピックは子どもの頃からテレビで家族と一緒に観戦して、日本の選手が出ると種目にかかわらず応援していました。いつかこういう大舞台に立てたら格好いいだろうなと思っていたんです。だからサーフィンが採用されて、驚きとうれしさが同時に込み上げてきました。めちゃうれしかったです。サーフィンの面白さを多くの人に理解してもらえるいいチャンスだなと思います。

――シドニーでもリオでも採用されなかったサーフィンが、東京で採用されたってすごいですね。

海人 そうですね。すごいことだと思います。誰が選ばれるにせよ日本代表としてオリンピックで戦うことは名誉なことですし、関係者の方々の努力が実ったんだと思うと本当に喜ばしいことですね。

――オリンピックが決まって、サーフィンをウェーブプールという人工の波でやるか、自然の波でやるかが論争になっているけど、海人君はどう思っていますか?

海人 いろいろな考えがあると思いますけれど、僕の個人的な気持ちとしては、もし出場できたら自然の波でやりたいです。それがやはりサーフィンかなと思います。それに僕は海が好きですから自然の波でサーフィンのコンテストはやりたいですね。

――自然の波だと不公平だという意見もありますね。

海人 そうですね。自然の波は気まぐれで同じ波は一つもないですから、良い波に乗った選手が勝ってしまうという不公平感があって、ウェーブプールだとそれが無いという人もいます。でもそれが自然であって、サーフィンはそういうもの。良い波を選ぶ能力もまたサーフィンの技術だと僕は思います。

©LesPros Entertainment

子どもたちには“一つのゴミを拾う”意味に気づいてほしい

――日本のサーフィンはレベルとしてはどうなんだろう、世界のレベルにはまだ追いついていないのでしょうか?

海人 そうですね。でもどんどんレベルはアップしていて、あと少しというところですかね。若い世代も伸びていて、昨年宮崎で行われたアマチュアの世界選手権ではファイナルに日本人が何人か残って、ジュニアの部門で優勝したのも日本人でした。だから日本のプロのサーフィンの実力はかなり高いです。ただ試合で結果が出ていないだけですね。

――日本の選手が海外の試合で良い結果が出ないのはどうしてですか?

海人 例えばオーストラリアは、コーチングがしっかりしていて、試合の戦略も明確なんです。日本の足りないところはそこで、サーフィンの実力だけならば世界と変わらなくて、ただ試合で勝てないだけという状況なんです。だから試合の戦略を考える専門のコーチが必要です。日本にもそういうコーチがいることはいますが、まだ海外と比べると遅れています。海外の世界チャンピオンになるようなサーファーは、コーチやトレーナーを専属で雇って世界を転戦しています。

――オリンピックの代表に選ばれる自信はある?

海人 もちろんありますが、日本の代表に選ばれるのは狭き門です。世界で男女合わせて40名。日本代表は今のところは4名。男子は2名です。その代表に選ばれるにはまずそれなりの成績を試合で出さなければなりません。でも自分が何をすれば良いかはもう分かっているから、それを着実に結果として残していけば僕にもチャンスがあると思っています。

――地元茅ヶ崎ではキッズにも注目されるヒーローですがそういう意識は持っていますか?

海人 そうですね。サーフィンがうまいというだけではなくて、誰とでもあいさつを交わすとか普段の行動にも気をつけています。例えば海から上がったときにはゴミを一つ拾うことをやっています。一つのゴミを拾うという行動をみんながやれば、海がきれいになりますよね。そんなことを子どもたちが気づいて見習ってくれたらうれしいです。

――ご活躍を期待しています。

海人 ありがとうございます。


湘南は日本のサーフィンを語るうえでは欠かすことのできないエリア。ここはサーフィンの歴史や文化も深く、サーファーの人口も他とは比べものにならないほど多い。その湘南で生まれ育った大橋海人は、まさにサーフィンをするために生まれてきたようなリアルサーファーで、それだけに周囲の期待も大きい。大舞台に強く、プレッシャーが逆にエネルギーになって燃えるという海人。東京2020オリンピックで大活躍する姿が見られるかどうか、彼の今後の活躍に注目したい。

<了>

【前編はこちら】大橋海人が見据える東京五輪 湘南生まれ湘南育ち、生粋のサーファーの流儀

東京2020オリンピックの正式種目となって注目されるサーフィン。その日の丸を背負って戦うのは誰かと、サーファーの間でも大きな話題となっている。有力な候補の一人と目されているのが、湘南を代表するサーファーの大橋海人選手だ。両親がサーファーという家庭に生まれ、物心がついたときにはもうサーフボードの上に立っていたという海人。大舞台に強いと言われるこの代表候補に、試合やライフスタイル、そしてオリンピックに向けての熱い思いを聞いた。(取材・文=李リョウ(サーフィンジャーナリスト))

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[PROFILE]
大橋海人(おおはし・かいと)
1992年2月16日生まれ A型水瓶座
2012年JPSAプロに昇格。翌年総合ランキング2位となり、ルーキーオブザイヤーにも輝く。2015年にはWSL日本チャンピオンを獲得しプライムイベントという国際試合に出場。また24年ぶりに開催された伝説の試合、稲村クラシックで優勝し大きな注目を集める。2020年の東京オリンピック代表の有力候補の一人。

取材協力:SPORTIFF Café

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李リョウ

サーフィンフォトジャーナリスト。世界の波を求めて行脚中に米国のカレッジにて写真を学ぶ。サーフィンの文化や歴史にも造詣が深く、サーファーズジャーナル日本版の編集者も務めている。日本の広告写真年鑑入選。キャノンギャラリー銀座、札幌で個展を開催。BS-Japan「写真家たちの日本紀行」出演。自主製作映画「factory life」がフランスの映画祭で最優秀撮影賞を受賞。