日本ラグビー協会の坂本さんと河野さんに頼まれて

©松岡健三郎

東京・秩父宮ラグビー場の「青山ラグビーパーク化」を掲げ、2018年で世界の舞台に挑戦して3年目を迎える、日本のスーパーラグビーチーム「サンウルブズ」を運営する一般社団法人ジャパンエスアールのチーフ・ブランディング・オフィサー(Chief Branding Officer=CBO)に招聘された池田純氏(42)。

プロ野球横浜DeNAベイスターズの初代球団社長として手腕を発揮し、現在ではJリーグや日本ラグビー協会の特任理事、明治大学の「学長特任補佐兼スポーツアドミニストレーター」などの肩書きを持つプロスポーツ経営者が、なぜサンウルブズの代表者の1人として直接、ラグビーに関わろうと思ったのか、その真意に迫る。

――池田さんは日本ラグビー協会の特任理事も務めていますが、なぜサンウルブズを運営するジャパンエスアールのCBOにも就任したのでしょうか?

池田 僕、頼まれると弱いんですよ(苦笑)。日本ラグビー協会の(専務理事の)坂本(典幸)さんと(理事の)河野(一郎)さんに頼まれて、4月から日本ラグビー協会の特任理事になりました。「ラグビーを変えたい」と。Jリーグでも特任理事を務めていますが同様で、多数の理事がいるなかで、月1回の理事会で何かを言い放つだけでは、10のことを言っても1つもあるべき形にならない。

そもそもサッカーもラグビーも同様、理事会では、どうしても、競技の話が大半でビジネスを発展させるのかという話が焦点になることはほとんどない。ほとんどのことは「報告事項」で、自由闊達に発言し、何かを左右させることができるような機会があることはほとんどない。

昨年11月22日に開かれたCBOの就任会見でも「ラグビーは、2015年ワールドカップの南アフリカ代表戦での勝利によって、一瞬のブームになったものの、ブームは消え去り、2015年の前と後で、ラグビーの景色を変えることはできませんでした」と、事実について言及しました。私自身は、問題や失敗は当然あることですし、それを直視して、するべき議論し、そこから多くのことを学ぶことによって、次回の課題や対策がなされていくことが重要と考えています。しかし、内部から疑問の声を耳にしました。残念でした。

外からラグビー界を見ていたときは、2015年のブームというチャンスが来たのに、プロの意識を高く持ち、プロのスポーツビジネスの世界に発展させることにつなげることができなかったと感じていました。プロの世界に持って行くには、野球や多くのプロスポーツ同様、ラグビーもスポーツエンターテインメント化していかなければならない。そのための根本はスタジアムを「ラグビーパーク化」すること。当時も「ラグビーパーク」という言葉自体は出ていたようですが、プロの興行に発展し、ファンに浸透するレベルにまではやり遂げられなかったようです。

4月から特任理事としてラグビーを見てきて、日本代表戦もスタジアムで観戦しましたが、なかなか日本ラグビーを取り巻く構造や環境を変えるのは難しいかなと実感し、自分でも直接、関与していかないといけないと感じていました。そこで可能性がある、チャンスがあると思ったのは、サンウルブズと秩父宮ラグビー場の「青山ラグビーパーク化」だったというわけです。

またジャパンエスアールのCEO(Chief Executive Officer)の渡瀬(裕司)さんは、「ラグビーを変えたい」「黒字にしたい」「ラグビー界の既成概念を壊す」「サンウルブズがラグビー界を変える存在になりたい」と、池田さんとの信頼感を最優先に、何かあれば「私が協会を説得します」と強く関わることを頼み込まれました。そして「ハイボール100杯を飲まして池田さんを口説いた」とおっしゃっていますけど、実際は100杯も飲んでいないですが。やっぱり僕は、頼まれたら弱い(苦笑)。

――池田さんはプロ野球横浜DeNAベイスターズ時代に社長として辣腕を振るい、2011年から昨年までの5年間に渡って、観客動員数を110万人から194万人へ増加させ、球団単体での売り上げを約50億円から約100億円超へと倍増させて黒字化を実現し、さらに横浜スタジアムの買収を達成しました。ジャパンエスアールのCBOとしても、組織全体やサンウルブズの価値向上、知名度アップといったブランディングの強化をサポートする職に就きましたが、どうして、サンウルブズと「ラグビーパーク化」に可能性を感じたのでしょうか?

現在は他のこともいろいろやっているので、プロ野球横浜DeNAベイスターズ時代のようにサンウルブズの社長はできないので、僕と渡瀬CEOと、ジャパンエスアールの会長を務めている上野(裕一)さんと3人が全員横並びでトップのトロイカ体制という組織に渡瀬CEOが契約に記載しました。

現在の日本の最高峰のトップリーグを見ていても、地域密着化の話も出てきましたが、現状は一般の人には接点はほとんどないので、感情移入は難しいですし、観客もまださほど入っていませんよね? チケットを購入して、地域のおらがチームとして応援に行く文化をつくるには、相当な時間と労力を要するでしょう。近道であり、かつトップリーグのプロ的な地域密着の道に流れをつくるためにも、しっかりサンウルブズをプロチームとして組織化して、秩父宮ラグビー場を「青山ラグビーパーク化」して、サンウルブズをラグビーファン全員の「おらがチーム」にして、日本ラグビーの試合で、リーグ戦で、高いレベルのプレーで、見るべきものを作らないと、ラグビーに対する多くの共感や感動や憧れも、ラグビー界のベンチマークも出てこないと思っています。

2019年のワールドカップで、たとえラグビー日本代表が優勝したとしても、次にラグビーファン、スポーツファンを満足させるのは、現状ではすぐにトップリーグとはなり難いのではないかと、プロ野球での地域密着の大変さを味わってきた身としては思います。まずはスーパーラグビー、世界レベルのプレー、ファンが感情移入、応援する意味を理解納得可能なものは、サンウルブズがはやいと思っています。大学時代からラグビーが日本のプロ野球のような文化の国のオーストラリアに住んだり、プロのスポーツ経営者として野球やバスケットボールなどアメリカのスポーツを見てきたりした身としては、唯一の突破口はサンウルブズと「ラグビーパーク化」しかないと思ったわけです。

現在のサンウルブズは、日本代表強化の側面が強くありますが、2018年からより勝ちにいくために、外国人選手も増えています。2020年以降は、そういった大義もなくなってしまう可能性もありますし、それこそラグビーのプロリーグ化が進めば、トップリーグとと選手の取り合いになっていくべきだと渡瀬CEOは常々語っていました。

ラグビーもプロの世界に行ってほしい

――2016年は1勝、2017年は2勝しかできなかったがサンウルブズは、まだまだ資金力もなくプロチームとして基盤も環境も脆弱です。ジャパンエスアールは組織としてスローガン「5 BEYOND 2019」を設定し、「5 FOR THE CHAMPION」(サンウルブズを5年以内にスーパーラグビーで優勝できるチームとすること)「5 TO THE RUGBY PARK」(日本ラグビー界とともに、秩父宮ラグビー場の青山ラグビーパーク化を推し進めること)そして3つ目のサブスローガンとして、2018年のシーズンのサンウルブズチーム目標として「5 FOR TOP 5 IN 2018」を定めましたが、実行することはなかなか難しいのではないでしょうか?

こういったことが実際上手くいくかどうかはこれからのことだし、大変なことだと認識しています。現在のサンウルブズのファンクラブの人数は5000人くらいで(取材をしたのは2017年年末で、現在は8,000人を超える)、ベイスターズの初年度のファンクラブの人数と同じくらいです。CBOで、共同経営者的立ち位置にいますが、ベイスターズのときのようにCEO、社長ではないので、チームの組織づくりや、強化には積極関与はしませんし、日本ラグビー協会や、(スーパーラグビーの運営団体)サンザー(SANZAR)やJSC(日本スポーツ振興センター)関連といった折衝は正直やっていませんし、そこからの圧力などによって私自身どうなるかだってまったくわかりません。ただ、興行やイベントなどプロスポーツビジネスとしてのブランドに寄与する部分に関しては、実はコントロールできるとこは、かなりな部分指示しています。

サンウルブズがこのままの状態だと、2021年以降、日本でスーパーラグビーが観られなくなる可能性もあると思っています。2017年のサンウルブズの開幕戦となったハリケーンズ(ニュージーランド)戦も観て、すごくワクワクしましたが、いいものを観たくないですか? 世界レベルのプレーを生で毎年観たくないですか?感動する、応援したくなるチームがラグビーにも大きく育って欲しくないですか? そのためには組織もチームもファンもプロにならないといけないと思っています。

それでも現状ではプロから遠いラグビーの世界で、本物のプロになるチャンスがあるのは唯一、サンウルブズだけです。現在の予算は10億円くらいですが、それを倍にして、しっかりとプロ化すればチーム力も上がって、「ラグビーパーク化」も少しずつ実現すれば、毎回、2万人を秩父宮ラグビー場に毎年集められるようになります。またサンウルブズは、スーパーラグビーという世界の舞台につながっていることにも興味を持ちました。もしサンウルブズがスーパーラグビー優勝したら、エポックメイキングなことになります!

僕はプロの世界が好きですし、ベイスターズのときもそうでしたが、プロにならなきゃいけないのにプロ意識が低い、プロとしての意識改革が中途半端、ラグビー界にしがみつく自分のポジションに居座る、追い出されないことを考えて、何も挑戦しない。それは結局、選手が一番かわいそう。ファンがものすごくかわいそう。そういうのが嫌いで、周りにいる人や組織もプロのマインドにさせることが、最優先です。これが私の仕事といっても過言ではありませんが、「ラグビー界を変える」と意気込んでいる渡瀬CEOも、本当に最後までその意識を守れるか、ぶれないか、最後は「追い出されたくない」と迎合する可能性だってまだまだあると思います。

ラグビーもプロの世界に行ってほしい。サンウルブズには可能性があるから関わっていますし、みんなが気づいていないところしかチャンスはないと思っています。

2019年ワールドカップの成功ばかり目が言っていて、2019年以降のラグビー界のイメージをここまでハッキリと具現化した人は池田純CBOしかほとんどいなかった。〝変革者〟である池田CBOが掲げるスローガンの通り、サンウルブズが世界的強豪となり、スーパーラグビーで優勝したときあかつきに、ラグビー界にどんな変化や進化が待っているのだろうか。

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VictorySportsNews編集部