紆余曲折を経てたどり着いた、東北の地

「今関勝」というプロ野球選手を覚えているだろうか。NTT東京から1992年ドラフト3位で日本ハムに入団。プロ4年目の1996年には前半戦だけで10勝を挙げる活躍を見せ、オールスターにも出場した大型右腕だ。

そんな今関氏は現在、かつて本拠地とした東京ドームから約550キロ離れた青森県弘前市で、野球=スポーツによる地方活性化に尽力している。

2000年に日本ハムを退団した後はアメリカ独立リーグにも挑戦。現役引退後は楽天ゴールデンイーグルス・ベースボールスクールや上武大、三菱重工神戸などで指導者としてのキャリアを積んだ。

そんな経験を買われ、弘前市の職員として迎えられたのが2015年1月。以降、市の文化スポーツ振興課に籍を置きながら、多方面で地域の活性化に努めている。

楽天時代をはじめ、東北地方との縁はこれまでもあったが、赴任から丸3年以上が経った今も「雪の多さにはまだ慣れないですね」と笑う。

それでも、弘前で活動を始めてから4年目を迎えた今、その活動は着実に実を結びつつある。

弘前市へ29年ぶり招致に成功したプロ野球1軍の公式戦

弘前での今関氏の活動は、プロ野球公式戦の招致、アマチュア選手への指導、講演会、指導者講習会、高校野球の解説、社会人野球チーム「弘前アレッズ」の監督(昨年限りで辞任)など、実に多岐にわたる。

なかでも、「プロ野球公式戦の招致」は弘前市にとっての悲願でもあった。今関氏が赴任した2015年時点ですでにプロジェクトチームが立ち上げられていたが、彼の加入が大きな力になったのはいうまでもない。プロ野球選手として培った人脈や知識を活かし、球団への要望書の提出から開催球場(はるか夢球場)改装のアドバイスなど、球団とのパイプ役、さらには招致にあたっての具体的な改善策まで、「弘前にプロ野球を」を合言葉に尽力した。

結果、赴任3年目の昨年、弘前市としては実に29年ぶりとなるプロ野球1軍公式戦開催にこぎつけたのだ。

今関氏本人は「僕だけでなく、多くの人の力があってこそ」と語るが、今季も楽天の主催試合に加え、イースタンではあるが巨人対ロッテの3試合、さらにはフレッシュオールスターの開催。2年連続でプロ野球の招致に成功している。

「弘前の人がプロ野球を生で見ようと思うと、一番近くても札幌か仙台まで足を運ばなければいけない。簡単に行ける距離ではないので、特に子どもたちがプロ野球の試合を生で見る機会はほとんどない」

そう語る今関氏にとっても、プロ野球招致という結果は「自分の中では、ある程度の役目は果たせたかなと思っている」と、満足できるものだったという。

反響も、大きかった。

「主催は楽天球団なので、私たちがチケットを手配することはできないんです。それでも、多くの市民の方から『チケットはないのか』という問い合わせを頂きましたし、実際にお客さんもたくさん入った。直接『ありがとう』と言ってくれる方もいて、それは本当にうれしかったですね」

都心では当たり前のように行われるプロ野球の公式戦だが、弘前市にとって29年ぶりの開催となれば当然の反応かもしれない。

また、公式戦開催を1年で途切れさせず、2年連続で行う意義も大きい。

「私の活動の根底にあるのは『スポーツによる地方の活性化』です。今は多くの地方自治体がいろいろなアプローチで地方創生を目指していますが、私の場合は元プロ野球選手としてのキャリアを活かして、スポーツの力でそれを実現できれば。なので、一番大切にしたいのは、子どもたちにもっと野球を、スポーツを楽しんでもらうことです」

今関氏がこう語るのには、理由がある。

(C)今関勝

今関氏が語る『スポーツによる地方の活性化』の意味

弘前市の調査では、2006年から16年までの11年間で、市内の少年野球人口が実に70%も減少したという。ちなみに、同期間での児童数の減少率は26%。子どもの数自体も減ってはいるが、競技人口の減少率はその比ではない。

今関氏はこの競技人口減少に歯止めをかけるべく、2015年の赴任後、小学生から高校生まで、各カテゴリーの指導にも力を入れている。

「私自身、楽天では小中学生を指導してきましたし、大学、社会人の指導経験もある。幅広い年代の選手たちに接する上で、その経験は役立っていると思います」

元プロ野球選手であり、なおかつ各カテゴリーの指導実績を誇る今関氏にとって、現在の活動はまさに適任といえる。また、今関氏は子どもたちに指導する上で、「野球一色」にならないことも大切だと語る。

「野球以外のスポーツも、どんどんやってほしい。もちろん、勉強も大切です。吸収力のあるうちに多くの経験をすることが、子どもたちの将来につながるはず」

今春、そんな今関氏にとってうれしいニュースが飛び込んできた。

今関氏は現在、市内で弘前学院聖愛高校、弘前高校、弘前東高校の3校の指導に携わっているが、その中の1校、弘前高校の高屋昂平投手が東京大学へ現役合格を果たしたのだ。

「高屋には、『お前は宮台(康平/昨年ドラフトで東大から日本ハムに入団)になれ』と言い続けてきました。そんな子が現役で東大に合格してくれた。教えているチームが甲子園に行くくらい、うれしい出来事です」

東京大学に現役合格した弘前高校の高屋昂平投手(左)と今関氏(右)/(C)今関勝

プロ野球招致活動、アマチュア野球の指導……。これらの活動もあり、弘前市の少年野球人口は昨年、なんとか「横ばい」の状態にまで持ち直したという。児童数が年々減少していることを考えれば、実質増加しているといっていい。

スポーツの力で地方を活性化させる――。

「スポーツは、あくまでも手段のひとつ。でも、そこから子どもたちが社会性を身に付けてくれて、『当たり前のことを当たり前にやれる』ように成長してくれれば、少しは町も元気になるのかなと。子どもの力は本当に大きいです。本来であれば大人がまず変わって、そこから子どもが変わってくるものだと思うのですが、その逆があってもいい。まず、子どもが変わる。そうすれば、大人も変わってくるんです」

今関氏が弘前にやってきた2015年当時、市内のスポーツ環境は決して恵まれたものではなかった。プロ野球招致についても「協力してくれる人はいましたが、『実際、本当に弘前でやれるの?』という疑問の声も多かった」という。それでも、29年ぶりにプロ野球を招致し、少年野球人口の減少にも歯止めをかけた。

全国の自治体が抱える地方創生というテーマにおける今関氏、弘前市の活動は今後、ひとつのモデルケースとなるかもしれない。

<了>

(C)今関勝栄光の“ドラ1”投手・藤田太陽が選んだ知られざるセカンドキャリア「課題先進国」の日本はスポーツ界にとってチャンスか?DeNAベイスターズが挑む街づくり戦略 キーワードは“拡大解釈”

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花田雪

著者プロフィール 花田雪

1983年生まれ。神奈川県出身。編集プロダクション勤務を経て、2015年に独立。ライター、編集者として年間50人以上のアスリート・著名人にインタビューを行うなど、野球を中心に大相撲、サッカー、バスケットボール、ラグビーなど、さまざまなジャンルのスポーツ媒体で編集・執筆を手がける。