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現役時代の松井選手より、清宮選手のほうが優れている?

中根正登(以下、中根) 理学療法士の中根正登と申します。VICTORYさんから依頼を受け、清宮幸太郎選手の身体の使い方について分析を行なわせていただきました。あくまでこれは現時点までのパフォーマンスであり、これをもってプロでどの程度通用するかしないかという話ではありません。プロとして実績を挙げるには、様々な要素が関わってくると思います。しかしその実績を挙げるための大きな要素であるバッティングにおいて、清宮選手がどの程度優れているのかという話はできると思います。
 
――実際、そこは強調しておきたいですね。プロとして通用するかどうかは正直わかりません。現時点で他の高校生よりも高い能力を持っている選手であることは間違いないですが、プロの方々でも清宮選手の将来性に対する意見は分かれています。
 
中根 そうです。ですのでここはあくまで身体の使い方にフォーカスを絞ってお話します。

 清宮選手の凄さを語る上で、よく比較に出されるのが松井秀喜氏です。巨人やヤンキースなどで活躍した松井氏は、清宮選手についてコメントを求められることが多いですね。清宮選手も、松井選手について「すごい憧れてて」といったコメントを残していました。実際、スタイルとして似ている部分はあると思います。そして分析を試みて思ったのは、身体の理にかなった使い方という部分ではひょっとしたら全盛期の松井氏よりも清宮選手のほうが優れているのではないか? ということです。
 
――全盛期の松井氏と比較してですか? すごい評価ですね。
 
中根 もちろん、再度申し上げますがプロとして通用するためには守備面なども加味しなければなりません。プロとして良い成績を残せるかどうかはまた別です。しかし、バッティングに関していえば、現時点でも清宮選手のほうが上なのではないか? とさえ考えています。その根拠を説明いたします。
 
――以下、現役時代との比較という意味で「松井氏→松井選手」に表記を統一します。

セット(構え)の差異

中根 まず、構えている時の差異から説明します。松井選手の場合、両足のスタンスを狭くとります。軸足となる左の股関節は、外旋も内旋もしていないニュートラルな状態。そして、バットのグリップは肩の高さぐらいです。一方、清宮選手の場合は松井選手に比べてかなり広くスタンスを取り、軸足の股関節を大きく外旋させ、タメを作っている状態になります。
 
――外旋(がいせん)は外側にねじる動き、内旋(ないせん)はその逆で内側にねじる動きのことですね。
 
中根 そうです。清宮選手は松井選手に比べると、ピッチャー側、要するに右側の肩甲骨をかなり外転させています。外転というのは「外に転がる」と書きますが、要するに肩甲骨が外側に開くということです。実際にやっていただけるとわかりますが、右腕を左腕方向に水平に動かしてみてください。「肩甲骨が外側に開く」感じがわかると思います。
 
 左打ちの清宮選手の場合、右の肩甲骨をピッチャー側に向ける動きが、松井選手に比べて非常に顕著です。さらに、グリップの位置は松井選手に比べて肩よりも後方、さらに上のほうで構えています。この構えにより松井選手よりも骨盤と肩の割れ、要するにねじれを作っているわけです。この差異が、バッティングの際に非常に重要になってきます。

ひざを上げた状態から、着地まで

中根 次に、前足のひざを上げた状態から着地までの比較です。バッティング動作においては前足のひざを上げて軸足に重心移動をしたのち、前足に体重を乗っけていくことになります。
 
 松井選手は、肩甲骨を外転させて投手側に大きく引き寄せていくのですが、その引き寄せを行ないながらも肩と肘の位置は地面と平行に近くなります。そして前足を大きく投手側に移動させて、ここで初めて松井選手は両足のスタンスを広く取ります。そして、軸足の荷重量を保ったまま、重心を急激に低くしていきます。同時に、体幹はやや後方に移動する形です。結果、身体の軸が後ろにずれていくんですね。
 
――まっすぐあるべきものが、後ろに倒れていると?
 
中根 そういうことです。一方、清宮選手の場合はピッチャー側に向けた肩甲骨を引き寄せていく状態はもちろん保っています。しかし、松井選手と違いバットを高い位置で構えているんですね。結果、肩よりも肘の位置が大きく下がっているのです。
 
 また、清宮選手は松井選手に比べて前足への荷重量が最初から多いですね。松井選手は急激に後ろの軸足に重心を載せていくのですが、清宮選手の場合は、構えの時点から軸足となる左の股関節を外旋させてタメを作って待っていますし、急激な重心移動もありません。また、松井選手と違って体幹は地面とほぼ垂直な状態を保っています。
 
――だんだん見えてきました。松井選手に比べて清宮選手は動作が1つ少なく、重心移動も少ないのですね。

前足(蹴り足)がついた状態から、バットを振ってインパクトさせるまで

中根 いよいよ佳境に入ります。一度上げた前足をついて、バットをスイングさせ、ボールをインパクトさせるまでの動きの違いです。
 
 松井選手は、ここからさらに重心を低くしていきます。ここからピッチャー側への骨盤のねじれが始まり、軸足のひざとつま先の位置をピッチャー側にまっすぐ向けていきます。ひざのお皿が完全にピッチャー側に向くほど、深くひざを曲げています。 

 一方、清宮選手の重心はほとんど低くなりません。骨盤をねじる範囲が少ない他、軸足のひざやつま先はピッチャー側に対してやや外側に向いています。またひざを曲げる角度も松井選手より小さいですね。

――骨盤のねじれもそうですが、軸足のひざとつま先をなるべくピッチャー側に向けて、なおかつひざを深く曲げる。この動きが強烈なボールインパクトに繋がるわけなんですね。

中根 そうなんです。ただスイングの段階で松井選手は清宮選手より骨盤と背骨の胸の高さに位置する胸椎をピッチャー側にほぼ同時に、なおかつ早めにねじっています。結果、清宮選手より左の胸をピッチャー側に向けてしまうタイミングが早いのです。このため、せっかく骨盤と肩で作った割れから引き戻すエネルギーを存分に生かしきれていないように見えます。

――松井選手は骨盤と肩で作った割れから引き戻すエネルギーを生かしきれていないということですが、あの強烈なインパクトに繋がる要因は他にあるということですか?

中根 そうですね。清宮選手は骨盤・肩の割れから引き戻すエネルギーを最大限利用しているのに対して、松井選手は床反力と腕で押し出す力を最大限利用することでエネルギーを生み出している印象を受けます。松井選手は両足のスタンスを広くしながら重心を極力低くすることで身体のブレを安定させています。なおかつ体幹をやや後方に傾けることでピッチャー側に位置する蹴り足からの床反力を最大限利用し、骨盤・胸椎のねじれによるエネルギーをうまく引き出していますね。清宮選手の体幹軸が地面とほぼ垂直なのに対して、松井選手の体幹軸は後方に傾いた斜めの軸を作っています。あとは腕の力、とくにピッチャー側に位置する右腕の押し出しによるエネルギーが大きいでしょう。その証拠に右肘の位置は清宮選手より大きくピッチャー側に移動しているのがわかります。

――そうなると骨盤と肩で作った割れを最大限生かせるという清宮選手は柔軟性があるということですか?

中根 はい。松井選手が「剛」であるならば、清宮選手は「柔」といった印象ですね。上述しましたように清宮選手は松井選手ほど重心位置が低くなりませんし、体幹も後方に傾けません。体幹はほぼ地面と垂直に近い状態のままなのです。蹴り足からの床反力も後方ではなく、やや真上に伸び上がるように利用していますね。松井選手は骨盤と背骨の胸の高さに位置する胸椎をほぼ同時にねじり、なおかつ腕を強く押し出すようなバッティングでした。しかし清宮選手は骨盤のねじれから若干遅れて胸椎がねじれています。そうすることで股関節まわりの筋肉やおなかまわりの筋肉を強く働かせているのです。その動きに引かれるように腕の振りを連動させていますね。この動きが骨盤と肩の割れを作りながらギリギリまでボールを引き付け、割れから引き戻すエネルギーをうまくボールに伝えているということに繋がっています。こういった清宮選手の動きは非常に柔軟性が高いと思います。

――最近の清宮選手の動きが以前と明らかに変わったと思われる部分はありますか?

中根 そうですね。色々修正してきている部分はありますが、とくに目立つ点としては、かつての松井選手のように軸足のひざとつま先がピッチャー側に正対し、なおかつひざを曲げる角度が以前より大きくなっているところですかね。この動きにより骨盤を今まで以上にねじりやすい状態にできるため、今後さらに強烈なインパクトが期待できると思います。


中根正登(なかね まさと)
理学療法士(Physio Therapist)。中根まさとメディカル整体院(NMB)院長。医療・介護・スポーツ・美容・治療家業界にて年間1,500人以上の指導実績あり。症例件数は延べ4万5,000件強。トリガーポイント・関節系テクニック・東洋医学などを組み合わせ、オスグッド病をはじめとしたさまざまなスポーツ障害に対する施術を得意としている。プロサッカー選手(本田圭佑、宇佐美貴史、香川真司、ハメス・ロドリゲス、ポール・ポグバ選手)やプロテニス選手(錦織圭)をフィジカル的側面から分析し、サッカー専門誌やWEBといった各媒体に寄稿している。

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