■関東では地上波中継激減も、観客数は過去最多を更新

 世の中のプロ野球離れはガチなのか?

 今回はVICTORY編集部から、結構シリアスな原稿テーマが届いた。確かに一昔前と比較すると関東の地上波テレビから日常の野球中継が激減して久しいし、会社や学校の世間話で「プロ野球」が話題に上がる機会も減ったように思う。ちなみに数年前に会社勤めをしている頃、日本シリーズ期間は現地観戦のためによく有給申請していたのだが、周囲の同僚たちからは真顔で「海外旅行でも行くの?」なんて聞かれたものだ。これが昭和の時代なら日本シリーズは平日午後開催が当たり前、喫茶店や学校の視聴覚室でみんな仲良くテレビ観戦を楽しむおなじみの風景。83年の巨人vs西武の対決は連日視聴率40%超えと、まさにキング・オブ・エンターテインメントの国民的行事といった盛り上がり方だった。

 あの頃は凄かった。俺たちのプロ野球もう終わっちゃったのかなあ…って、かと思えば2017年シーズンのセ・リーグ観客動員数は1402万4019人で、史上初めて1400万人を突破した(1試合平均は3万2690人)。パ・リーグも1111万5444人で、優勝したソフトバンクは1試合平均3万5094人を動員。阪神タイガース日本一で爆発的に盛り上がった1985年、まだ実数発表前にもかかわらずパの観客動員数は約473万人(1試合平均1万2100人)だったことを考えると、球場観戦に出掛けるファンは近年増えており、NPB史上で今が最も観客数が多いと言える状況だ。各本拠地の環境も家族連れや女性も安心して楽しめるボールパーク化が進んでいる。

■球界再編後、日本全国の元・巨人ファンが地元のチームへ

 ただプロ野球離れと言っても、BSやCS放送、スマホやタブレットの動画配信とそれぞれのライフスタイルに合った方法で観戦できる現在において、テレビ視聴率を軸に野球人気を論じるのは無理がある気がするし、だいたい2000年代初頭までは“地上波プロ野球中継=巨人戦”という図式が一般的だった。

 古くはONの時代からテレビCM出演も盛んで、原辰徳は大正製薬、江川卓は不二家、松井秀喜は富士通や久光製薬、高橋由伸がサントリーとそれぞれ大企業の顔としてお茶の間を席巻(仮に坂本勇人や菅野智之があと20年早く生まれていたら同じく国民的スターになっていただろう)。いわば、どんな有名芸能人よりも頻繁に、毎晩ナイター中継とCMで登場していたのが当時の巨人選手たちだったわけだ。まだメジャーリーグも夢物語だった頃、結果的にそのメディア大量露出は日本全国に巨人ファンを増やすことになる。

 昨夏、山形で開催された巨人戦を観戦した際に会った現地の蕎麦屋のオヤジさんの言葉を借りると「私らが若い頃はテレビでジャイアンツ戦しかやってなかったし、他に選択肢がなかった」状態。それが球界再編で東北に楽天イーグルスがやって来て以降は、徐々に友人たちと地元に近い楽天を応援するようになったという。恐らく、一昔前は圧倒的に巨人人気が高かった北海道(日本ハム)や九州(ソフトバンク)でも同じような現象が起こっているはずだ。ちなみに地元にプロ球団のない前橋や松本開催の巨人戦チケットは昨年も即日完売していることも付け加えておこう。

 平成もすでに30年経過。時代は変わった。オヤジ系週刊誌やタブロイド紙といった旧メディアで度々語られる“プロ野球離れ”のイメージというのは、“世間の巨人離れ”と同義語だと思う。80年代中盤のパ・リーグでプレーしたある助っ人選手は日本で印象に残っていることを聞かれ、「どこでも巨人ファンがいること。タクシーの運転手、レストランも巨人ファンばかり。巨人が勝てば日本全体が幸せという感じ。あれは面白かった」とコメントしている。

 あの頃、世の中の多くの人は巨人戦中継を入口に他の球団の選手を覚えていった。プレーする選手も全国中継があるからと“打倒巨人”に燃える関係性。まあプロスポーツとして冷静に見たら、そんなジャイアンツバブル的な状況は異常だ。球界にとっては、12球団がフラットに近づいた今の状況の方が健全である。

■プロ野球伝統のスターシステムの終焉

 現在のプロ野球は以前と比較すると、熱心にペナント全試合を追いかけるコアなファンと、侍ジャパン戦くらいしか見ない一般のライトユーザーの二極化が進んでいると思う(特に東京近辺ではこの傾向は顕著だ)。つまり、適度に野球中継を眺め、友人と『ファミスタ』を楽しみ、各チームの選手を認知していた野球ファン中間層が減った。

 それを実感したのが、先日テレビ朝日で放送された『ファン1万人がガチで投票! プロ野球総選挙』という番組だ。エンゼルス移籍の決まった大谷翔平が多くの歴代レジェンドプレーヤーたちを抑え野手部門で4位、投手部門で1位に選出。この結果を受けて、ネット上の野球ファンからは番組に批判的な意見も多く見られた(もちろん大谷本人には何の非もない)。

 恐らく、今のプロ野球ライトユーザーにとって、スポーツニュースで最もよく見かける野球選手が“二刀流の大谷”ということだろう。そう、一昔前の巨人選手のようにである。良くも悪くも、ON時代から伝統のテレビカメラがひとりの選手を追い続ける、プロ野球の古き良きスターシステムは限界を迎えつつあるのではないだろうか。

 近年、野球中継の視聴手段が多様化し、自然とファンそれぞれの好みも細分化している。当然、数十年前の「みんなが巨人」と同じロジックで、「みんなが二刀流」的な番組構成は拒絶反応を生む。ただ難しいのが、同時に世間一般では「今のプロ野球と言ったら大谷翔平」と思う視聴者も少なくないということだ。

 プロ野球離れと言われる一方で、過去最多の観客を集める球場の風景。今後の課題は、いかに“コアなファン”と“ライトユーザー”の間の距離を縮めていくかだと思う。それを実現させた時が、昭和でも平成でもない、新時代のプロ野球の始まりだろう。

(参考資料)
『ベースボールマガジン 懐かしき外国人助っ人たち』(ベースボール・マガジン社)
『野球小僧リミックス プロ野球80年代大事典』(白夜書房)

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中溝康隆

1979年埼玉県生まれ。大阪芸術大学映像学科卒。 年間約50試合球場観戦をするライター兼デザイナー。 ブログ『プロ野球死亡遊戯』が累計7000万PVを記録し話題となる。 主な著作に『プロ野球死亡遊戯 そのブログ、凶暴につき』(ユーキャン)、『プロ野球死亡遊戯 さらば昭和のプロ野球』(ユーキャン)、『隣のアイツは年俸1億 巨人2軍のリアル』(白泉社)など。