コンテンツの拡大化に恵まれた条件が揃っていた

「コンテンツビジネスに関して、日本はすごく恵まれています。僕も海外に行くまで分かりませんでしたが、業界の人間はもっと自覚しないといけないと思います」

コンテンツを拡大化していくには、重要な要素が2つあると木谷氏は話す。世界でも有数の国内マーケットを持っていること、そして長い歴史を持っていることだ。日本はその両方に恵まれているといえるだろう。2014年から3年8カ月、シンガボールを拠点に活動した木谷氏だからこそ、その言葉には深みがある。

新日本プロレスは1972年の設立で、約40年間の歩みがある。コンテンツとしてすでに歴史があるということは、キャラクターを含めた引き出しの多さを持ち合わせていることを意味する。木谷氏はその重要性を語った。

「新日本プロレスで重視しているのは、エンターテインメントも、スポーツも、キャラクターとしてのストーリーが重要だということです。スポーツでも選手の顔(=キャラクター)が見えないと感情移入できません。喜んでいる姿、悲しんでいる姿をもっと見せていくことで、ファンが感情移入できる要素をつくっていく。スポーツ業界はそうした映像をもっとつくったら良いのではないでしょうか」

2012年に新日本プロレスを子会社化した時、内藤哲也をはじめリングの中で戦う男たちの魅力はすでに高く、また知名度も十分にあった。さらに、プロレスには過去映像に価値があるという特性上、テレビ朝日と権利を分けあっている映像資産があることも大きかった。

どんなコンテンツであっても、ゼロからその価値を生み出すのは簡単ではない。だが新日本プロレスにはこうした価値ある資産がいくつもあった。そしてそれを盛り立てるキャラクターたちも揃っていた。あとはそれをどう形として確立し、大きくしていくかが課題だった。木谷氏は自らに与えられた役割をこう語る。

「コンテンツを立ち上げる時によく使う例えですが、雪玉を転がして大きくするには、まずは雪玉をしっかりと硬くする必要があります。雪玉が柔らかいままだと、転がしても大きくなる前に崩れてしまいますよね。コンテンツも同じことです。まずはしっかりと硬くする必要がある。新日本プロレスはすでに硬くて大きな雪玉でした。あとはそれをどう転がして大きくするか、ということが必要だったのです」

カードゲームを中心にさまざまなエンターテインメントを手掛けてきた株式会社ブシロード。これまで数多くのキャラクターコンテンツを手掛けることに成功してきた木谷氏の新たな挑戦だった。

(C)小林靖

「スポーツビジネスは映像ビジネス」という考え

木谷氏が経営に関わり始めた2012年の新日本プロレスの売り上げは約11億円と、米国で絶対的な人気を誇るWWEに約48倍の差を付けられていた。2017年には売り上げを約38億円まで伸ばし、その差は約21倍にまで縮まったが、放映権収入は約73倍、ネット動画配信収入は約65倍と、メディア収入の分野ではいまだ大きく差を付けられている。新日本プロレスのメディア収入が売り上げ全体の20%程度であるのに対し、総売り上げ801億円を誇るWWEでは60%以上を占めている。

興行数や席数など伸ばすことに限界のあるチケット収入といったアナログではなく、デジタル分野は掛け算で伸びる可能性を持つ。会場での体験価値を高めて来場者を楽しませることはもちろん重要だが、そこだけにこだわっていては海外との差が開き続けてしまう時代に突入している。

「スポーツビジネスは、イコールと言ったら失礼かもしれませんが、かなりイコールに近く、“映像ビジネス”だと考えています。放映権やプロモーション、広告などさまざまな映像の使い方がありますが、映像をどう上手に活用していくかでビジネスの広がり方が変わってくると思います」

当初は積極的な広告展開や選手のメディア露出など、とにかく“流行している感”を演出することを目標にしてきたが、2014年に新日本プロレスワールド(※)が始まってからは、“映像ビジネス”を強く意識するようになったと木谷氏は言う。
※新日本プロレスワールド:新日本プロレスとテレビ朝日が共同で運営する有料インターネット視聴サービス

WWEのビジネスを分析するとさらに浮き彫りになったのが、デジタル広告収入だ。SNSの広告スペースの無料プラットフォーム上で、動画再生数を伸ばすことが新たな利益を生み出す。YouTubeで一番再生回数が多いWWEがYouTubeから得ている広告収入は約20億円を超えているだろうと木谷氏は言う。

WWEが誇る良いビジネスモデルを取り入れる一方で、米国スポーツ中継に迫る放映権バブル崩壊の恐れへの危惧も怠らない。放映権料は横ばいのままだが、売り上げを伸ばしているWWEの現状を緻密に分析することで今後の展開を模索する。

(C)小林靖

デジタルの延長戦上にあるグローバル展開

「エンターテインメントの世界は今どんどんデジタルの活用を始めています。デジタルとなればオンライン、オンラインとなればグローバルへと繋がる時代です。そうした延長線上に海外展開がありました」

米国の投資家であり、NBAのダラス・マーベリックスのオーナー、マーク・キューバン氏がオーナーを務めるテレビ局のAXS TVではレギュラー放送が行われており、実況に起用されているのはWWE殿堂入りのジム・ロスと元UFCヘビー級のジョシュ・バーネットと格闘界では知名度の高い2人だ。そして全米アパレルチェーンHOT TOPICの全店で、グッズが展開されている。プロレスはもともと団体同士が親密な関係性を築いているという背景も、海外戦略において有利に働いたことを木谷氏は加えた。

2018年1月4日、東京ドームで開催された大会、「ブシモ 5th ANNIVERSARY WRESTLE KINGDOM 12 in 東京ドーム」では動画サービスが過去最高の伸びを記録。 今では米国からの動画サービス会員数が日本の5万人に迫る、4万人を超える。この大会のハッシュタグもツイッタートレンド世界一を獲得した。

2017年7月からは米国へ本格進出。同月ロングビーチで開催された大会では、2日間合計4500枚のチケットが2時間で完売した。さらに今年2月に行ったオーストラリアツアーも大盛況 。そして3月25日にロングビーチで開かれる次回大会のチケット5000枚は10分で完売した。その他、台湾、東南アジア、オセアニア、ヨーロッパ、メキシコでも興行を開催している。

「単に海外で主催興行をやるだけではなく、映像を効果的に使うことでお客さまも入り、Tシャツなどのマーチャンダイズの売り上げも増える。それが結果ゲート収入に繋がるという構造が生まれます」

新人発掘が課題としてあがる新日本プロレスにとって、海外展開はさらなる成長を遂げるためには必要不可欠だ。明確なアマチェアが存在しないプロレスという競技の特性上、海外は新人集めをする上で重要な拠点となる。それは、他のスポーツにはない利点でもあるという。

「プロレスにおいて外国人選手は助っ人ではなく、いわば日本人やアメリカ人、その他の外国人も含めた合同ライブだと考えています。こんなコンテンツは他にありません。両国国技館で試合を開催する時も3分の1または4分の1以上は外国人選手が出場する。そうなると北米マーケットを取ることができる。アメリカで大会を行う時も出場選手の半分は外国人選手です。プロレス人気が高まっているイギリスなどもうまく取り込んでいくことも考えられる。未来を見据えた時、いかにしてグローバルコンテンツへと育てていくことができるかです」

最後に触れておくべきはローカルコンテンツとしても130公演のうち半分は国内の地方で開催していることだ。グローバルへの展開にスポットを当てたが、それをローカルでの草の根活動が支えているのは言うまでもない。「ローカルコンテンツとして今までの歴史をいかに残していくか。グローバルとローカルを一生懸命にやることが大事」と語るように、両輪を合わせることで新日本プロレスの拡大は実現している。木谷氏が掲げる目標は売り上げ100億円。どこまで雪玉を転がしていくのか、新日本プロレスの挑戦は続く。

<了>

(C)小林靖

[PROFILE]
木谷高明
株式会社ブシロード取締役・新日本プロレスオーナー
1960年生まれ、石川県金沢市出身。武蔵大学経済学部を卒業後、山一證券を経て、1994年にブロッコリーを設立、2001年にJASDAQ上場を果たす。2007年、ブロッコリーを退社し、株式会社ブシロードを設立。2012年には新日本プロレスリングの全株式を取得。2017年よりブシロード代表取締役を退任し、取締役に就任。コンテンツ開発の最高責任者として自ら最前線に立ち辣腕を振るっている。

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新川諒

1986年、大阪府生まれ。オハイオ州のBaldwin-Wallace大学でスポーツマネージメントを専攻し、在学時にクリーブランド・インディアンズで広報部インターン兼通訳として2年間勤務。その後ボストン・レッドソックス、ミネソタ・ツインズ、シカゴ・カブスで5年間日本人選手の通訳を担当。2015年からフリーとなり、通訳・翻訳者・ライターとして活動中。