契約できるのは1業種につき1社のみ

日本代表の挑戦は終幕を迎えてしまったが、2018FIFAワールドカップロシアの戦いはこれからが佳境を迎える。アルゼンチンとブラジルという南米勢がそろって敗退し、欧州の4カ国が顔を並べる史上初めてとなった大会は、ますます目が離せない。

試合を見ていて思わず目で動きを追いかけてしまうのが、ピッチの周囲に巡らされた広告看板だ。昔は企業名や商品名が書かれた看板が立ててあるだけだったが、今では電光掲示板となり、企業名が次々に映し出される仕様に。誰もが知っている世界的企業がある一方、なじみの薄い企業名も掲出される。「蒙牛」とは何の会社なのだろうか。「帝牌」とはいったい? W杯やFIFAにはどのように関わっているのだろうか。

FIFAは様々な企業とスポンサー契約を結んでいる。契約形態によって複数のランクがあり、最上位は「FIFAパートナー」。FIFAが主催するすべての試合やイベントで広告の掲出や周辺ビジネスができる権利が与えられるもので、契約料は総額で数百億円規模に上る。現在、FIFAパートナーに名を連ねている企業と契約年数、契約料は以下のとおりである。

・adidas(スポーツメーカー):2009年~2014年、総額約350億円
・VISA(クレジットカード):2006年~2014年、総額約160億円
・Coca Cola(清涼飲料水):2005年~2012年、総額約550億円
・HYUNDAI(自動車):2014年~2022年、総額約345億円
・大連万達集団(ワンダ・グループ/複合企業):2016年~2030年、金額不明
・Qatar Airways(航空会社):2017年~2022年、金額不明
・Gazprom(天然ガス):ロシアW杯限定で2015年~2018年、総額約98億円~123億円

契約できるのは1業種につき1社のみ。契約年数や契約料は企業によって様々だが、FIFAはこれらの企業から年間200億円以上の収入を得ている。ワンダ・グループは中国で不動産や映画産業などを展開するコングマット企業。アトレティコ・マドリーに出資するなどサッカー界にも進出しており、今回のW杯で広告が掲出されたことで、企業ロゴが世界中で認知された。その影響力は今後さらに拡大していくと予想される。カタール航空の契約は、自国で開催される2022年大会を睨んでのものだろう。両社がFIFAにいくら支払うのかは明らかになっていないが、「FIFAパートナー」の契約料は年間20億円~50億円ベースと言われているので、それに準じた額になっているはず。サッカー界での影響力を強めるために、さらに高額の契約を結んでいてもおかしくはない。

5社がワールドカップスポンサーとして契約

これに次ぐカテゴリーは「ワールドカップスポンサー」。契約期間中に行われるW杯に直接かかわれるスポンサーとしての権利が与えられる。ロシアW杯で「ワールドカップスポンサー」に名を連ねているのは、以下の5社である。

・Anheuser-Busch InBev(ビールメーカー)
・McDonald's(ファストフードチェーン)
・海信集団(ハイセンス/電機メーカー)
・蒙牛乳業(乳製品メーカー)
・Vivo(スマートフォンメーカー)

1番目のAnheuser-Busch InBev(アンハイザー・ブッシュ・インベブ)はベルギーに本社を置くビールメーカー。元々は「インベブ」社だったが、2008年にアメリカの「アンハイザー・ブッシュ」社を買収して現在の社名になった。「アンハイザー・ブッシュ」社の人気銘柄であるバドワイザーはW杯のオフィシャルビールとなっており、2022年カタールW杯まで契約が継続されている。マクドナルドはオリンピックのオフィシャルスポンサーも務めていたが、こちらは2017年6月に撤退を発表。現在はW杯のオフィシャルレストランとなっている。そしてハイセンス、蒙牛乳業、Vivoの3つはいずれも中国の企業。冒頭で名前を挙げた蒙牛乳業は乳製品メーカーで、スタジアムで販売されているヨーグルト飲料やアイスクリームはすべて同社の製品だ。ハイセンスはテレビや冷蔵庫の製造で有名な電機メーカー。2017年11月には東芝映像ソリューションの株式の95パーセントを取得し、日本でも知名度が高まった。Vivoの格安スマートフォンはアジア各国で爆発的人気を誇っている。今回のW杯で、3社とも世界的知名度は一気に高まったと言えるだろう。

ソニーが契約更新せず、日本の企業はゼロに

「FIFAパートナー」、「ワールドカップスポンサー」に次ぐカテゴリーが「リージョナルサポーター」。ヨーロッパ、北米、南米、中東、アジア(中東以外)の5つの地域におけるチケットの優先的配分や所在地域におけるブランド広告権が与えられるもので、今大会ではヨーロッパで4社、アジアで3社、アフリカで1社が契約を結んでいる。

◆欧州地域
アルファ銀行(民間商業銀行)
アルロサ(鉱山会社)
ロステレコム(通信会社)
ロシア鉄道(鉄道会社)
◆アジア地域
帝牌(ダイキング/服飾メーカー)
LUCI(システム開発会社)
雅迪(ヤディア/電動バイクメーカー)
◆アフリカ地域
エジプト政府観光局(観光)

アルファ銀行、アルロサ、ロステレコム、ロシア鉄道の4社は、「欧州」にカテゴライズされてはいるが、いずれも開催国ロシアの企業。一方、アジアの3社はいずれも中国企業だ。「帝牌」は仰々しい名前だが、実は紳士服メーカーだった。ちなみに、「ワールドカップスポンサー」は年間10億円から25億円、「リージョナルサポーター」は年間5億円から10億円の契約料とされている。

それにしても目を引くのは中国企業の多さだ。3つのカテゴリーで合計7社が名を連ねており、ロシアW杯の期間中だけで総計約900億円が中国企業からFIFAに支払われたと言われている。中国代表チームは今大会への出場を逃しているため、現地では「W杯に出ていないのは代表チームだけ」などと揶揄されているようだが、大のサッカー好きとして知られる習近平国家主席の影響力の強さが見て取れる。今大会において漢字の広告がやたらと目に付くもの、ある意味、当然のことなのだ。

我々にとって寂しさを感じるのは、日本の企業が全く含まれていない点だ。2007年から2014年ブラジル大会まではソニーがFIFAパートナーを務めていたが、その後、契約は更新せず。当時のFIFAには2022年大会の開催地決定を巡る汚職疑惑があり、スポンサーを続けていると企業イメージが損なわれる可能性があると判断しての撤退だったという。同時期にエミレーツ航空やジョンソン&ジョンソンなども撤退したため、FIFAは一気に財政危機に陥ったが、それを救ったのが中国企業だった。ロシアで開催されている大会ではあるが、中国の存在なくして成り立たない大会でもあると言えるだろう。

総額80兆円! 中国のスポーツ投資に、日本はどう対抗すべきか。特別寄稿:岡部恭英

国策としてスポーツ産業の拡充が進む中国、その予算総額は2025年までにGDPの1パーセント、約80兆円にのぼるとも見られます。すでに中国のクラブはブラジル代表やアルゼンチン代表など多くの有力選手と契約し、アジア・チャンピオンズリーグでも上位の常連に食い込んでいます。そんな「マネー」「スピード」「スケール」を誇る「トップダウン型」の中国に対し、日本はどう対抗すべきなのでしょうか? VICTORYプロクリックスである岡部恭英(おかべ・やすひで)さんに寄稿をいただきました。

VICTORY ALL SPORTS NEWS

ベルギーサッカーに学ぶ、怪物育成術。なぜ次々とワールドクラスが生まれるのか

2002年日韓W杯での対戦から15年。「赤い悪魔」ベルギー代表は、怪物の集団へと変ぼうした。チェルシーの攻撃を牽引する欧州屈指のドリブラーエデン・アザールを筆頭に、マンチェスター・ユナイテッドの前線に君臨するロメル・ルカク、マンチェスター・シティの中核としてバロンドールすら射程に捉えるまで成長したケビン・デ・ブライネ。黄金世代に加え、モナコのユーリ・ティーレマンス(20歳)のように、若い世代も育ってきている。怪物を生む育成システムには、幾つかの重要な鍵が隠されている。(文:結城康平)

VICTORY ALL SPORTS NEWS

海外から見る、日本のスポーツメディアへの違和感。特別寄稿:岡部恭英

先日、ある選手がミックスゾーンで喋ったコメントが恣意的な抜き出し方をされ、多くの批判にさらされるという事案がありました。これに限らず、現場の大小問わず「スポーツメディアは信用できない」という意見を頂戴することは一度や二度ではありません。弊媒体含め、発展すべき余地が大きいのが日本のスポーツメディアの実情だと思います。今回は「日本のスポーツメディアは外側からどう見えるのか」をテーマに、UEFAチャンピオンズリーグに携わる岡部恭英氏に寄稿を依頼しました。(文:岡部恭英)

VICTORY ALL SPORTS NEWS

「0対1」の敗戦は、未来へと繋がる究極の「プロフェッショナリズム」だ

FIFAワールドカップ2018、グループステージ最終戦、日本代表はポーランド代表に0対1で敗れたものの、勝ち点、得失点差、総得点で並んだセネガル代表をフェアプレー・ポイントでかわし、決勝トーナメント進出を決めた。だが、この試合における日本代表のプレーについては、国内外でも賛否が分かれている。「プロフェッショナリズム」とは何か? 「フェアプレー」とは何か? ノンフィクションライターの藤江直人氏に執筆をお願いしました。(文=藤江直人)

VICTORY ALL SPORTS NEWS

「走れる=良い選手」なのか? 専門家に訊くスポーツデータの見方、初歩の初歩

映画「マネーボール」が公開されて以来、スポーツの現場で様々なデータの利活用が行なわれるようになった。テレビを中心としたメディアも、中継時に多くのデータを提供している。ただそのデータの多くは、専門的な見地から見るとあまり役に立たないものが多い。そもそも、「本当に役に立つデータ」と「役に立たないデータ」の違いとは何なのか? データ分析の専門家である吉原幸伸氏に執筆を依頼した。(文:吉原幸伸)

VICTORY ALL SPORTS NEWS

池田敏明

大学院でインカ帝国史を専攻していたが、”師匠” の敷いたレールに果てしない魅力を感じ転身。専門誌で編集を務めた後にフリーランスとなり、ライター、エディター、スベイ ン語の通訳&翻訳家、カメラマンと幅広くこなす。