16歳でメジャーと契約を結ぶ決断をした結城海斗

メジャーリーグ、カンザスシティ・ロイヤルズが16歳の日本人投手、結城海斗と契約を結んだ。

契約年数は7年、契約金は32万2500ドル(約3550万円)だという。

ただ、驚くべきはその契約年数や金額ではない。今春、中学を卒業したばかりの16歳の少年が、日本の高校に進まずに海を渡る決断を下したことだろう。

大阪府羽曳野市出身の結城は中学時代、河南リトルシニアに在籍。身長188cm、直球の最速は144kmという、いわゆる「スーパー中学生」だった。当然、野球強豪校からの誘いも多くあったというが、高校には進学せず、アメリカへの野球留学を決断。ロイヤルズとの契約がなくても、海を渡る準備を進めていたという。

彼が下した決断は、日本球界の未来に大きな影響を及ぼす可能性がある。

ここでは、史上最年少の16歳でメジャーと契約を結んだという「事実」が、今後どのような未来へとつながっていくのか多角的な視点で考えてみたい。

価値観の多様化は、選手に多くの選択肢と可能性を与える

このニュースを見た時、率直に「素晴らしい決断だ」と感じた。同時に「ついに、こういう子が現れたのか」と時代の流れを感じもした。

結城海斗が生まれたのは2002年。生まれる前年にはイチローがメジャーデビューを果たし、翌年には松井秀喜がヤンキースに移籍。日本が優勝を果たした第1回WBC開催時も、彼はまだ3歳だった。

日本人がメジャーリーグ、世界を相手にプレーするのが当たり前となった時代。そんな時代に生まれ、育ってきた彼が、メジャーリーグに憧れを抱くのは当然だろう。野球以外にも、多くのアスリートが世界を舞台に戦うようになった現代、「甲子園より、アメリカで野球がやりたい」という、これまでとは違う価値観を持つ選手が現れたのも、必然といえる。

日本球界からメジャーリーグを目指す場合、ドラフトで日本のプロ野球チームに入団し、実績をつくり、ポスティングやFAで移籍するというのが一般的だ。

実際にイチローも、松井秀喜も、松坂大輔も、ダルビッシュ有も、大谷翔平も、この道を通って海を渡っている。

日本のプロ野球を経ずにメジャーの舞台にたどり着いた日本人選手は過去、マック鈴木(鈴木誠/元ロイヤルズほか)、多田野数人(元インディアンス)、田澤純一(現エンゼルス)の3人しかいない。

過去の統計を見れば、やはりメジャーの舞台で活躍するには、日本のプロ野球を経て移籍する方が、より「確実」なのは間違いない。

しかし、である。

それでもやはり、才能ある若い選手が早い時期からメジャーの育成環境下でプレーすることで、どんな選手へと成長するのか――。一野球ファンとして期待せずにはいられない。

彼が下した決断は、過去に菊池雄星、大谷翔平が「選べなかった道」だ。

高校卒業後、日本のプロを経ずにメジャーへ行くことも考えたふたりは結局、日本球界にとどまる決断を下した。その後の成長を見ればその決断は「正解」だったように思えるが、どこかでこんな思いも抱いてしまう。

「もし彼らが18歳から海を渡り、メジャーで育成されたら、今よりもさらにすごい選手に成長していたのではないか……」

もちろん、野球の世界で「たられば」はご法度だ。彼らがドラフト時、海を渡る決断を下していたとしても、どうなっていたかは誰にも分らない。

ただ、結城海斗のように新しい価値観を持ち、それを行動に移す決断力を持った選手が現れたことを、野球界はプラスと捉えていいはずだ。

確かに、リスクは大きいかもしれない。ただ、いつの時代もパイオニアにリスクはつきものだ。

16歳から海を渡ることを「正解」だとは言い切れない。ただ、選択肢が増えることは悪ではない。

有望な中学生が強豪校に進み、甲子園で活躍。ドラフト上位でプロ入りして数年後にはレギュラーに定着。一定期間の活躍を経て、メジャーに進む――。

いわゆる王道と呼べるルートが一本しかないのは、選手の可能性を狭めることにもなりかねない。

価値観の多様化が当たり前になった現在、未来ある野球少年へ拓かれた道は、多ければ多いほどいい。

未成年選手の国際移籍に関するルール・制度の充実が必要になる

その一方で、危惧しなければいけない問題もある。ひとつは、「甲子園よりアメリカ」を選ぶ選手の出現を、日本球界がどう捉えるかということだ。真夏に行われる過酷な連戦、いまだになくならない「勝利至上主義」、一部で物議をかもしている坊主頭問題など、ジュニア世代の「野球離れ」は深刻化している。日本の人口減よりも速いペースで減り続けている野球人口をどう考え、改善していくのか。

田澤ルール(※)のような締め付けは論外だ。
(※ドラフトを拒否して海外のプロ野球団と契約した選手が、退団後も一定期間NPB所属球団と契約できない)

選手の将来ではなく、球団の将来を優先させるようなルールは、逆効果といっていい。

日本の野球界が持つ「保守的」な体質は、現代の子どもには正直いって、合わない。

例えば、サッカーやバスケットボールなど、その他の競技は野球と比較して、有望選手の海外移籍に寛容に思える。日本のプロチームを経ずに海外に進出する選手がいても、「Jリーグ、Bリーグの危機」といった風潮にはつながらない。

その寛容さがある意味、競技人口へとつながっているようにも思える。

野球界も、将来的に結城海斗がメジャーで成功したとしても、有望な中学生が全員、高校野球ではなくメジャーを選ぶことにはならないはずだ。

だからこそ、日本の高校野球界、さらにはプロ野球界には、一定の寛容さを見せつつ、競技の魅力を子どもたちに伝えることを最優先させてほしい。

もちろん、若い世代の海外進出には一定の歯止めも必要だ。サッカーの世界ではFIFAが18歳未満の国際移籍に対して、多くの制限を設けている。これは決して選手の夢をつぶすといった方向性ではなく、資金力のあるクラブによる未成年選手の囲い込みや乱獲を抑えるための制度だ。10歳でスペイン・バルセロナに移籍した久保建英は現在、日本に帰国してFC東京でプレーしているが、これはクラブが未成年の移籍ルールに抵触したとしてスペインで試合に出場できなくなったことが原因だった。

実はメジャーリーグでも、若い世代の選手に対する「乱獲」が問題になりつつある。高校、大学、社会人、プロと各カテゴリが充実する日本ではまだ馴染みがないが、中南米には10代から母国を離れ、メジャーの球団と契約する選手が数多く存在する。

結城と契約したロイヤルズも、今年に入って同じ16歳でドミニカ共和国出身のカンデラリオ選手を契約金85万ドル(約9350万円)で獲得している。

選手の青田買いと、それに伴うマネーゲーム防止のため、メジャーでは25歳未満の海外選手獲得について契約金に上限(575万ドル)を設けたインターナショナル・ボーナス・プールという制度を設けてはいるが、現時点でどこまで機能しているかは疑わしい。

結城海斗を含め、若い選手には無限の可能性が秘められている。その一方で、高校にも行っていない選手の国際移籍は、選手の将来を大きく歪めてしまう危険性をはらんでいるのもまた事実だ。

成功してほしいという思いがあるのは大前提だが、それ以上に、彼らのような若い世代の選手に対して、その後の選手生活、もっといえば退団後のケアも含めた制度の充実が、野球界には必要になってくる。可能であれば、日米、さらには中南米諸国とも連携した国際ルールを設けるのが理想的だ。

選手たちに多くの選択肢を与えるのは大賛成だが、その選択をさせた野球界には、大きな責任が伴うことも、忘れないでほしい。

<了>

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花田雪

著者プロフィール 花田雪

1983年生まれ。神奈川県出身。編集プロダクション勤務を経て、2015年に独立。ライター、編集者として年間50人以上のアスリート・著名人にインタビューを行うなど、野球を中心に大相撲、サッカー、バスケットボール、ラグビーなど、さまざまなジャンルのスポーツ媒体で編集・執筆を手がける。