侍ジャパンは日本野球を代表する存在か?

稲葉篤紀監督率いる“侍ジャパン”が、3月3日、4日、オーストラリア代表と親善試合を行い、いずれも相手打線を零封し連勝した。

4日の『サンデーモーニング』(TBS系列)で張本勲さんが、「何のために日本代表の試合をやるのかよくわからないよ」と疑問の声を上げた。それ以外のメディアはおおむね日本代表を応援するトーンで報道している。

今年はちょうど“空白の年”。オリンピックもない、WBCもない、プレミア12もない。だからこそ、できるだけ代表の試合を設定しないと「常設ジャパンの意味がない」「意識、チーム力も上がらない」というのが、NPB(日本野球機構)の思いだろう。

シーズン開幕を控えたこの時期に試合をやる必要があるのか、ないのか。侍ジャパンを日本野球の頂点と位置づけた以上、どんな時期であれ、試合があっても不思議ではないと私は思う。だがもっと根本的な意味で、侍ジャパンが「頂点にあるチーム」に相応しい格を備えているのか、意味を果たしているのか、そこが問題だ。

日本代表は、ジュニア、アマチュア、プロ、すべての日本野球チームの頂点に立つ、トップチームだ。その監督も、同様にすべての野球指導者の“鑑”となるのが本来の姿ではないだろうか。

日本代表が指針になるサッカーと「メッセージを持たない」侍ジャパン

サッカーの代表監督が、サポーターはもとより、選手からも指導者からも厳しい批判を浴びるのは、通常は次のワールドカップまでの間、代表監督の意向が日本サッカー界の指針となるからだ。もちろん、日本中のすべてのチームや選手が、代表監督の求めるサッカーに従う必要はないが、影響力は大きいし、日本代表を愛すればこそ、そのサッカーを追従することが、日本サッカーへの忠誠でもある。

野球の世界で育った私が驚嘆したのは、イビチャ・オシムが日本代表監督に就任し(2006~07年)、「走れ、走れ」と、シンプルだが明快で熱いメッセージを発信した直後の日本の風景だ。ジュニアのサッカーチーム、高校生チーム、草サッカーのプレーヤーまでが、真剣に走り始めた。サッカーウエアに身を包んで街を走る姿にもしばしば出くわすようになった。彼らがオシムの「走れ」というメッセージの真の意味を理解していたかどうかはまた別の話だが、それが日本代表監督の影響力なのだと、頭が下がる思いだった。

いま侍ジャパンの稲葉監督は、オシムのような影響力を持っているだろうか? 明確なメッセージを発しているだろうか?

選手選考、目の前の試合の勝ち負け、采配ばかりを評価され、「いまのところOK」という支持の集め方をしているように感じる。日本中の野球選手と指導者に影響を与える迫力、明確なメッセージはない。

(C)Getty Images

監督人事の是非すら論争にならない“無風”の侍ジャパン

例えば、女子レスリングでいま騒ぎになっているパワハラ問題。その温床は野球界にも通じる。野球の指導者はいま徹底して「上から目線」の指導を改め、選手との接し方、自分の立ち位置そのものを猛烈に反省し、変える努力が求められている。頂点にある侍ジャパンの監督がそれを発信すれば、野球界の明確な方向性となり、「日本中が変わる」可能性がある。だが、そもそも、球界はそんな影響力やメッセージの発信を稲葉監督に求めていない。

小久保裕紀前監督もそうだった。現役引退後、一度も監督を経験していない元選手が、監督を務める。通年で契約できる人材となると、候補が限られるといわれる。多くのスポンサーを集めるために、若々しくクリーンなイメージの人が優先されている感もある。

消去法ではなく、もし確信を持って稲葉監督を起用しているなら、球界はもっと明確なメッセージを出すべきだろう。
「もう古い人に任せる時代じゃない。監督の実績がないことをプラスにする。新しい監督像をつくり、日本中に発信するため、自信を持って稲葉篤紀監督に託しました!」
とでも言えば清々しい。だが、そこまでのメッセージはない。

フレッシュでよい、選手と年齢が近いので風通しがよい、といった利点もあるけれど、これがサッカーならば、「だったら『23歳以下の日本代表』やユース世代のチームに相応しい」という声がきっと上がるだろう。

「頂点」である侍ジャパンの監督が「未経験者」という人選はありえない、と息巻く声も個人的には耳にする。だが、こういった疑問の声は、球界ではほとんど大きくならない。メディアが音頭を取って、改革への動きを進める姿勢もない。これがサッカーなら、大きな疑問の声がすぐ上がるのではないか。

ファンが議論を諦めた野球界に未来はあるのか?

それが野球ファンのお行儀の良さともいえるが、長年、ファンの声などほとんど通じない、プロ野球は読売を中心とする長老たちに、高校野球は高野連に支配され、普通なら「おかしいぞ」と思うことでも黙って受け入れ、ただ目の前の試合を楽しむことに終始し続けてきた『野球界の空気』『ファンの習性』。そのために、選手たちや野球界全体が多くの不利益を被っていることも、見殺しにされている。『江川事件』『選手会によるストライキ』『近鉄消滅に伴う球界再編問題』の時はさすがに球界も議論に揺れた。高校野球では『特待生問題』があった。だが、いずれの場合も、結局は何事もなかったように、ほとんど旧態依然の態勢は変わっていない。

そんな歴史もあって、ファンもメディアも見事に飼い馴らされ、物を言わない忠実な被支配者になっている。だが実際には、そのような馬鹿馬鹿しさを感じるファンの多くは野球から気持ちが離れていった。

このままでいいのだろうか?

<了>

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小林信也

著者プロフィール 小林信也

1956年生まれ。作家・スポーツライター。人間の物語を中心に、新しいスポーツの未来を提唱し創造し続ける。雑誌ポパイ、ナンバーのスタッフを経て独立。選手やトレーナーのサポート、イベント・プロデュース、スポーツ用具の開発等を行い、実践的にスポーツ改革に一石を投じ続ける。テレビ、ラジオのコメンテーターとしても活躍。主な著書に『野球の真髄 なぜこのゲームに魅せられるのか』『長島茂雄語録』『越後の雪だるま ヨネックス創業者・米山稔物語』『YOSHIKI 蒼い血の微笑』『カツラ-の秘密》など多数。