MLBの観客4%減、1試合平均2万8830人の衝撃

史上初の2試合のワンデープレーオフで終了したMLBのレギュラーシーズンですが、報道によると今季の観客動員数は1試合平均2万8830人。昨季と比べると約4%減少したことが明らかになりました。MLBのロブ・マンフレッド コミッショナーは「このような困難な事態は初めてだ」と、3万人を切った観客動員数に危機感を募らせています。

「このニュースは非常に気になりますね。アメリカで起きたことは日本でも起こる可能性が高いんですよ。特に悪いことは」

横浜DeNAベイスターズの黒字化、観客数増に大きく貢献した初代球団社長の池田氏は、日本ではそれほど大きく報道されなかった「MLBの観客数減」というニュースに大きな関心を持っているといいます。

「平均3万人を切ったのは2003年以来です。日本でも“野球離れ”がいわれていますが、アメリカでは一足早くこうした現象が表に出てきた印象です。日本のプロ野球では今のところ観客動員数は好調ですが、この問題は将来のことを見据えて考える必要があります」

池田氏の指摘通り、2018シーズンのNPBの観客動員数は順調に推移していて、9月の時点でセ・リーグが1.6%増、パ・リーグは2.3%増と両リーグともに増加しています。

「MLBの観客数減は複数の要因があると思いますが、移民を中心にサッカー人気が定着し、これからラグビーのプロリーグも立ち上がろうとしていて、スポーツエンターテインメントが多様化し、ファンの興味も分散するようになっています。今季のNPBレギュラーシーズンの観客動員数は、1試合平均約3万人。横浜スタジアムだと最大で3万人、東京ドームや甲子園、ヤフオクドームなら4~5万人収容できます。アメリカのスタジアムは規模がもっと大きい。それで3万人を切るというのは、結構寂しい数字ですよね」

アメリカで起きたことは日本でも起きる! 観客数増でも安心できないNPB

マンフレッド コミッショナーは、「天気が悪かったこと」を観客数減の主因として挙げています。たしかに44試合が雨天順延になるなど、天候不順が客足に影響を与えた可能性は否定できませんが、米メディアは、戦力不均衡による上位チームと下位チームの戦力差が大きかったこと、レギュラー放出、若手への切り替えで最下位に沈んだマイアミ・マーリンズのように、再建期にあるチームが多かったこと、「フライボール革命」による三振増などさまざまな要因が挙げられています。

「理由はたくさんあると思いますが、スポーツエンターテインメントの多様化によって選択肢が増え、MLBが安泰ではなくなったというのは紛れもない事実だと思います」

長らくアメリカ4大スポーツの一角として「国民的娯楽」の座にあったベースボールですが、人気、知名度を飛躍的に高め、投資家からも熱視線を浴びるようになったメジャーリーグサッカー(MLS)の台頭など、他競技にそのシェアを奪われつつあります。戦力不均衡や試合内容については数年で解決することも可能ですが、競合競技とのシェア争いは長期展望に立って考えなければいけない問題です。

「この問題は日本でも同じ傾向にあります。ここ数年を見ればプロ野球の観客動員数は増えていますが、バスケットボールのBリーグが徐々に浸透してきて、今月には昨今人気が高まりつつある卓球のTリーグが開幕します。ほかにもこれまでは“マイナー”とされてきたスポーツが東京2020オリンピックでの注目もあって、どんどん露出を高めています。選択肢が増えているのはアメリカも日本も同じ。だから、MLBで起きた4%減が日本でも近い将来現実になる可能性は十分あるわけです」

鍵を握るのは将来需要の掘り起こし 若者と子どもたちへの露出、接触、浸透

近年、MLBの観客動員数は、苦戦をしながらなんとか横ばいを保ち、平均3万人のラインを保ってきましたが、2018シーズン、ついに2万人台に突入した経緯があります。

「4%減で3万人を切りました。このまま何もしなければ、毎年、毎年4%に近い減少率が続いて、10年後、20年後には平均1万人台になるなんてこともあり得ない話ではありません。日本も“野球一強時代”がすでに過去のものになって久しいわけですが、若年層、少年・少女に対してのアプローチができなければ、ある時点から急激に観客動員数が減り、野球が見向きもされない時代が来るかもしれません」

池田氏は、ジワジワと進行する“野球離れ”に抗するには、「いま野球を観に来ている年代層」だけでなく、「新たにスタジアムに足を運ぶ」若年層や「将来お客さまになる」、または「野球をプレーで支える」子どもたちへのアプローチしかないといいます。

「若年層や子どもたちへの露出を高め、接点を増やし、浸透させていく。特にいまは少子化によって少なくなっている子どもへの“投資”として、両親や祖父母の3世代が興味、関心を共有する傾向が高まってきています。“野球離れ”に歯止めをかけるには、まずは減少率を下げること。『将来的に減っていくものを減らす』ことが重要です」

MLBの観客数減は一時的なものなのか、それとも静かに進行する“野球離れ”の表れなのか? MLBは、平均観客動員数4%減、3万人を下回ったことで、大きな危機感を抱いているといわれています。これまで幾度となく危機を乗り越えてきたMLBがどんな対策を見せるのかは、日本球界にとっても“先例”という意味で注目です。

<了>

取材協力:文化放送

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VictorySportsNews編集部