地方大会から甲子園大会までの投手の過度の負担については、この数年問題視されるようになった。昨年は、秋田・金足農業高校の吉田輝星投手(現・日本ハム)が地方大会を含めると1517球を投げたということでクローズアップされ、今年は大船渡高校の佐々木朗希投手が岩手県大会の決勝での登板を回避したことで話題となった。池田氏はこの問題については、もっと議論が必要だと語る。
「横浜高校の渡辺元智終身名誉監督ともこの問題について話したことがあるのですが、『いいピッチャーを何枚も揃えられるような強豪校なら投球制限があっても問題ないかもしれないが、地方のそれほどでもないような高校の場合だとそうもいかない。一人だけすごいピッチャーがいて、あと数球投げれば甲子園という場面で制限に達したらと思うと、簡単には決められる問題ではない。もっと議論が必要だ』というようなことを語っておられました。
たとえばプロのスカウトなどは、逸材に無理をしてほしくないから制限があるべきだと考えるでしょうが、球児の多くはプロ入りは頭にない。甲子園が目標で今この瞬間にすべてを注ぎ込んでいる選手も多い。立場や環境によってもさまざまな考え方があるでしょうから、クローズドで限られた大人だけの議論ではなく、監督や元選手、さらには現場の高校球児の意見も訊きながら、オープンに議論していくべきではないでしょうか」
池田氏は、この問題を考えた時、2005年に全国高校サッカー選手権で優勝を果たした滋賀県立野洲高校のことを思い出すという。
「野洲高校の選手は髪型も自由でプレーも自由。高い技術とアイデアあふれるプレーで“セクシーフットボール”と言われていました。選手の自主性を大切にしながら、それでいて規律も感じさせるチームでした。野洲高校の登場から高校サッカーのトレンドが変わるような衝撃がありました。高校野球にもああいうチームが出てきていい。高校野球の本分は教育。必ずしもプロを目指すことではないし、だからといって壊れるまでやるのもよくない。それを高校生自身が学び、考えるようにするべきだと思います。
これからの時代に大切なのは自主性と多様性。ちゃんと自分たちで考え、自分たちのルールを作れば、少なくとも後悔することのない野球生活を送ることができるのではないでしょうか」
“大人”はどうしても自分たちの経験、考えを押し付けがちだ。だが、戦うのも故障のリスクを背負うのも当事者である高校球児であることは間違いない。
「大人が高校生をなめちゃいけないと思います。今の高校生といえば、スマホで育った世代。自分たちとはライフスタイルも常識も違う。大人があれこれ考えたルールを作って押し付けるのではなく、彼らにもっとまかせてみれば、意外な答えが見えてくる可能性もあります。自主性の時代ですから、押し付けではなく、もっと自主性を育む教育を前提に、高校生たちの声をもっと聞きたいという気持ちがまず先にあります」
取材協力:文化放送
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文化放送「池田純 スポーツコロシアム!」(毎週月 20:00~20:30)
パーソナリティ:池田純
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高校野球の投球制限問題は、当事者=高校球児の意見を聞くべき
「佐々木投手の未来を守った監督の判断は正しい」、「選手たちの甲子園に出たいという夢を優先すべきだった」などなど、賛否両論を巻き起こした大船渡高校の佐々木朗希投手の地方大会決勝戦回避。夏の甲子園を前に、横浜DeNAベイスターズ初代球団社長であり、スポーツビジネス改革実践家の池田純氏にこの問題についてたずねた。
(C)共同通信