その年に活躍したアスリートが年末年始の特番に出演するのは、この国のいわば “恒例行事”になっている。競技を放送してくれたテレビ局に頼まれたら断れないし、アスリートにとっても普段はテレビでしか見られないアイドル、タレント、他種目のアスリートと直接会って話ができるので、決して悪い時間の過ごし方ではないだろう。

一方で、テレビ出演が重なることによってオフのスケジュールが多忙を極め、それが原因で体調を崩したり、年始のトレーニングの始動が遅れたりすると、テレビ局に対する批判の声が上がることもある。
テレビ局側もそのような批判が起こる可能性があることがわかっているから、おそらく各局1番組ということで渋野の所属事務所と調整を図ったのだろう。

ただ、2019年の女子ゴルフ界をあらためて振り返ってみると、渋野は国内4勝、海外メジャー1勝とめざましい活躍を繰り広げたものの、賞金ランキングは2位。賞金女王に輝いたのは年間7勝を挙げた鈴木愛だった。
しかし、鈴木は2017年にも賞金女王になっており、このときに各局の特番を渡り歩いたので、今回はスルー。渋野に出演依頼が集中した。その理由の一端は、渋野と同学年の“黄金世代”である畑岡奈紗や原英莉花らと一緒に出演してもらいたいというテレビ局側の意図もあったと思われる。

だが、2020年シーズンのことを考えると、渋野にこれほどまで注目が集中することは不安材料もある。なぜならば、2019年は国内31試合に出場した渋野だが、2020年はそこまで多くの試合に出場できない可能性が高いからだ。

渋野は「AIG全英女子オープン」の優勝により、2020年の海外メジャー全試合の出場権を有している。これらの試合に出場しないことは考えられない。
2020年の海外メジャー第1戦は4月2日~4月5日の「ANAインスピレーション」。したがって、同週開催の「ヤマハレディースオープン葛城」は欠場が濃厚。
さらに、2020年は東京五輪があるため、五輪での金メダルを目標に掲げる渋野は8月に調子のピークを迎えるように春先は過密スケジュールを避けると思われる。米国カリフォルニア州への移動を考慮すると、前週または翌週の試合も欠場する可能性がある。

海外メジャー第2戦は6月4日~6月7日の「全米女子オープン」。したがって、同週開催の「ヨネックスレディスゴルフトーナメント」も欠場。
海外メジャー第3戦は6月25日~6月28日の「KPMG全米女子プロゴルフ選手権」。したがって、同週開催の「アース・モンダミンカップ」も欠場。
さらに、1カ月の間に2度の渡米があり、1回目がテキサス州、2回目がペンシルベニア州と距離もあるため、その間にはさまれている2週間の動向も流動的となるだろう。

海外メジャー第4戦は7月23日~7月26日の「エビアン選手権」(フランス)。したがって、同週開催の「大東建託・いい部屋ネットレディス」も欠場。
そして8月5日~8月8日の「東京五輪ゴルフ競技」に出場した後、8月20日~8月23日の海外メジャー第5戦「AIG全英女子オープン」(スコットランド)はディフェンディングチャンピオンとして戦うことになる。

加えて、渋野は2021年シーズンからの米ツアー参戦を目指している。これを実現するためには、すでに出場権を得ている2月27日~3月1日の「HSBC女子世界選手権」(シンガポール)をはじめ、主催者推薦で出場できる最大6試合の枠をフル活用して出場権獲得を狙うことになる。

そう考えると、渋野が国内にいる期間は2019年シーズンに比べて圧倒的に少なくなる。渋野が出場する試合と出場しない試合で、入場者数やテレビ視聴率に大きな差が出なければいいが、ある程度の影響が出るのは避けられないだろう。

男子ツアーに比べて女子ツアーは特定の選手に人気が集中せず、AKB48や乃木坂46のようにそれぞれの選手を別々のファンが応援する好循環が続いていたが、渋野という絶対的エースが誕生したことで、今後はバランスが変化していくかもしれない。

主催者サイドも渋野に出場してもらうためにさまざまな手段を講じるはずで、サントリーが渋野と所属契約を結んだのも、そういう気持ちの表われの一つと言えるだろう。ただ、サントリーは宮里藍の現役時代も冠大会への出場を強要することはなかった。米ツアーを目指す渋野にとっては心強い援軍だ。

また、渋野の出現によって女子ゴルフとテレビの関係性も変化する可能性がある。PGAツアーは2018年に米国メディア大手のディスカバリー社と米国以外での放映権を交わした。そしてディスカバリー社は新メディア「GOLFTV」を立ち上げ、タイガー・ウッズおよびフランチェスコ・モリナリと独占的グローバルコンテンツ契約を結んだ。

これは男子ゴルフ界の話だが、女子ゴルフ界における渋野のコンテンツとしての価値が高まれば、そのような契約をしたいと考える新メディアが出てきても何ら不思議ではない。


保井友秀

1974年生まれ。出版社勤務、ゴルフ雑誌編集部勤務を経て、2015年にフリーランスとして活動を始める。2015年から2018年までPGAツアー日本語版サイトの原稿執筆および編集を担当。その他、ゴルフ雑誌や経済誌などで連載記事を執筆している。