また、テニス4大メジャーであるグランドスラムの第2戦・ローランギャロス(全仏テニス)(フランス・パリ、5/24~6/7)は、9/20~10/4に延期され、さらに、グランドスラムの第3戦・ウィンブルドン(イギリス・ロンドン、6/29~7/12)は中止となった。

誰もが予想できなかったコロナショックによって、ツアーが中断するという未曾有の事態になり、日本のプロテニス選手たちは戸惑いを隠せない。今回、ATPから西岡良仁、伊藤竜馬、内山靖崇、WTAから奈良くるみ、二宮真琴、尾崎里紗の6選手からリアルな声を聞くことができた。

■未曾有の事態・・戸惑いも

錦織圭に続いて日本男子テニス界の次の時代を担う西岡良仁は、世界の非常事態を何とか受け入れようとしている。
「僕にとってももちろん初めてのことですが、たぶんテニス界の中でも初めての出来事だと思うので、誰も今後の事を予測できていないと思います。ツアー開始も7月半ばと出ていますが、実際どうなるかわかりませんし、今は臨機応変に対応するしかないと思っています」

デビスカップ日本代表では、単複で中心選手の1人である内山靖崇は、持ち前の冷静な分析力を駆使しつつ前向きにとらえようとしている。
「正直、ここまで世界的に大変なことになるとは当初思っていませんでした。僕は性格的に前向きに考えていくタイプなので、今回のことも9年プロをやってきた小休憩だと考えています。ツアー再開後が第2章だと思うので、それまで心身の疲れも取って、英気も養おうと思っています」

錦織の同年代で、長年日本男子テニスを牽引してきた伊藤竜馬は、いつも何事に対しても真っ直ぐに向き合う誠実さから正直な気持ちを吐露する。
「このような状況になったのは初めてで、自分自身もこれからどうなるのか不安な気持ちもある」

長年日本女子テニスの中心的存在である奈良くるみは、いつもあまり先を見過ぎずに、目の前の課題を1つずつ克服していく彼女らしい受け止め方をしている。
「今までに経験がないことで最初は驚きと戸惑いがありましたが、今はこの状況を受け入れて再開に向けて前向きに活動しています」

女子プロテニスツアーで日本テニス界では数少ないダブルススペシャリストとして活躍する二宮真琴は、戸惑いを感じながらも持ち前の切り替えの早さで対応している。
「こんなに長期間試合がない経験は初めてなので、最初は戸惑いや不安もありましたが、すぐに切り替えて、練習やトレーニングを始めました。この期間で、ツアー中にできない技術の改善や体づくりなど、いろいろ試せる良いチャンスだと思いました」

日本女子テニスで、世代や実力で中堅的存在である尾崎里紗は、彼女らしい優しさで他人を気遣いながらこの困難な状況を見つめている。
「世界的に大問題になっているので、今は感染しないために外に出られないのはしょうがいないことだと思っています」

■モチベーションを保つために

テニスの練習やトレーニングがどのぐらいできているかは、選手によってさまざまで、先行きがまだまだ見通せないだけに、モチベーションの維持は簡単ではないようだ。それでも、選手それぞれで奮闘している。

「テニスの練習は正直思ったようにはできていません。トレーニング自体もベースとしていた(味の素)ナショナルトレーニングセンターが使えないためできていないです。家でやったりしますが、できることに限りがあるので、ツアー時のようにはできていないのが現状です。モチベーションの維持は試合やスケジュールが確定できないのでかなり難しいです。今はテニスを広める活動や自分が良い影響を与えられることについて考えることのモチベーションの方が高いです」(西岡)

「テニスは週に2回程度でトレーニングは自宅で毎日のようにやっています。モチベーション維持は難しいですが、この期間を有意義に過ごした選手がツアー再開後に良い成績を出せるのではと思っています」(内山)

「(3月上旬の)インディアンウエルズ大会後、3週間ほどテニスやトレーニングはせず、4月に入って屋外コートを探して週2、3回練習するようになりました。トレーニングは自宅でメニューを考えてしたり、外を走ったりしていました。練習やトレーニングをする時に、どう目標を立てていけばいいかわからない状況ですが、テニスではフィーリングの確認、トレーニングではまた一から鍛え直すという考えでいます。モチベーションを維持することは大変と感じることもあるけど、テニスができる喜びと愛情を再確認できています」(伊藤)

「テニスの練習は今思うようにできていませんが、日々自宅でトレーニングを行っています。いつツアーが再開されるかイメージがつかないので、どこに向けて頑張れば良いのかがわからないという難しい状況ですが、体を動かしてトレーニングをしていると自然とモチベーションも維持できているような気がします」(奈良)

「今は、テニスは週4回くらい、トレーニングは自宅や公園でできることをしています。モチベーションは、ツアー中断になってからも落ちることはないです」(二宮)

「練習はできていなくて、家でできるトレーニングや人が少ないところでランニングなどをしています。いつツアーが始まるか分からない中で、モチベーションを保つのはかなり大変です」(尾崎)

■新たなチャレンジも。今自分にできること

海外転戦をしていた通常時より日本にいる時間が長く、自分の家にいることも多いため、転戦中にはできなかったことを楽しむ選手がいるようだ。中には、何かにはまったり、新しく何か始めてみたりすることもあるようだ。

「日本にこれだけ長くいることがないので、いろんな所に行きたいですが、その気持ちを我慢して家にいます。この時間に自分のYouTubeチャンネルや理事をやっている(日本の)男子プロ選手会のことなどに時間を割いています。この時期にリモートでのインタビューなどの仕事が増えました。国民が家にいることが増えているはずなので、この機会に自分のYouTubeチャンネルをもっと頑張って良いものにして、皆さまに見てもらいたいと思っています」(西岡)

「最近は料理をしています。ツアー中は日本に帰国しても予定が入ることもあり、食材を買い溜めすることがなかなかないので、この機会に挑戦しています。あとは自分で作ったUchiyama Cup(大会)のことを考えています」(内山)

「普段より日本にいる時間が長く、家族と過ごす時間が増え、子供の成長が見れることは嬉しく思います。自分のメンタル面を整える時間や体の確認はできています。本を少しずつ読んでみたり、ギターをしてみたくて始めたりしたのは新たな取り組みです(笑)」(伊藤)

「お庭で家庭菜園や花を育て始めました」(奈良)

「家族と一緒にお家でご飯を食べたりできることがすごく楽しいです」(二宮)


もちろん新型コロナウイルス感染症の治療にあたる医療関係者をはじめ、コロナショックの状況下でも戦っているさまざまな業種の人々への感謝を選手たちは忘れない。

「僕は家にいてコロナにかかったり、うつしたりしないように努力していますが、医療関係者をはじめ最前線で戦っている方々は、自分がかかるリスクを背負いながら人々を助けていることを考えると、本当に彼らこそヒーローだと思います。僕も他競技の選手たちと一緒に一つのムービーを撮ったりしましたが、いろいろな分野や業種の方々に対してアスリートから何か力になれることをしていきたいと思います」(西岡)

「医療従事者の方々には本当に感謝しかありません。自分たちが感染するリスクが高いのに、身を粉にして働いていただき、本当にヒーローだと思います。コロナウィルスの影響で特に経済的に打撃を受けている方々には、今はとにかく耐えましょう。終息した後に立て直す気力、エネルギーを溜めておいていただきたいです」(内山)

「コロナという恐怖が世界を襲っている中で日々働いて戦ってくれている皆さまに感謝を伝えたいです。医療関係者の皆さんはもちろん、この厳しい状況で働いてくれる方がいるからこそ今の世界や日本は成り立っていると思います。感謝の気持ちを忘れず、日々できることをやっていきたいです」(奈良)

「医療関係者の方や、感染の恐れもありながら働いてくださっている方々のためにも、少しでも早く明るく元気な日常が戻るように、今自分にできることを徹底しようと思います」(二宮)

「世界的危機に陥っている中、国民のため、国のために命を削って戦ってくださっている皆さま、本当にありがとうございます。私たちは、感染しない、感染させない、ようにするしかできることがありません。なので、少しでも国民のために戦っていただいている方々の負担を減らすためにも、その意識を常に持ちながら生活していきます」(尾崎)

■再開の日をめざして

新型コロナウイルスのパンデミックによって、1年延期された東京2020オリンピックを、選手たちはどう受け止めているだろうか。選手の中には、オリンピック出場を大きな目標に掲げていた者もいて、その心の中は複雑だ。

「正直残念な気持ちはあります。今年のスタートがかなり良く、ランキングも上がり、出られる可能性が高かったため、初のオリンピックを経験したかった気持ちはあります。しかし、来年開催を予定していることを嬉しく思い、ポジティブにとらえ、今年同様来年出られるようにまた頑張ろうと思います」(西岡)

「私としては今のランキングだと出場できなかったので、1年延期はまたチャンスをもらえたと前向きにとらえています」(奈良)

「オリンピックの延期は、選考基準もどうなるかわからないので、今はあまり深く考えていないです」(二宮)

「選手にとっては、今年に合わせて調整してきた選手もいると思うので、モチベーションを継続させるのが難しい面もありますが、仕方ないことだと思っています。ただ、この状況の中、来年開催は難しいと思っています」(尾崎)

新型コロナウイルスの封じ込めによって、少しでも早いツアー再開が待ち遠しいところだが、選手たちは、テニスやメンタルやフィジカルをどう整えていきたいと考えているのだろうか。今後、プロテニス選手として、達成していきたい目標と共に語ってもらった。

「今の時点ではオリンピック出場を目標に考えていますが、(世界ランキングの)自己ベスト更新とやはりまたツアー優勝したいと思います。テニスの結果以外でいえば、テニスという競技、そしてテニス選手という存在が日本でもっと大きくなり、注目が集まるような活動を行いたいと思っています」(西岡)

「テニス、メンタルに関しては再開前1カ月〜1カ月半くらいあれば大丈夫かなと思うのですが、フィジカルが一番の問題かなと思います。今はジムも使えない状況なので、ツアー再開後には、けが人も増えそうです。まずはフィジカルコンディションを少しでも落とさないように気をつけたいと思います。選手として、次の目標は(世界)50位に入ることです。そのためにツアーで決勝や準決勝に入る実力がないと厳しいと思うので、そこに向けて頑張りたいと思います」(内山)

「今はまだ思うように練習ができない状況ですが、テニスが再開できるまではフィジカル面をより強化していきたいです。テニスがやりたいという気持ちを充電して、再開した時に思い切り楽しめるようにしたいです。もう一度トップ100に入りたいです」(奈良)

「再開した時に、中断前よりも良い状態でツアーに戻れるように、今はあまり焦り過ぎず、再開の目途が立ったら、少しずつ上げていきたいと思います」(二宮)

「今は外出もできないですし、ジムなどでトレーニングすることもできません。体の基礎的な部分の強化や、柔軟性を上げられるようにできたらと思っています。技術面でも、自分のテニスを見直すには十分過ぎるくらい時間があるので、改善点を一から練習していきます」(尾崎)


新型コロナウイルスの感染は、依然として予断を許さない状況が続き、やはりワクチンが開発され、有効な治療薬が世界で広く使用されなければ、収束への道は難しく、世界的を転戦するワールドプロテニスツアーの再開は時間を要するだろう。

もしかしたら2020年のワールドプロテニスツアーが、これ以上行われない可能性も一部で指摘され始めているが、仮に新型コロナウイルスが収束した国や地域が出たとしても、南半球など別の場所で流行している場合もあるだろう。また、流行の第2波や第3波が起こるかもしれない。

これでは選手や関係者たちの健康や安全は担保されない。さらに各国の入国拒否や入国制限も解除されなければ、世界を飛び回るプロテニスプレーヤーや関係者の移動がままならない。プロテニスツアーは、ウイルスの封じ込めによって各国の安全が確認され、足並みが揃わなければ、プロテニス選手の活動再開は現実的ではない。

今はひたすら我慢の時だが、それぞれの思いを胸に秘めた日本選手たちが、再びテニスコートに立つ日を心待ちにしようではないか。


神仁司

1969年2月15日生まれ。東京都出身。明治大学商学部卒業。キヤノン販売(現キヤノンマーケティングジャパン)勤務の後、テニス専門誌の記者を経てフリーランスに。テニスの4大メジャーであるグランドスラムをはじめ数々のテニス国際大会を取材している。錦織圭やクルム伊達公子や松岡修造ら、多数のテニス選手へのインタビュー取材も行っている。国際テニスの殿堂の審査員でもある。著書に、「錦織圭 15-0」(実業之日本社)や「STEP~森田あゆみ、トップへの階段~」がある。ITWA国際テニスライター協会のメンバー 。