2019年の年収は約27億円、怪物GGGが登場

 まず18日(日本時間19日)に登場するのがゴロフキン。38歳とベテランの域に達している国際ボクシング連盟(IBF)王者だ。年齢的に脂の乗り切った時期には、強過ぎてなかなか相手が見つからず、マッチメイクに苦慮したとの逸話もある。戦績は42戦40勝(35KO)1分けで敗戦は1つだけ。実際に試合をした選手たちは、尋常ではない拳の硬さ、パンチ力の強さに舌を巻く。左ボディーブローやガードを固める相手の頭部に直接打ち込むハードパンチ。世界主要3団体の元統一王者は衰えを指摘されて最新のPFPで10位だが、長期的に10位以内を維持している。

 母親は朝鮮半島にルーツを持ち、愛称はミドルネームも含めて本名の頭文字を取り〝GGG(トリプルG)〟。2002年釜山アジア大会(韓国)では金メダルに輝き、2年後のアテネ五輪で銀メダル。プロ転向するとドイツを主戦場に置いて実績を積んだ。2010年には早くも世界タイトルを獲得して保持し続け、相手に近づいての好戦的なスタイルで23試合連続KOなど怪物ぶりを発揮。米国に進出後もファンを熱狂させ、確固たる地位を気付いた。

 映像配信サービス「DAZN(ダゾーン)」と昨年、6試合で1億ドル(約104億円)の大型契約を結んだ。米経済誌フォーブス(電子版)によると、スポンサー収入などを含め、2019年の年収は2550万ドル(約27億円)。中央アジアにある旧ソ連諸国の一つから、拳一つでスターダムにのし上がった。18日の試合には、バーナード・ホプキンス(米国)を抜き、ミドル級では史上最多となる21度目の防衛が懸かる。「自分は常に対戦相手には最大限の敬意を持っている」と口にするなどリング外での紳士ぶりも魅力だ。

1試合で約36億円を稼ぐカネロ

 そのゴロフキンに唯一黒星をつけたのがアルバレス。19日(日本時間20日)にスーパーミドル級でリングに立つ。スピードやカウンター、強打と総合力が高く、最新のPFPで1位に君臨。30歳と隆盛を迎えている。ゴロフキンとは3年前の初対戦で引き分けに終わった後、2018年9月には僅差の判定で勝利し、世界ボクシング評議会(WBC)などのタイトルを手にした。

 戦績は56戦53勝(36KO)1敗2分け。愛称の「カネロ」はスペイン語でシナモンを意味し、メキシコ出身ということで、西海岸を中心に米国で絶大な人気を誇るスターだ。フォーブスによると、1試合で少なくとも3500万ドル(約36億円)稼ぐ。唯一の黒星は2013年のフロイド・メイウェザー戦。このとき、視聴ごとに課金されるテレビのペイ・パー・ビュー(PPV)の売り上げは1億5千万ドル(約156億円)を記録したほどだった。

 昨年11月には世界ボクシング機構(WBO)ライトヘビー級のタイトルも取り、4階級制覇を達成した。2年前、5年で11試合を闘う総額3億6500万ドル(約380億円)という、プロスポーツ界屈指の超大型契約をDAZNと結んだと伝えられ、世間を驚かせた。そして新型コロナウイルスに見舞われた今年、さらに話題を振りまいた。思うように試合が組まれないとして、DAZNやプロモーターを相手取って、2億8千万ドル(約290億円)の損害賠償を求める訴訟を起こしたのだ。ゴロフキンの試合同様、今回の一戦はDAZNで生配信される予定で、これはその都度、DAZNと業務提携することが可能なためという。「自分がナンバーワンであることを証明し続ける」と常に強気。絡んでくる額が桁違いで、夢のある世界でもある。

村田諒太にも影響の可能性あり

 この2試合の結果は、日本が誇るチャンピオン、村田の動向にも関連してくる可能性もある。体格的に海外勢の強豪がひしめくミドル級で、村田は2012年ロンドン五輪で金メダルを獲得。プロ転向後の2017年に初めて世界王座を手にし、一度は失ったものの昨年7月に返り咲いた。初防衛した同12月以降、コロナ禍の中で試合から遠ざかっているが、契約する米興行大手トップランク社のボブ・アラム氏は昨年末、ゴロフキンやアルバレスとの対決を視野に入れていることをほのめかしてきた。

 バンタム級の世界王者、井上尚弥(大橋)は世界タイトルマッチ開催地としておなじみのネバダ州ラスベガスで10月に初めて試合を行って豪快なKOで勝利し、強烈なインパクトを残すことに成功。PFPでも2位に座っている。GGGにカネロ、どちらかとの顔合わせが実現すれば、村田にとってもこれまで以上に世界へ名前を売るチャンス到来だ。

 米フロリダ州ハリウッドでカミル・シェルメタ(ポーランド)を迎え撃つゴロフキンは昨年10月以来1年2カ月ぶり、テキサス州サンアントニオでカラム・スミス(英国)と対戦するアルバレスは昨年11月以来の試合とブランクがある。10月にはPFP上位常連者でライト級の世界主要3団体統一王者だったワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)が米国の新鋭、テオフィモ・ロペスに判定で敗れる波乱が起きた。ミドル級に君臨する両者がコロナ禍でどのように調整して仕上げてくるのか。はたまた下克上はあるのか。ゴロフキンとアルバレスの3度目の対戦を望む声も依然として根強く、この週末が世界ミドル級情勢の大きな分岐点になるかもしれない。


高村収

1973年生まれ、山口県出身。1996年から共同通信のスポーツ記者として、大相撲やゴルフ、五輪競技などを中心に取材。2015年にデスクとなり、より幅広くスポーツ報道に従事