沖縄県にある民間のシンクタンク「りゅうぎん総合研究所」によると、沖縄県での2020年の春季キャンプの経済効果は約121億円と試算され、観客はのべ約35万4000人。宮崎県もJリーグを含めたキャンプの経済効果が約124億円にも上ったと発表しており、それだけ地域経済にとってキャンプというものは大きな存在となってきた。しかし、今回は無観客のため、この多くが失われ、経済損失は両県合わせて200億円にも及んだとの見方もある。そんなコロナ禍のもとでも、なぜプロ野球の球団はキャンプの実施にこだわるのか。そこには深い理由があると、横浜DeNAベイスターズ初代球団社長を務めた池田純氏は説明する。

「今年は巨人の一部主力選手が東京ドームでキャンプインし、これに違和感を覚えた人も多いのではないでしょうか。地方に行かなくても、調整はできる。それを表す象徴的な出来事といえます。ただ、それでも最後にはキャンプ地に集まって練習したように、宮崎や沖縄などでキャンプを行うのには理由があるんです」

 その「理由」というのが、主に以下の3つだという。

①暖かい気候で調整するため
②地域とのつながりを維持するため
③試合を組みやすくするため


 巨人は今年、主力中心のS(スペシャル)班が東京ドームで始動。球場を分散させて“密”を防ぐなどの理由による球団初の試みだったが、最終的にはある程度調整が進んだ2月半ばに沖縄で1軍本体に合流するスケジュールだった。東京ドームなどの屋内型施設は空調があり、気候の影響は受けない。理由①だけを考えるなら、温暖な地域に移動する必要はないようにも思える。

 そこで、重要になるのが理由②と③だ。

 まず②。「DeNAが宜野湾、阪神は宜野座、ソフトバンクは宮崎、楽天は久米島など、各球団は長年同じ場所でキャンプを行っています。これは地域とのつながりによるものが大きい。一度手放してしまうと、韓国など海外の球団が入ってきて、良い場所を取られてしまう。それを防ぐためには、長年つながりのある場所でキャンプをやり続ける必要があるんです」と池田氏。今年はコロナ禍の影響でなかったが、韓国ハンファや台湾ラミゴ(現楽天)などが日本でキャンプを行ってきた過去がある。

 そして③。「キャンプは”キャンプという名の練習試合”。鍛える場所ではなく、実戦の場なんです。メジャーでもアリゾナやフロリダに集まってオープン戦を行っていますよね。それは、球団が集まった方が試合を組みやすいからです」。約1カ月間におよぶキャンプでは1億円ほどの経費がかかるという。ただ、これがシーズン同様に各地を転戦しながら実戦をこなすとなると、移動費、宿泊費などで余計に多くの費用が必要となる。「コロナ禍の中でも各本拠地で練習や練習試合をするより、今までのキャンプの形から観客収入をマイナスにする方がコスト効率はいい、と大半の球団が判断した結果でしょう」と池田氏は解説する。

 DeNAでは鹿児島・奄美大島で行ってきた秋季キャンプを横須賀の球団施設で行うなど近年は新たな動きも出てきているが、シーズン開幕を前にした春季キャンプとなると話は別。屋内型のドーム施設に本拠地を置くのは巨人、中日、ソフトバンク、日本ハム、オリックスのみ(西武は屋外球場に屋根を架設した形態)。しかも、それぞれ場所も離れており、温暖な地域に数球団が集まって調整することには、それだけのメリットや価値が球団経営の面から見てもあるということだ。

 球界では2月1日を「元日」と捉える風習があり、公式戦の開幕に向けてファンの機運を高める意味でも欠かせない風物詩となっているプロ野球のキャンプ。コロナ禍に対応した「無観客キャンプ」は地域経済の観点では大きなインパクトを与える結果となっただけに、来年はコロナ禍が収束し、キャンプ地に賑わいが戻ることを願うばかりだ。

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VictorySportsNews編集部