2015年にFIFA公認の代理人制度が廃止!参入障壁が大きく緩和
2015年に代理人制度に関して大きな変更があった。同年3月31日まではJリーグで代理人としてクラブと交渉できるのは弁護士または国際サッカー連盟(FIFA)が定める試験に合格したFIFA公認の代理人のみであった。しかし、FIFA公認の代理人制度が廃止され、2015年4月1日から日本サッカー協会(JFA)仲介人制度がスタートした。これにより、今までは弁護士もしくはFIFA公認の代理人のみとされていた仲介業務がJFA仲介人に登録することで可能となった。登録は毎年行う必要があり、法人組織に所属していることやサッカー協会関係者でないこと、JFAに手数料を収めるなどが条件となっている。
協会のホームページによると、2021年5月6日時点で仲介人登録している仲介人は約360人だという。この仲介人制度では選手やクラブは選手契約や移籍合意の交渉に際して第三者を関与させた場合、JFAに登録する必要があり、この制度によってそれぞれの移籍にどの仲介人が関わったのか同協会が全て把握できる仕組みとなっている。
FIFA公認の代理人制度が廃止され、仲介人の数も増えているが、元Jリーガーがセカンドキャリアとして仲介業務を行うパターンも出てきている。JFAの仲介人リストを見ると、ガンバ大阪、鹿島アントラーズ、セレッソ大阪でプレーし、2014シーズン限りで現役を引退した新井場徹氏や横浜F・マリノスやアビスパ福岡でプレーし、日本代表選出経験もある坂田大輔氏も名を連ねている。そして、現在柏レイソルに所属する山下達也に関しては、現役選手ながら仲介人リストに仲介人として登録されている。
2019年からは代理人が受け取る手数料に上限が設けられる
FIFAの発表によると、2019年に代理人が国際移籍市場で受け取った手数料(報酬)の合計は700億円以上だという。この数字は他国のリーグに移籍した国際移籍のみで国内移籍は対象外のため、実際にはさらに多くのお金が代理人に流れているとのこと。そしてFIFAは同年から代理人が受け取ることができる手数料を移籍金は最大10%、年俸は最大で3%の上限を設ける措置を実施している。
これにより、ACミラン所属のズラタン・イブラヒモヴィッチやボルシア・ドルトムント所属のアーリング・ハーランドらを抱え、敏腕代理人として知られるミノ・ライオラ氏のように荒稼ぎする代理人に歯止めがかけられることになるとされていた。しかし、一部ではこの上限以上の額を受け取っている代理人もいるようで、海外では未だに代理人は多額の手数料を受け取っているようだ。
日本の仲介人はマネタイズが課題
FIFA公認の代理人制度が廃止されて以降、仲介人になるハードルが下がったことにより、日本で仲介人として活動する人の数も増え続けている。しかし、マネタイズという面では課題が浮き彫りになっているのが現状だ。国内で仲介人業務を行う関係者によると、Jリーグはまだ市場規模が大きくなく、選手の移籍金においては仲介人の取り分はほとんどないに等しいようだ。
海外移籍の場合はそれなりに移籍金も発生するが、国内の移籍では移籍金は低く設定されている場合が多い。さらに、これはJリーグに限った話ではないが、新型コロナウイルスの影響で多くのクラブが補強に使う予算を減額していることから、仲介人は今後さらに厳しい状況に陥る可能性もある。契約満了の選手を獲得する0円移籍が増えることも予想できるだろう。
さらに、Jリーグの平均年俸は3500万円なのに対し、ブンデスリーガ、リーガ・エスパニョーラ、セリエAは2億円を超え、プレミアリーグに関しては4億円を超えているという。JFAが公表しているデータによると、2019年に選手が代理人に支払った手数料の合計は約11億4000万円で、Jリーグ55クラブ(2019年当時)のうち28クラブが払った手数料の合計は約6億2000万円となっており、選手とクラブから合計約17億6000万円が代理人へ支払われている。この17億6000万円という金額は、アーセナルが2018-19シーズンに代理人へ支払った手数料の16億3000万円とほぼ同額となっている。そしてプレミアリーグ全体では約379億円が代理人へ支払われているとのこと。
こうした背景もあり、日本で活動する仲介人は多くの選手と契約するか、有望な選手を次々に海外へ移籍させない限り、マネタイズが難しくなっている。
選手が代理人と契約する経緯は様々!移籍のタイミングで代理人を変える選手も
そもそも選手が代理人と契約するのにどのような経緯があるのだろうか。複数の代理人に話を聞いたところ、多くの場合はクラブ関係者や他の選手からの紹介で契約にいたるケースが多く、代理人が試合を視察に行って気になった選手にコンタクトを取り、クラブ側にも確認を取った上で接触し、条件面などをすり合わせて契約するパターンも多くなっている。そのため、代理人は選手やクラブ関係者、選手とコネクションが強ければ強いほど契約しやすくなる。なお、代理人は選手個人と契約しているパターンが大半だが、仕組み上はクラブと契約し、強化部などが本来担う仕事を代理人が行うことも可能だという。現にそういった代理人もごく僅かながらにいるようだ。また、現役時代にずっと代理人を変えない選手がいる一方で、移籍などのタイミングで代理人を変える選手もいる。特に海外移籍の際に、海外とコネクションの強い新たな代理人に切り替える選手も少なくない。
情報の漏洩や詐欺などの問題も
2015年のFIFAのルール改正によって代理人になるのが以前より容易となったことにより、様々な問題も起こっている。海外の下部リーグでプレーする選手が代理人詐欺にあうケースが、国内外で増加しているようだ。海外留学事業を行う関係者によると、プロ契約を目指す選手とエージェント契約を行い、クラブを紹介する仲介手数料として金銭を要求するものの、支払われた後に音信不通になるケースや希望のクラブとは程遠いクラブしか紹介してもらえず、契約にも至らないというケースが頻繁にみられるという。特にこうした代理人詐欺はドイツや東南アジアなどに多いとされている。
その他にも選手の移籍情報を代理人が漏洩させてしまうというケースもある。これは特に海外で多く見られ、代理人が仲の良いメディアに情報を伝え、それが記事となって報道されるケースが相次いでいるようだ。Jリーグにおいては、現在中国スーパーリーグの山東泰山でプレーするブラジル人FWのレオナルドが、2020年にアルビレックス新潟から浦和レッズへ移籍した際、代理人がクラブの公式発表より前にJ1のクラブに移籍するという情報をインスタグラムに投稿したケースがある。2015年のルール改正によって代理人の母数は増えたものの、選手に寄り添う代理人だけでなく、詐欺や情報漏洩などの様々な問題を引き起こす代理人が増加しているのも事実だ。今後FIFAは代理人に関する制度をどのように変えていくのだろうか。注目していきたい。