試合後の記者会見でも涙を見せながら、「全部勝つつもりで臨みました。チームを勝たせられなかった部分で、キャプテンとしては力不足。悔しい気持ちでいっぱいです」と、声を絞り出した渡邊。八村塁(ワシントン・ウィザーズ)とともにNBAを主戦場として戦う2人に加え、馬場雄大(メルボルン・ユナイテッド)という、いわゆる海外組が経験と実績を引っ提げてチームに合流し、「史上最強」との前評判に異論はなかったはずだが、結果は0勝3敗……この現実は受け入れざるを得ない。

 渡邊だけではなく、共に戦ったチームメイトはもとより、多くのバスケファンや関係者が同じ思いを抱いたであろう、〝悔しい気持ち〟がきっと次につながるエネルギーを生み出すはずだ。

3試合とも可能性は感じたが、勝てなかった

 予選ラウンド第1試合のスペイン戦、最終スコアは77‐88ながら、後半だけを見れば40‐29と日本がリードした。前半で20点差(28‐48)をつけたスペインが無理をしなかったといえばそれまでだが、世界ランク2位、前回ワールドカップの覇者に対して果敢にチャレンジし続けたのは良かった。サイズアップを狙いとした田中大貴のポイントガード(PG)起用や、帰化選手枠のエドワーズ ギャビンのインサイドでの踏ん張り。身長差が懸念された富樫勇樹が持ち味のスピードを活かせば、シュート力を期待された金丸晃輔が立て続けに3ポイントを決めるなど、必死に食い下がる場面も。

 ただ、全体を通して見れば八村、渡邊以外に個人での打開は難しく、ベンチメンバーはスコアメイクに苦しんだ。「21‐41」という数字はベンチメンバーによる得点差。ペイントエリアの得点も「24‐48」と大差をつけられる展開になってしまった。

 第2戦は最終予選を勝ち上がってきたスロベニア(世界ランク17位)が相手。NBAのスーパースター、ルカ・ドンチッチ(ダラス・マーベリックス)がチームを率いる。そのドンチッチはアルゼンチン戦で48得点(オリンピックタイ記録)を挙げるなど絶好調。この難敵を相手に、日本はさらに世界の壁の高さを痛感させられる結果となり、81‐116の大敗。

 そんな中、八村は36分40秒のプレータイムで3本の3ポイントを含む34得点、7リバウンド。渡邊も36分12秒のプレータイムで17得点(3ポイント3本)、7リバウンドのスタッツを残し、世界で通用することを証明した。また、スペイン戦不発に終わった比江島慎がアグレッシブなプレーで10得点を稼ぎ出し、「比江島ステップ」が冴えを見せたのは収穫大。

 ところが、平均身長はマイナス3㎝の差ながら、リバウンド数で「33‐54」と大きな差をつけられた。シュートからリバウンドへ移行する際の反応や、ボックスアウトでしっかり相手を押し出す基本的なプレーが今後も重要になるのは明らかだ。

 第3戦の相手、アルゼンチン(世界ランク4位)は日本代表ヘッドコーチ、フリオ・ラマスの母国。サイズで圧倒するチームではなく、日本が目指すべきバスケット、手本となるようなバスケットを展開するチーム。ここまで0勝2敗と苦しみ、決勝トーナメント進出に向けては互いに負けられない試合となった。日本はリトアニア戦で負傷したエドワーズが欠場となり、代わってスターターを任されたのは比江島。この試合もアグレッシブなプレーでリングにアタックし、13得点の活躍を見せた。そしてもう一人、鳴りを潜めていた馬場が何度も見せ場を作る。ディフェンスでの執拗なマークやスティールからのダンクなど、高い身体能力を活かしたスピード感溢れるプレーで躍動。33分50秒のプレータイムで18得点、7リバウンドの活躍。

 日本は38‐46で前半を終えるなど、何とか食らいついた。しかし、劣勢を挽回することはできず、終わってみれば77‐97と20点差をつけられていた。この試合で改めて浮き彫りになったのが、「八村頼み」。アルゼンチンが八村へのマークを徹底し、ほぼ出ずっぱり(プレータイム39分11秒)だったにもかかわらず、13得点しか挙げられなかった。その分、渡邊、馬場が奮起したが、格上のチームには歯が立たなかった。

 この試合で、手本にすべきところと言えばプレーのスピード感だろう。一直線に走るスピードではなく、ボールを持った瞬間からの展開力や連動性など、チーム全体の意思統一がなされている。パスワークは流れるようにスムーズで、ノーマークを作りながら得点を重ねて行くアルゼンチンに対し、日本は「点」で攻める場面が多かった印象が残る。リバウンドやペイント内の得点などはさほど遜色なかったものの、ここ一番での3ポイントを決める勝負強さ、ルーズボールへの執念など、気持ちの面で負けていたのかも知れない。

ポイントガードの育成が急務、注目選手はこの2人だ

 この3戦を通して感じたのは、日本にも世界で通用するプレーヤーが現れたこと。それは言わずもがな、八村、渡邊、馬場の3選手だ。スキルやフィジカルはどの対戦相手にも引けを取らなかった。それ以上に、何よりもメンタルの強さが頼もしかった。八村が残したスタッツは見事であり、FIBA(国際バスケットボール連盟)が予選ラウンドを終えた段階でのベスト9の1人に選んだほど。渡邊はチームの精神的支柱となるべく振る舞い、キャプテンシーを発揮し続けた。アルゼンチン戦後の涙にその責任感の強さが現れており、悔しさを糧に成長を続けるはずだ。馬場はアルゼンチン戦で爆発し、自らNBAの扉を開くかもしれない。

 史上最強……これは現時点で間違いはない。しかし、次(2023年)のワールドカップ、オリンピック(2024年)に向けては、この史上最高を超えるチームでなければならない。ポジション的には、今大会で目の当たりにしたリッキー・ルビオ(スペイン代表。193㎝/クリーブランド・キャバリアーズ)やファクンド・カンパッツォ(アルゼンチン代表。179㎝/デンバー・ナゲッツ)のように存在感のあるPGの登場(育成)が待たれる。視野が広くて展開力があり、味方の得点チャンスを的確に見つけ出すことができる選手。

 私が期待したいPGは、最優秀新人賞を受賞したテーブス海(宇都宮ブレックス#7、188cm)と、新人賞ベストファイブ受賞のアイザイア・マーフィー(日本名:榎本新作)(広島ドラゴンフライズ#5、196cm)だ。2人とも日本代表候補入りの経験があり、マーフィーは「FIBA U19ワールドカップ2017」に八村、シェーファーらと一緒に出場している。今シーズンのBリーグで活躍し、さらに経験を積むことでこの2人がワールドカップ、パリ五輪のメンバーになって引っ張って欲しい。フォワード陣はそれに呼応して連動性を保ち、自らチャンスメイクできる選手がいることは証明済みだ。センターはサイズの弱点を補いながら、リバウンドで味方に勇気を与える選手が必要だが、ここは帰化選手に期待するのが近道だろうか。

 ないものねだりに聞こえるかもしれないが、前述した通り3人の選手が海外で活躍しており、後に続く選手もすでに現われている。残された時間は短いが、今大会のわずか3試合で得た経験は何ものにも代え難いものだ。選手たちは荒波に揉まれることで得られる「経験」、常に上を目指す「メンタリティー」、基本を怠らない「鍛錬」を継続していくことが必要だ。そして、それらをまとめ上げ、日本バスケの発展に注力できるヘッドコーチの存在も不可欠だ。そのための確かな一歩を踏み出した『TOKYO2020』だと信じたい。


皆人公平

バスケットボール専門誌で編集者の道へ。フリーランスになってからは、主にスポーツ関連書籍の企画や編集、制作に携わる。一時期、陶芸やアート関連の雑誌・書籍の編集等に楽しく関わったものの、現在は〝好きなバスケ〟をメインに奮闘中。