JOCの報奨金以外にも、競技団体、所属企業、スポンサーから報奨金や報奨品が支給されるケースがある。フェンシング男子エペ団体で金メダルを獲得した見延和靖が、所属先のネクサスから1億円の報奨金がサプライズで贈呈されたことが大きなニュースになった。

 また、女子ゴルフで銀メダルを獲得した稲見萌寧が日本ゴルフ協会と日本女子プロゴルフ協会から合わせて1000万円と、国内女子ツアーの5年シードが付与されたことも話題になった。JOCの報奨金と合わせて1200万円のボーナスをゲットしたことになる。

 ただ、1200万円という報奨金は決して安くないが、プロゴルファーにとって手の届かない金額ではない。1試合ごとの優勝賞金は最少で1080万円、最も多い試合は5400万円(アース・モンダミンカップ)だ。稲見は2020-21シーズンに6勝を挙げる大ブレイクを果たしており、1億4687万9549円を獲得して賞金ランキング2位につけている。

 一方で、国内女子ツアーの5年シードという“報奨品”は、他のスポーツでは見かけることがないが、いったいどんなメリットがあるのだろうか。

国内女子ツアーにおける「シード権」とは

 プロゴルフツアーには前年の賞金ランキングやポイントランキングによってシード権を付与するシステムがある。国内女子ツアーは賞金ランキング上位50位以内またはメルセデス・ランキングという総合的な活躍度を評価するランキングで50位以内に入ると翌年の出場権が得られる。

 さらに公式戦の優勝者、賞金ランキング1位の選手、メルセデス・ランキング1位の選手には3年シードが付与される。公式戦とはメジャー大会のことで、5月の「ワールドレディスチャンピオンシップ サロンパスカップ」、9月の「日本女子プロゴルフ選手権大会コニカミノルタ杯」、10月の「日本女子オープンゴルフ選手権」、11月の「JLPGAツアーチャンピオンシップリコーカップ」の4試合が該当する。

 つまり、稲見に国内女子ツアーの5年シードが付与されたということは、日本女子プロゴルフ協会が五輪の銀メダルを公式戦優勝や賞金女王よりも高く評価したことになる。

 複数年シードに関する規定は2019年度から変更になった。かつては権利獲得の翌年から行使しなければならなかったが、現在は翌年から10年間のうち任意の年を行使開始年として選択可能になっている。

 3年を超える複数年シードの条件は、公式競技1勝で当該年度賞金ランキング1位(5年シード)、同一年度公式競技2勝(5年シード)、同一年度公式競技2勝で当該年度賞金ランキング1位(7年シード)、同一年度公式競技3勝(7年シード)、同一年度公式競技3勝で当該年度賞金ランキング1位(10年シード)、同一年度公式競技4勝(10年シード)、同一年度公式競技4勝で当該年度賞金ランキング1位(15年シード)。

 これらの複数年シードの中で唯一、達成されているのが同一年度公式競技3勝。2018年に申ジエが獲得し、2026年までのシード権を保有している。

報奨金より嬉しい?稲見の5年シード

 このような形で複数年シードが設定されているのは、実力のある選手が長期的に活躍するのを支援するためであり、海外ツアーに挑戦する選手をサポートする意味合いもある。これまでにも大山志保、上田桃子、有村智恵といった選手たちが複数年シード獲得をきっかけにLPGAツアー(米国女子ツアー)に挑戦した。

 ただ、稲見は銀メダル獲得後のインタビューで「日本でずっと頑張って永久シードを取りたい」とコメントしている。今の日本ツアーは試合数も賞金額もLPGAツアーに引けを取らないほど充実している。畑岡奈紗に続いて渋野日向子も海外に拠点を移そうと挑戦を始める中、五輪メダリストが国内ツアーを盛り上げてくれるのはありがたい。

 女子ツアーの永久シードの獲得条件は30勝以上。達成者は樋口久子、大迫たつ子、涂阿玉、岡本綾子、森口祐子、不動裕理の6人だ。これに続こうとしているのが28勝のアン ソンジュ。現在は産休制度を利用しており、4月下旬に双子を出産して2022年のツアー復帰を目指している。申ジエも26勝を挙げており、永久シードを視界にとらえている。

 稲見は現在7勝で、道のりはまだ長いが、プロテスト合格が2018年で、実質的なツアーデビューは2019年なので、フル参戦から2年半しか経っていない。しかも、その間に新型コロナウイルスの流行によるツアー中断期間があったので、出場試合数を確認したところ61試合である。それで7勝を挙げているということは、10試合に1勝を上回るペースで勝利を積み上げていることになる。まだ22歳。今後も同じペースで勝ち続けることができれば、260~270試合出場時点で30勝に到達する計算になる。

 ただ、ゴルフというスポーツはどんなに優れた選手でも好不調の波がある。万が一、調子を崩してシード圏内から陥落するような状況になったとしても、複数年シードを持っていれば試合に出たくても出られないという心配はなくなるし、逆にしばらく試合を休んで調子を立て直すという選択もできる。

 永久シードを目指す稲見にとって、報奨金よりも5年シードのほうがうれしいご褒美になったかもしれない。


保井友秀

1974年生まれ。出版社勤務、ゴルフ雑誌編集部勤務を経て、2015年にフリーランスとして活動を始める。2015年から2018年までPGAツアー日本語版サイトの原稿執筆および編集を担当。その他、ゴルフ雑誌や経済誌などで連載記事を執筆している。