「一見、全く関係なさそうなことでも全てサッカーに繋げる」シーズンオフの過ごし方
―初めてのスペインでのシーズンオフはいかがでしたか。
丹羽:初めてスペインでのオフシーズンでした。マドリードやバルセロナに行ったり、色々な観光地や美術館を巡っていました。
スペインへの移籍も含めて、一昨年の12月から約1年半長期のオフがありませんでしたので、頭と身体のリフレッシュをしたいと思ってコロナ禍の制限の中、色々なところに足を運びました。
僕はサッカー界とはまったく違う分野の方と出会ったり、世界遺産や美術館、海や山や川に行って自然と触れ合ったり、サッカーとは直接関係のない場所に行って、全く違う角度から脳に刺激を入れてシーズンオフはリフレッシュしています。
―サッカーから離れるために、そのようなオフシーズンを過ごしているのですか。
丹羽:サッカーに直接繋がってはいませんが、間接的には繋がっていると思います。
色々な方と出会ったり、絵を観たり、大自然のエネルギーをもらったりする事で五感が刺激されて自分の感性が磨かれているような感覚になります。山を登るにしてもわざと遠回りをして色んな風景や景色を見たり、海に行ってアクティブに楽しんだり、波の音を聞いてリラックスしたり、海の中を歩いたり泳いだりもしています。
一見サッカーとは直接関係のないようなことでも、自分の中で全てサッカーの為に繋げている感覚です。
―なかなか聞かないオフシーズンの過ごし方ですね。
丹羽:例えば食事に行く際もただ何も考えずにレストランを選んで食べ物を選ぶのではなく、「これはどういう栄養があって、今の旬の食べ物は何かとか、ここの地域の特産物は栄養価が高い」など、自然となんでも健康な身体作りから逆算した食事をしてしまう癖があります。
―オフシーズンでもそこまで色々なことに気をかけているのですね。
丹羽:そうですね。今までのオフシーズンは、家族と一緒に過ごしていましたが、今年は結婚して以来、初めての一人でのオフシーズンだったので、一人の時間を楽しみました。
「リラックスしながらも、サッカーに対する一本の糸はピンっと張っている状態」シーズン直前の過ごし方
―それからどのようにシーズンインされましたか。
丹羽:普段からベタ休みをせず、アクティブに脳と身体を動かしていました。
頭の中でイメージしている身体の感覚が年々、イメージ通りに動くようになってきています。
若い時は、自主練のキャンプをして、食事、筋トレ、フィジカル、プールをして、オフの日はこれだけとる、といった色々なことを理詰めでやっていました。
個人トレーナーを付けてみっちり自主トレをしたりもしましたが、今の年齢になって、結局は自分の身体の状態は自分が一番知っていて、毎日自分の身体としっかり会話をして、脳と身体の動きにギャップがないようになった状態でチームのキャンプインする事が大切だと思います。
「如何にストレスがないように、如何に自然体で臨めるか」というのが、今の僕のフォーカスしているポイントです。
ほとんどのサッカー選手は、キャンプインの大体2.3週間くらい前から自主トレを初めて、チームにキャンプインします。
僕は毎年試行錯誤しながら色々な調整方法をしてきました。
全く何もせずにキャンプインした時もありましたし、その中で今少しずつ出てきた結果は、先程も言いましたが「如何にストレスなく、如何に自然体で、自分の脳でイメージ通りに身体の動けるようにするか」が大切だと思います。まったく自主トレをやらないわけではないですが、今はキャンプ前に自分をめちゃくちゃ追い込むことはしていません。
海に行っても今までであれば「海に走りに行こう」となりますが、今の考えは「海に行ってリラックスも出来るし、ちょっとした時間を使って海沿いを軽く歩いたり走ったり泳いだりして、波の音をゆっくり聞きながら自主トレをしよう」と、少し考え方を変えていっています。
でも今の調整方法は、若い時に色々な調整方法を試して経験をしてからなので「全く自主トレをやらないことが良い」とかそういうことではなく、色々なことを試行錯誤して自分に合うオフシーズンの過ごし方を見つけて、キャンプインするのがベストだと思います。
―選手によって調整方法は違いますか。
丹羽:全く違うと思います。個人トレーナーを付けて自主トレをする選手もいますし、チームメイトや自分一人でトレーニングしたり、まったく動かない選手もいます。
サッカーは90分の中で、89分間は走って、1分ボールを触れるか、触れないかのスポーツなので、素走り、ランニングが1番大事というのは僕のサッカーに対する考えのベースにあります。
89分間走り続けるスポーツなのに、毎日20分30分走らなかったら、それは90分間仕事ができないということです。プロサッカー選手で90分間走ることができなくなった選手は、引退が近付くと思いますし、体力だけは維持し続けることを考えています。基本的にそれ以外は赴くままにやっています。
―その過ごし方にどんなメリットがありますか。
丹羽:精神的にリラックスした状態でシーズンインできると思います。
チームのキャンプがスタートすれば、自ずとスイッチが入って必死にアピールして、レギュラー争いが始まるので、自主トレの段階で無理矢理スイッチを入れなくても、シーズンが始まれば勝手にスイッチが入ります。それよりは如何にリラックスして、その中に、少しピンっと糸を張った状態をキープすることが大事だと思っています。糸が切れてしまったら、何も考えずに怠けていることになってしまうので、その糸の張り具合を少し保っている状態で、オフシーズンを過ごすことを意識しています。
今は様々なトレーニング方法があると思いますが、僕が最も大切にしているのは素走り、ランニングです。
「ランニングをやって体幹をする」「ランニングをやって筋トレをする」「ランニングをして緩める」「ランニングをしてボールフィーリングを確かめる」といったように、人間が毎日当たり前のように三食、食事を取るのと同じような感覚で僕は毎日裸足でランニングをしています。
裸足でランニングをする事によって、自然と人間本来のランニングフォームに改善され、足で地面を掴む感覚、足の裏全体の筋力アップ、足首、膝、腰の可動域の広がり、身体全体の怪我の予防にもつながる。
といったいくつかの効果があるので僕は毎日裸足でグラウンドを走っています。
人間は、お腹が空いてたら生きていけませんが、プロサッカー選手もランニングが出来ないと生き残っていけない世界だと思っています。
「シーズン初日から実戦の毎日」シーズン入りして感じた、日本との大きな違い
―シーズンが始まって、日本とスペインで変わったことはありますか。
丹羽:身体が仕上がっていることを前提に始まることが、日本とスペインの大きな違いです。
日本だったら1週目にフィジカル練習、2週間目くらいに対人練習を入れて、3週目に練習試合を入れるというように徐々にコンディションを上げていく流れなのですが、スペインでは、初日からボールトレーニングや対人練習をバンバンやっていました。僕は先程言った調整方法を意識しながら準備をしていましたが、シーズンが始まった時は日本とスペインの調整方法の違いに少し驚きました。
―始動して初日から実戦など、調整方法が違う中でキチンと順応できましたか。
丹羽:順応はできました。ただ、始動して1週間で練習試合があり、今年から新監督に変わったという事もあり、実戦の中で選手のパフォーマンスを見て、実戦で戦術を練って、実戦で良い選手を使うというような流れです。日本はフィジカルの数値等を見ることから始まりますが、こっちではいきなりピッチの上で何ができるのかを実戦の中で見られているのだと思います。実戦がかなり多くて、中一日で試合をやった時もありました。
僕は中一日での連戦はプロになって初めてで、前の試合にスタメンで出ていたので、次の試合は流石に出ないだろうと思っていたら、監督から試合前に「今日は後半の頭から出るぞ」と言われました。
これはヨーロッパでは当たり前なのか、今の監督のやり方だけなのかはわかりませんが、意外と中一日で二試合やっても身体は動くものだなぁと、そして色々と自分の脳の中で、中一日では試合が出来ないとか勝手に自分の過去の経験から決めつけてはいけないと思いました。
―そんな強行スケジュールの中で故障や怪我はしませんでしたか。
丹羽:身体は大丈夫でした。チーム内で怪我人は少し出ていますが、日本で同じ状況だったら、「二部練を入れすぎだから怪我をする」「試合をやり過ぎだから怪我をする」などという議論が行われますが、スペインでは、怪我をした選手やパフォーマンスを出せなかった選手に全て責任があり、スケジュールや試合に関して文句を言っている選手は一切いませんでした。
―どちらが良い、悪いはないと思いますが、丹羽選手はどちらのやり方が好きですか。
丹羽:僕はスペインの実戦派です。
日本ではフィジカルコーチ、コーチ、監督が選手それぞれのコンディションを見ながらメニューを考えて、徐々に上げていこうとなりますが、僕は初日からいつでも試合ができる状態でシーズンインをしているので、実戦で感覚を研ぎ澄ましていく方が好きなので今のやり方が合っていると感じます。
試合の集合時間も、日本はホテルに前泊したり、試合開始時間の結構前に集まって、散歩、軽食、ストレッチ、ミーティングと前もって準備をしていきます。
試合が終わった後も、全体でミーティングをしてから全員でバスで帰ってホテルで解散しますが、今のチームでは現地集合、現地解散で、シンプルに試合だけをして帰るって形になります。
―1時間前くらいに集まってアップして試合をするようなイメージですか。
丹羽:はい、そうです。
1時間ちょっと前にスタジアムにそれぞれで集合して、サクッとミーティングをして、ウォーミングアップ、キックオフといった流れになります。
―Jリーグは、試合が夜だと、お昼をチームで食べてますよね。
丹羽:全部チーム全員で行動をします。
ホテルに集合して、散歩、ストレッチ、食事、ミーティングをしてそれから試合に向かっていました。それは試合に向けて選手が最高のパフォーマンスを出せる状態をクラブや監督が用意してくれているということですが、僕はこの年齢になって、試合までのアプローチを自分自身でコントロールができるようになったので、今のチームのやり方がより合ってると思います。
―すべて自分に合っていたのですね。
丹羽:合っていたという感覚よりも、自分が合わせた、アジャストしたというような感覚です。
フォワードやキーパーの選手は、飲み物で例えると「コーラ」のような刺激的なものだと思います。
自分の色、特徴、味、要は個性を貫く傾向がある選手が多いイメージがありますが、僕は飲み物に例えると何にでも割れる「水」だと思っています。どんなチームにも、どんな環境にも適応できる柔軟さと、自分というブレない軸も持っている飲み物で例えると「水」のような人間だと思います。
―その適応力は、どのように身に付けましたか。
丹羽:4人兄弟の末っ子という家庭環境も影響していると思います。二人の兄、姉の姿を常に観察して、客観的に物事を見る感覚を幼い頃から培っていたのかもしれません。兄弟が両親に「なぜ怒られているのか」「なぜ褒められているのか」というのを常に見て考えていました。その頃から周りの人を観察するのが好きで、今の自分も「周りの選手がどのようなメンタリティーでサッカーをやっているのか」をいつも観察しています。
例えば試合の日の朝に、表情が少し暗かった選手がいて、その理由を前もって聞いておけば、その選手が試合中にミスをしてもイライラせず、ある程度その選手の気持ちに歩み寄る事が出来て、お互いに良い話し合いをすれば次に良いプレーが出来たりもします。
人の心を汲み取って行動したり、発言したりすることは僕の中でとても大切な事だと思っています。「水」と表現させてもらったのも、そういった考えが自分の性格の特徴でもあります。
小中高プロでずっとキャプテンや学級委員、選手会長など人を引っ張っていく役職を任せてもらっていたのはそういった行動や発言からきているのかなぁと思っています。
―その中でも軸があるのがすごいですね。
丹羽:そうですね。例えば、ミスをした選手のことを考え過ぎて自分もその選手に全て影響されるのではなく、頭の片隅に入れて接するくらいの感覚です。「周りの人に合わせないといけない」と思い過ぎると自分軸がブレブレになってしまいますし、自分のことだけを考えて、他の人の意見を全く聞かなかったりすると、他の人の行動や気持ちを分からない、ただの頑固な自分になってしまうので、前回話した「自信と謙虚」と同じで、「人に合わせないといけない自分」と「これだけは譲れない」自分を両建てで持っています。
「スペインでサッカーができる喜びを噛みしめている」開幕に向けての意気込み
―開幕戦が間もなくになります。最近はどのように過ごしていますか。
丹羽:9月5日に開幕戦なので、とても楽しみです。スペインに来て初めての開幕戦で想像もしていないようなことが色々とあると思いますが、何が合っても臨機応援に対応できるように頭の準備だけはしっかりとしておきたいと思っています。
―開幕直前で、日本との違いはありますか。
丹羽:開幕までに練習の時間よりも、より実践の試合が増えている中での開幕戦なので、どれだけ自分が良いパフォーマンスを出せるか楽しみです。
自分の頭と身体がイコールになってくれば、おのずと良いパフォーマンスが出せると思っているので、常に頭をフレッシュにして良い準備をしていきたいと思っています。
―楽しみでもあり、不安でもありますね
丹羽:不安な気持ちは一切ないです。
一番大事なのは、頭の中をクリアにして、如何に脳をフル回転できるかということだと思います。
―新シーズンへの意気込みを教えてください。
丹羽:いつどのタイミングでどうなるか分からないスペイン生活の中で、一瞬一瞬、一日一日を大切にして、スペインでプロサッカー選手としてプレーができる喜びを噛みしめながら毎日生き続けたいと思っています。
今年の1月からビザの関係で試合に出場できるかわからない状況があったからこそ、今、試合に登録できて、試合に出場できる権利がある状態が本当に幸せだと思っています。逆にその経験がなかったら「試合に登録できて出れるのが当たり前」と思っていたかもしれません。これからの未来の事は誰にもわかりませんが、目の前の結果を求めるよりも、結果を求めるプロセスを大切にしながら今シーズンも熱く闘って行きたいと思います。
ここまでサッカーに育ててもらい、サッカーのお陰で今の自分があると思っています。
現役中はそのサッカーに全てを注いで情熱を持ってこれからも生き続けたいと思っています。
スペイン1年目の開幕戦がいよいよ始まります。
<前の記事【丹羽大輝コラム】Vol.8「この記事と出会った方が、少しでも人生を変えるきっかけになってもらえれば」スペイン挑戦を経て、今、丹羽大輝が伝えたいこと
日本代表にも選出されたこともある、日本を代表するディフェンダーの丹羽大輝選手。Jリーグのガンバ大阪、サンフレッチェ広島、FC東京など数多くの強豪クラブを渡り歩き、今はスペインのセスタオリーベルクラブに所属。ピッチ外でも、復興支援活動や、ファン、サポーターの方と文通など、精力的にサッカー選手の価値を高める活動している。そんな彼が、Vol.8では、昇格を決めた際の心境や、自身のスペイン挑戦を経て、丹羽選手が悩みや迷いを抱える人に伝えたいことを語ってくれた。
■PasYouでビデオメッセージをリクエストしよう!
憧れの選手から『あなただけ』に向けた完全オリジナルメッセージが届きます。ファンの方のリクエストをもとに、1つずつビデオレターを撮影いたします。(一本およそ60秒程度です。)特に、下記のようなリクエストが集まっております。
『毎日頑張る子どもにメッセージを贈りたい!』
『友人の誕生日にメッセージを贈ってあげたい!』
『大事な試合に向けて、自分のことを鼓舞してほしい!』
丹羽大輝|僕からあなたに贈るビデオメッセージ
憧れのアスリートに、世界で一つのビデオメッセージをリクエストしよう!ご自身へのエールや、ご家族ご友人へのプレゼントなどでご活用頂けます。アスリートが皆様のリクエストを受けて一つ一つ作成します。
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