10月7日(日本時間8日午前2時キックオフ)にサウジアラビアとの第3節、同12日にオーストラリアとの第4節を控える日本代表だが、サウジアラビア戦はジェッダで行われるアウェー戦(オーストラリア戦は埼玉スタジアムでのホーム開催)のため、9月8日の中国戦(カタール、ハリファ国際スタジアム)に続いてテレビ中継が行われないことになる。中国には1-0で辛勝したものの、9月2日のオマーンとの初戦(パナソニックスタジアム吹田)で0-1の敗戦を喫している日本にとって、今後を占う重要な一戦を見るには、月額1925円(税込)を支払ってDAZNと契約するしか合法的な手段はない。日本代表戦がテレビ中継されなかった例として、最近では2010年1月6日のアジア杯予選イエメン戦(サヌア)、2019年南米選手権があるが、W杯予選では少なくとも21世紀に入ってから一度もなかったことだという。

 発端は、主催者で放映権を一括管理しているアジア・サッカー連盟(AFC)がDAZNと長期契約を締結したことにある。AFCは、スイスと中国の合弁会社「DDMCフォルティス」と8年総額20億ドル(約2200億円)とされる大型契約を結び、放映権を獲得するには同社との交渉が必要となった。そこで手を挙げたのが、豊富な資金力を持つDAZN。アジア予選、アジア杯、アジアチャンピオンズリーグ(ACL)、女子アジア杯などAFC主催14大会の放映権獲得で合意した。

 AFCが2005年にテレビ朝日と契約した際の放映権料は4年90億円。関係者によると、テレビ朝日とAFCが結んだ日本国内での独占放映権料は最高でも4年170億円前後というから、まさに桁違いに価格が高騰したことになる。その中で、テレビ朝日はホームの試合の放映権だけは死守することで何とか意地を見せた形だ。「絶対に負けられない戦いが、そこにはある!」とお茶の間に激闘を届け、盛り上げてきた同局は、東京五輪で高視聴率を得たことによる後押しもあり一念発起。放映権料は1試合で推定2、3億円規模とみられている。

 “騒動”の主な背景には、アジアにおけるサッカーを巡る環境の変化と、コロナ禍の影響を受けたテレビ局の苦しい台所事情がある。新型コロナウイルスの感染拡大で予定通りに試合を消化できるかは不透明な状況だ。また、時差の関係で深夜や早朝のキックオフとなるアウェー戦は、ただでさえスポンサー離れの問題がある中で、見込める広告収入と放映権料の乖離が大きすぎるという事情もある。これらリスクを考えれば、なかなかテレビ局が高額での放映権の獲得に手を挙げられないのもうなずける。

 また、W杯は2026年大会から参加国が「32」から「48」に拡大することが決まっており、これに伴い、アジアの出場枠は現在の「4.5」から「8」へ大幅に増える見通し。つまり、日本にとってアジア予選は今後、出場権を懸けた「絶対に負けられない戦い」とはいえなくなるのが実状だ。一方でW杯出場が現実的なものとなる中国、東南アジア、中東ではW杯予選のコンテンツ価値は必然的に上がる。経済的発展著しい国との交渉を見据え、先行投資するだけの理由が国境をまたいで事業を展開するネット配信の企業にはある。そうした事情が、今回の“放映権バブル”を誘引していると見る向きも多い。

 もちろん、熱心なサッカーファン、スポーツファンにとってはJリーグ、欧州各国のリーグなどサッカーコンテンツの豊富なDAZNへの加入は、さしたるハードルとならず、とっくに加入を済ませている人も多いことだろう。しかし、顧客とどれだけ多くの「接点」をつくれるかは、マーケティングの基本。日本サッカー協会の田嶋幸三会長が今回の事態を受けて「(日本代表の試合は)どなたでも見られる環境であるべきだ」「申し訳ない」と話すように、一般視聴者とサッカーという競技の最大の「接点」となる日本代表戦が、限られた環境でしか見られないコンテンツになれば、サッカーの普及という面で大きなマイナスになりかねない。

 主催者ではない日本サッカー協会は契約にタッチできる立場になく、危機感を抱きながらも、根本的な打開策を見出せずにいる。テレビ朝日系「やべっちF.C.~日本サッカー応援宣言~」やTBS系「スーパーサッカー」といった長寿番組がテレビ放送を終え、Jリーグのテレビ中継も激減し、サッカーの存在感は確実に地上波から薄れようとしている。“大衆の娯楽”であった一大コンテンツは今、確実に大きな岐路に立たされている。

「DAZN」公式サイトより引用

VictorySportsNews編集部