この組み合わせを、シーズン前は誰が予想しただろうか。なにしろヤクルトもオリックスも、昨年までは2年連続のリーグ最下位である。リーグ覇者以外のチームがCSを勝ち上がると、しばしば「下克上」などといわれるが、最下位翌年の優勝もそう呼ばれてしかるべきだろう。そういう意味では、2年連続最下位から巻き返してリーグの頂点に立ち、順当にCSを勝ち上がってきた両チームによる対戦は、究極の「下克上シリーズ」と言ってもいいのではないか。

注目の第1戦は山本VS奥川の投げ合いか。DH制もカギに

 今シーズン、両チームは2年ぶりに開催されたセ・パ交流戦で、5月28日から30日にかけてオリックスの本拠地・京セラドーム大阪で対戦している。初戦はオリックス・山本由伸、2戦目はヤクルト・小川泰弘というそれぞれの開幕投手による好投で星を分けると、3戦目は点の取り合いの末、オリックスが吉田正尚の2点三塁打で逆転勝ち。幸先良く最初のカードを勝ち越したオリックスは、その後も快調に白星を重ねて11年ぶりの交流戦優勝を果たす。

 山本はこのヤクルト戦の勝利を皮切りに、シーズン終了まで破竹の15連勝を続け、最終的には18勝(5敗)、勝率.783、防御率1.39、奪三振206で投手四冠を獲得。夏の東京五輪でも2試合に先発して防御率1.59と、侍ジャパンの金メダルに貢献するなど、23歳にして日本を代表するエースに成長した。

 11月10日に行われたクライマックスシリーズ(CS)ファイナルステージ初戦でも、ロッテを相手に10奪三振、無四球で完封と貫録を示したその山本が、日本シリーズ第1戦の先発マウンドに上がるのはほぼ確実。一方のヤクルトで、これに相対すると見られているのが、20歳の奥川恭伸である。

 この奥川も高卒2年目の今シーズンは、登板ごとに10日前後の間隔を空けながらドンドン安定感を増し、チームトップタイの9勝(4敗)をマークしている。圧巻だったのが、11月10日のCSファイナルステージ初戦。プロ入り後、それまで自己最長だった7回を超えて9回を98球で投げ切り、被安打6、奪三振9、与四球0で無失点に抑えた。100球未満でのシャットアウトは、抜群の制球力でメジャー通算355勝を挙げた大投手にちなんで「マダックス」と呼ばれるが、20歳6カ月での完封勝利はCS史上最年少記録となった。

 この山本VS奥川の投げ合いが予想される第1戦こそ、今年の日本シリーズ最大の注目であり、その後の行方を占う試合といっても過言ではないだろう。初戦で山本がヤクルト打線を封じ込めれば、オリックスの先発陣には奥川と同じ高卒2年目の宮城大弥(今季13勝4敗)に、田嶋大樹(今季8勝8敗)、山﨑福也(今季8勝10敗)の先発左腕トリオが控えているだけに、そのまま日本一に突き進む可能性は大いにある。逆に奥川がCSのような快投で山本に投げ勝つことがあれば、ヤクルトが一気に勢いに乗ることも十分に考えられる。

 オリックスの打線でカギを握るのは、3番の吉田正尚だ。今年は2年連続のパ・リーグ首位打者に輝いただけでなく、侍ジャパンでも3番バッターとして、山本らと共に東京五輪の金メダル獲得に貢献。9月に左ハムストリングの筋損傷、10月には死球による右尺骨骨折で離脱しながらも、CSファイナルに合わせて急ピッチで復帰したが、状態は万全とはいえない。東京ドームで行われる第3~5戦は指名打者(DH)制ではないため、守備に就くことができるかどうかもポイントになりそうだ。

 一方、京セラドームの第1、2戦、ほっともっとフィールド神戸で予定されている第6、7戦はDH制で行われるため、DH制のないセ・リーグでレギュラーシーズンを戦ってきたヤクルトは、誰かをDHで起用することになる。最有力候補は、4月下旬のチーム合流からCSにかけて主に右翼手としてプレーしてきたドミンゴ・サンタナだろう。

 肩は強いが動きは決して俊敏とはいえず、ゲーム終盤に守備固めを送られることの多いサンタナは、メジャーリーグ時代にDHを経験しており、今年の交流戦でもビジター9試合中7試合にDHで出場して24打数8安打(打率.333)。今シーズンのヤクルトは6月以降、打順がほぼ固定されるようになり、最終盤に5番のホセ・オスナと7番のサンタナを入れ替えると、CSでは3試合とも投手を除いて不動のラインナップで戦った。おそらくはDHがあっても基本的な打順は動かさず、サンタナの代わりにライトを守る選手を9番に入れてくるのではないか。

 打線に関していえば、山田哲人、村上宗隆(セ・リーグ本塁打王)の東京五輪金メダルコンビを中軸に据え、両リーグ最多の625得点(1試合平均4.4得点)を叩き出したヤクルトに分がありそうだが、先に名前を挙げた4人を中心としたオリックスの強力先発陣を攻略できるか。もっとも、今季のヤクルトの躍進を支えたのは実は投手陣。オリックス打線は首位打者の吉田のみならず、4番には青学大の先輩であり、今季は打率.301、32本塁打、83打点と大ブレイクしてホームラン王にもなった「ラオウ」こと杉本裕太郎もおり、投手陣が前後の打者も含めてどう抑え、粘り強くロースコアの展開に持ち込んでいくかが、ヤクルトにとってのカギになりそうだ。

どちらが勝っても歴史的な日本シリーズ制覇

 今シーズンのプロ野球は、新型コロナウイルス感染拡大を受けた営業時間短縮要請に対応するため、両リーグともに延長戦なしの特別ルールで行われていたが、この日本シリーズでは原則として延長戦が12回まで行われる。ヤクルトの高津臣吾監督は昨シーズンから、オリックスの中嶋聡監督も昨季途中から監督代行として指揮を執っており(昨年は延長10回まで)、どちらも最長12回までの戦いは“未知の体験”。これが継投を含めた選手起用にどう影響するかという点にも、注目したい。

 両者が日本シリーズで対戦するのは、オリックスがまだ前身の阪急だった1978年、そして1995年に次いで3度目。現在のオリックスは、2004年オフの球界再編で近鉄との合併により生まれ変わった球団だが、ヤクルトはその近鉄とも2001年に対戦していて、1978、1995年も含め、すべて日本一になっている。

 なお、ヤクルトが勝てば2001年以来、オリックスが勝てば1996年以来の日本一だが、それだけではない。どちらが勝っても、1960年の大洋(現DeNA)に次いで、61年ぶり2度目の前年度最下位チームによる日本シリーズ制覇となる。“歴史的”なシリーズを制するのは、果たしてヤクルトか、それともオリックスか─。


菊田康彦

1966年、静岡県生まれ。地方公務員、英会話講師などを経てメジャーリーグ日本語公式サイトの編集に携わった後、ライターとして独立。雑誌、ウェブなどさまざまな媒体に寄稿し、2004~08年は「スカパー!MLBライブ」、2016〜17年は「スポナビライブMLB」でコメンテイターも務めた。プロ野球は2010年から東京ヤクルトスワローズを取材。著書に『燕軍戦記 スワローズ、14年ぶり優勝への軌跡』、編集協力に『東京ヤクルトスワローズ語録集 燕之書』などがある。