2021シーズンのJリーグでは20を超えるメーカーがサプライヤーに…オリジナルブランドを立ち上げるクラブも

 2021シーズン、J1~J3に所属する57クラブにユニフォームを提供しているメーカーは20社を超えている。中でも、プーマは川崎フロンターレやセレッソ大阪、清水エスパルスなど、8クラブのサプライヤーとなっている。次いで、アディダス、ミズノ、ペナルティがそれぞれ5クラブのサプライヤーを務めている。そしてアスレタが4クラブ、ナイキやSoccer Junky、ヒュンメル、ヨネックスが3クラブで続いている。こういったJリーグの57クラブにユニフォームを提供しているメーカーは、全部で23となっている。そんな中、J3の鹿児島ユナイテッドFCはJリーグクラブ初となる自社ブランド「ANGUA(アングア)」のユニフォームを採用している。サッカーというコンテンツを活かし、鹿児島の良質なプロダクトやアーティスト、デザイナーなどと積極的にコラボを行っているという。

欧州クラブではメーカー同士の激しい争奪戦も?ユニフォームサプライヤーの費用対効果は…

 Jリーグでは、多くのクラブがメーカーから無償でユニフォームの提供を受けているが、欧州クラブの場合は契約金を受け取っているクラブも多い。そのクラブの知名度が高く、ファン・サポーターが多ければ多いほど、その金額も高額になる。そのため、各メーカーはビッグクラブとの契約を獲得するために多額な費用をかけている。それでも欧州のビッグクラブのユニフォームは、クラブのある国だけでなく、日本を含む世界中で販売されているため、メーカー側としても利益を見込めるだろう。

 一方でJリーグクラブは、まだ多額の契約金が発生するという段階には至っていないのが現状だ。そして、J2やJ3の複数クラブのサプライヤーを務めるとあるメーカーの関係者に聞いたところ、「Jクラブへの無償提供は費用対効果が高いとは言えない」と胸の内を語っていた。さらには、「利益を上げるという面では、毎年安定してユニフォームを購入してくれる中学校のクラブチームや高校サッカー部のほうが貢献してくれているのが正直なところ」と、費用対効果だけを考えると、必ずしもプロサッカークラブへの提供が効果的とは言えないと話す。そしてJクラブの場合は試合ごとに新しいユニフォームを着用することや、カップ戦や練習試合用のユニフォームなど単純に提供数が多くなるため、それだけコストがかかることも事実だ。

 ただ、Jクラブのサプライヤーを務めることによって、メーカーの知名度やブランドイメージが向上するといったメリットもあるため、将来への投資と考えているメーカーも少なくはないだろう。複数のメーカー関係者に聞いたところ、プロサッカークラブとサプライヤー契約を交わす際は、3年などの複数年契約を交わすことが多いとのこと。なお、市販されているユニフォームにはレプリカとオーセンティックの2種類があるが、レプリカユニフォームの原価は800円~1000円前後だという。

選手とメーカーのスパイク契約の内情。契約にもいくつかのランクが

 プロサッカー選手が試合に出場する際に必ず身につけ、唯一自分自身で好きなメーカーを選ぶことができるのがスパイクだ。スパイクはJ1だと提供を受けている選手が多いが、J2やJ3では自ら購入する選手が多いと複数の現役Jリーガーが明かしている。実際、J2やJ3のユニフォームサプライヤーを務める某スポーツメーカーの関係者に聞くと、「基本的にJ3の選手にはスパイクの提供は行っていない」という。J3の選手への提供だと、費用対効果が見込めないのが理由のようだ。そんな選手とメーカーの契約にはいくつかのランクがあるという。とある元Jリーガーによると、某大手スポーツメーカーでは、金銭の契約が発生する選手と、金銭の提供はなく、物品提供のみの選手に分かれるという。物品提供のみの場合でも、提供する数やスパイク以外のアパレルなどの商品も提供するケースなど、様々な形態があるようだ。

 そんな中で、費用対効果が見込めないと判断されると契約を解除されるケースも少なくない。昨年11月、ヴィッセル神戸に所属する前川黛也選手が、2019年末にプーマとのサプライヤー契約を解除されたことを自身のnoteに投稿し話題になった。同選手は大学時代から約6年間、プーマからスパイク、キーパーグローブやアパレルなどのサポートを受けていたようだ。同選手がプーマから契約解除の宣告を言い渡された背景を自分なりに考え直した結果、物品提供に見合った宣伝や価値がないことと、物を大切にしていないことの2つを挙げていた。今年は、新型コロナウイルスの影響で各メーカーとも厳しい状況にあるため、メーカー側から契約解除を言い渡される選手も少なくないだろう。選手によってはクラブのサプライヤーを務めるメーカーから年間数足といったスパイクの提供を受けられる選手もいるが、そうでない選手は自分でスパイクを購入することになる。

YouTuberやインフルエンサーへ提供する流れが増加

 スパイクなどの物品提供を受ける選手が減りつつある中で、YouTuberをはじめとするインフルエンサーへの提供が増加している。沖縄を拠点にドリブル塾を運営し、YouTubeのチャンネル登録者20万人を超えるREGATEドリブル塾のたくやとしょうちゃんは、アディダスからプロモーション協力のオファーがあり、現在同メーカーとの契約を明かしている。これについて、サッカー系YouTuberのマキヒカ氏は「Jリーグや日本代表のテレビ露出が減り、スパイクが映る場面が限られているのに対し、YouTuberは靴が映ることが多く、スパイクの紹介動画も出すことができる。選手に提供するより、費用対効果が見込めるYouTuberに提供したほうが早いとメーカーが考えるのは当たり前だ」と語っている。

 スパイクではないが、某プロテインメーカーがとある人気サッカー系YouTuberに10万円の予算でプロモーションを依頼したところ、かなりの反響があり、売上も増加し、費用対効果が抜群に高かったようだ。また、関係者によると、天才として注目され、複数のテレビ番組にも出演経験のある某天才サッカー少年は、小学生にして既にアディダスからの物品提供を受けているという。同少年のSNSアカウントはInstagramのフォロワーが2万人を超えており、YouTubeにも多数の動画を投稿している。以前のようにJリーガーが当たり前のように物品提供を受けることができる時代ではなくなってきているようだ。

 コロナ禍で厳しい状況が続くメーカーが多い中、スパイクなどを提供する対象も変わってきている。メーカーから物品提供を受けるアスリートは、提供を受ける以上、メーカーの売上や利益に貢献する必要がある。今後は、宣伝や発信を積極的に行い、メーカーに還元できる選手のみが提供を受けることができる時代になるかもしれない。


辻本拳也

一般人社団法人クレバリ代表理事。 大学卒業後の2018年4月にサッカースクールを開校し、代表に就任。 20年2月に一般人社団法人化する。サッカースクールを運営する傍ら、ライターとして、 複数のスポーツメディアで執筆している。 これまでに、元Jリーガーのインタビューやダノンネーションズカップなど、 育成年代の大会やイベントを中心に取材してきた。