49勝48敗11引き分け──。2年ぶりに開催されたセ・パ交流戦は、セ・リーグの12年ぶりの勝ち越しで幕を閉じた。しかも広島を除く5球団が勝率5割以上、もしくはそれに近い成績を残し、18日からのリーグ戦再開を迎えようとしている。

 現在のセ・リーグの順位は1位・阪神、2位・巨人、ヤクルト(同率)、4位・中日、5位・DeNA、6位・広島。
13日の結果により巨人とヤクルトが同率で並び、最終的には下位の順位に変動があったがAクラス、Bクラスは交流戦前と変わっていない。。実はこのセ・リーグの展開を、ほぼ予想していた解説者がいる。昨年限りで23年間の現役生活にピリオドを打ち、今シーズンはテレビやラジオでの落ち着いた解説で話題の五十嵐亮太氏だ。

 開幕前の五十嵐氏の予想は1位・巨人、2位・阪神、3位・ヤクルト、4位・中日、5位・広島、6位・DeNA。現在は阪神が巨人とヤクルトに7ゲーム差をつけ、独走態勢に入りつつあるが、阪神が予想を上回る快進撃を見せている要因はどこにあるのか?

「結局は投打のバランスが良いっていうことですよね。佐藤(輝明)選手の活躍もありますし、戦い方を見ていても雰囲気が良いっていうことが伝わってきますよね」

 昨年は投高打低の感があった阪神だが、今年はリーグ2位のチーム防御率3.28に加え、チーム打率.254もトップの巨人と僅差の2位。1試合平均4.6得点はリーグ1位と、高いレベルでバランスが取れている。

 また、ドラフト1位の佐藤はこの交流戦で新人記録を塗り替える6本塁打を放つなど、ここまでいずれもリーグ4位の16本塁打、44打点。ドラフト6位の中野拓夢はリーグトップの13盗塁を決め、ドラフト2位の左腕・伊藤将司も先発ローテに入って4勝を挙げるなど、ルーキーがしっかりと戦力になっているのも大きい。

「ベテランとか中堅っていうのはある程度、計算できるじゃないですか。でも、新人とか若い選手っていうのは計算しにくいんですよ。だから佐藤選手にしても、活躍するだろうとは言われたけど、その計算しにくかった部分でこれだけ活躍しているっていうのが大きいですよね」

 4月下旬には開幕投手の藤浪晋太郎が2軍落ちするも、交流戦中に昇格するとセットアッパーに定着。5月に4番の大山悠輔が背中の張りで離脱した際には佐藤がしっかりと代役を務めるなど、今シーズンの阪神にはここまで大きなマイナスがない。

「阪神は誤算が少ない。普通の戦い方ができているっていうのは、当たり前のようで当たり前じゃないので、それができるチームは強いですよ。そう考えると、巨人はちょっとケガ人が出すぎましたよね」

 五十嵐氏がそう話すとおり、昨年までリーグ2連覇中の巨人は、ここまで相次ぐ誤算に見舞われている。5月初旬にはエースの菅野智之とキャプテンの坂本勇人がそろって離脱。菅野は6月に入って復帰も2試合の先発で2敗を喫し(16日付で再び登録抹消)、坂本は交流戦最後のカードで戦列に戻ったばかり。DeNAからFA移籍の梶谷隆幸と交流戦で打率チームトップの吉川尚輝は故障、開幕時に5番を打っていた丸佳浩は不振のため、今も登録を抹消されている。

「中継ぎや抑えも揃っていなかったり、原(辰徳)監督にとっても想定外というか、ここまでのことは想像してなかったんじゃないかなって思います。(米球界から復帰の)山口(俊)投手を獲得しましたけど、その辺の投手陣の整備ができて、ケガ人が戻ってきたら、また違った戦い方になるのかなっていうところですね」

 五十嵐氏は「今の戦い方を見ていると、阪神が崩れていくとか、状態が落ちていくのは想像しにくいなと思います」と言うが、その阪神の対抗馬になりそうなチームはあるのか?

「ヤクルトはかなり面白いんじゃないかなと思います。交流戦も(10勝8敗と)勝ち越しましたし、今年は中継ぎ、抑えがそこそこ計算できてるんですよ。打線も粘り強くて、終盤に逆転する試合も多いですよね」

 昨年のヤクルトはチーム防御率4.61と両リーグワーストだったのだが、今年は3.81でリーグ4位と大きく改善されている。特にリリーフは防御率3.45でリーグ2位と健闘している。

「(中継ぎで防御率0.96の)近藤(弘樹)投手の離脱は痛いですし、石山(泰稚)投手の(抑えから中継ぎへの)配置転換も誤算ですけど、今年はそこを補えるチーム状況になってますよね。今野(龍太)投手が中継ぎでかなり頑張ってますし、8回の清水(昇)投手がまあまあ安定している。9回も(スコット・)マクガフ投手でカバーできてるわけですよ。誰かが抜けたらどうにもならないっていう状況ではないので、そういった意味でも、中継ぎの層の厚さはかなり出てきてるのかなと思いますね」

 さらに言えば、阪神と同様にヤクルトにも「計算しにくかった部分」で新たな戦力が出てきている。それがここまでプロ初勝利を含む3勝を挙げている4年目の金久保優斗であり、やはりプロ初勝利を含め2勝している2年目の奥川恭伸といった若手である。こうした投手陣の底上げに大きく寄与しているのは、今シーズンから復帰した伊藤智仁投手コーチだと、五十嵐氏は指摘する。

「ピッチャー陣に関して言うと、今年は全体的に球種を増やしてると思うんですよね。それはたぶん、伊藤コーチが『リスクを恐れないで、ドンドン新しい球種にトライして行こう。失敗してもいいからやってみよう』っていう指導をしていて、そういったところが今の成績につながっているんじゃないかと思います」

 若き4番の村上宗隆を中心とする打線に目を向けても、キャンプ、オープン戦に参加できないまま、ほとんど“ぶっつけ本番”で合流した新外国人のホセ・オスナとドミンゴ・サンタナが共に3割近いアベレージを残すなど、ここでも「計算しにくかった部分」での上積みがある。さらに今年に限っていえば、ヤクルトにとって有利な“条件”があると五十嵐氏は言う。

「今年は9回までしかない(延長戦がない)ので、投手や野手の負担を減らせている。だからケガ人も少なく、良い状態でシーズンを通してやっていけるんじゃないかなと思います。それに今年はオリンピックで(ペナントレースの中断期間があって)1カ月休むので、これも大きいんですよ。特に中継ぎ、抑えは『何とかオリンピックまで頑張りましょう』ってなるので、そういった意味ではこの先もヤクルトにとっては有利になるんじゃないかなと思っています」

 決して選手層が厚いとは言えないヤクルトにとっては、延長戦なしという今シーズン限定の特別ルール、そして東京五輪開催期間のペナントレース中断は“追い風”になるとの見立てである。ただし、この約1カ月におよぶ中断期間はプラスにもマイナスにもなりうることから、ペナントレースに大きな影響を与える可能性もあるという。

「オリンピック期間中にどう調整するかが、後半戦の成績を大きく左右すると思うので、その1カ月が12球団全ての選手にとってポイントになってくる。その辺は身体だけじゃなくて、心のバランスもうまく整えていかなきゃいけないので、難しいのかなと思いますね。だからその調整が上手くいかなかった場合は、順位が大きく入れ替わる可能性もあります」

 五十嵐氏は、現時点でセ・リーグの優勝は本命・阪神、対抗・ヤクルトと予想しているが、各球団の中断期間の過ごし方によっては、交流戦で一時は首位に立った中日とDeNAにも上位進出の可能性があると言う。3連覇を狙う巨人、13日に今シーズン初めての最下位に転落した広島も、このまま黙ってはいないだろう。

 そう、セ・リーグのペナントレースの行方は、まだまだ予断を許さない。まずはここからオールスターまでの1カ月をどう戦い、どのようにその後の中断期間に入っていくかに注目だ。

※文中の今季データは6/16現在


菊田康彦

1966年、静岡県生まれ。地方公務員、英会話講師などを経てメジャーリーグ日本語公式サイトの編集に携わった後、ライターとして独立。雑誌、ウェブなどさまざまな媒体に寄稿し、2004~08年は「スカパー!MLBライブ」、2016〜17年は「スポナビライブMLB」でコメンテイターも務めた。プロ野球は2010年から東京ヤクルトスワローズを取材。著書に『燕軍戦記 スワローズ、14年ぶり優勝への軌跡』、編集協力に『東京ヤクルトスワローズ語録集 燕之書』などがある。