ダンスのビジネス化の形を模索
ーカンタローさんは大学時代からダンス関連事業のビジネスを行ってきました。ダンスが仕事になるというイメージはいつから持っていたのでしょうか?
カリスマカンタロー(以下、カンタロー):ダンサーだった母が、自身が持つスクールの講師として生計を立てている姿は、子どもながらに印象に残っていました。他にもクラブイベントやダンスイベントをオーガナイズしている先輩たちもいたので、「ダンスで食べていける」というイメージは昔から持っていました。
―ダンスを生業にするというのは、自然なことだったのですね。
カンタロー:そうですね。さらにいうと自分のなかでは、裏方ではなくあくまで表に出る形で生計を立てたいと思っていました。その形を模索するために、まず起業してイベントのプロデュースなどをしながら自分のダンスの形を模索するという方法を取りました。
―2004年には、今や日本一のダンスイベントに成長したストリートダンス大会「DANCE ALIVE HERO’S」を作り上げました。
カンタロー:あのイメージはK-1が参考になっています。プレーヤー自身が勝敗とプライドを掛けて楽しむことが主目的だった格闘が、地上波で放送され、「観戦」というスタイルが一般的になった。それを見て、ダンスの世界からもスーパースターを生み出せないかと思い、「DANCE ALIVEシリーズ」が始まりました。
表現力が、“ビジネス”になる時代へ
ー今回のドコモとの提携リリースでは、「ダンスモーションデータの知財化」が今後の活動の1つとして掲げられていました。この構想は以前からお持ちのものだったのでしょうか?
カンタロー:なんでダンスって著作権がないんだろうって昔から感じていたんですよ。でも調べてみたら、実はダンスは踊った瞬間から著作権が発生するということがわかった。問題は、「その動きを踊ったのがその人である」という証明ができないこと。だったらダンスの動きを「モーションデータ」として細かく分析・蓄積できるようになれば、その動きを生み出した人と活用したい人との間で売買が可能になると思ったんです。
ーカラオケで、自分の曲が歌われると印税が入る仕組みと似ていますね。また、同時に掲げられている「メタバース/NFTのダンス業界のインフラ構築」というのはどういったイメージなのでしょうか?
カンタロー:たとえばメタバース上では海外のダンサーのスキルを身につけたいと思ったとき、そのデータがメタバース上にあれば、わざわざ現地に行かなくても習得ができる。また、ダンスのモーション一つひとつに意味を持たせれば、手話のようにダンスが言語として成立します。
ー文字通り、「ダンスで世界がつながる」世界ですね。
カンタロー:アフリカの原住民の踊りをダンスに取り入れたいと思えば、すぐにできて、それが原住民の収入にもなる。さらに、特別なダンスモーションを手に入れるには、現地に直接行くことでしか取得できないというようなリアルとの接合点を創れば、そこにはリアルとメタバースでの新しい経済圏も生まれていきます。
ーダンスが産業として発展していく予感がしますね。その構想を実現するパートナーとして、ドコモと資本・業務提携を決めた理由はなんですか?
カンタロー:まずダンスが「インフラ」になるという構想の実現のためには、グローバルレベルで安定した通信を可能にする回線が必要です。今回提携したドコモのXR事業部は、技術はもちろん、私が訴え続けてきた「人の熱量を生み出す無形資産の価値の高さ」についても共感ができました。
メタバース上で熱狂的なコミュニティを
ーメタバースが当たり前にある日常が身近に感じられてきました。カンタローさんにとって、メタバースとダンスの融合は以前からイメージされていたのですか?
カンタロー:映画『マトリックス』を1999年に見た時から、全ての活動が仮想現実の世界で行われる時代はやがて来るだろうなと確信めいたものを感じていました。それから量子力学の勉強を始めたくらい、あの映画は僕の人生観に影響を与えています。その後2016年にMOTIONBANKというダンスモーションのデータを管理する事業を立ち上げましたが、2018年に『レディ・プレイヤー1』という映画が放映された時、よかった!やっていることは間違っていないと確信しました。
ーようやく時代が追いついたんですね。
カンタロー:昔は「お前は何を言っているんだ」と言われていましたけどね(笑)。
ーTikTokを中心に、すでにダンスは若年層を中心に自己表現手段として浸透しています。パリ五輪の正式種目としてもブレイキンが採用されるなど、ダンスがますます盛り上がっていきそうですね。
カンタロー:リアルの世界での熱量が高まるほど、メタバース上のコミュニティも熱狂を強めていきます。オリンピックのメダリストがメタバース上に登場し、そのスキルを世界中から学びにくるという場も生み出せると思います。オフラインとオンラインの融合が、一層進んでいくでしょうね。
ー今回の提携により、「ダンス」の世界の可能性をどのように広げていきたいですか?
カンタロー:世界中のダンサー、ダンスファン、そして一般の方々までもが熱狂する経済圏を構築すること。そこでは、現在のメジャースポーツのように「1億円プレーヤー」と呼ばれるダンサーが生まれてくるはずです。
“ダンスが世界を変える” をビジョンに掲げる、株式会社アノマリー。カリスマカンタロー氏の言葉からは、その変革の規模が文字通りであることを感じさせる。むしろ、メタバース技術という武器を手にした今、新しい世界を生み出すといったほうが彼の構想には近い。NTTドコモのXR技術との融合は、スポーツ経済圏の図式を塗り替える序章となるかもしれない。