26歳の武居は東京都足立区出身。プロのキックボクサーとして25戦こなし、Krush53キロ級、K-1 WORLD GPスーパーバンタム級王者に輝いたサウスポー。10歳の時に親元を離れて古川誠一氏(キックボクシングジム「パワーオブドリーム」主宰)のもとに預けられ、格闘技の道に入った。以来、古川氏の自宅に住み込み、腕を磨いた。K-1チャンピオンの座を極め、一昨年12月にボクシング転向を表明して大橋ジムに入門するまでずっとそこで暮らした。

ボクサーとしての基礎を作った名門ジム

 大橋ジムでは元3階級制覇王者の八重樫東トレーナーとコンビを組み、まずはプロボクシングに順応するところから始めた。構えの重心ひとつにしてもキックでは後ろ足にかける選手が多い。リズムのとり方も違ってくる。またボクシングのラウンド数は最長12で、力の抜きどころも必要になってくる……等々。

 もっとも当初から武居のボクシング・センスは評判がよかった。都立足立東高校ではボクシング部に所属してアマチュアの経験があり、B級(6回戦)でデビューしてからというもの、周囲の期待に応え続けている。初回KO勝ちした初陣を含め、4試合していずれも対戦相手をノックアウトで破っているのだから上々の結果である。

 サウスポーのしなやかな体が生み出すパンチング・パワーは証明ずみ。ここまでの試合で要したラウンドは1、1、1、2と、即決パンチャーぶりを発揮しているが、もとよりキック時代から武居が倒すのはほとんどがパンチだったのだ。

 今年4月、タイトル挑戦経験のある河村真吾(堺春木)を右フックで眠らせた最新の一戦も戦慄的なKOシーンだった。同時に印象的だったのは、そこに至るまでプロ27戦のベテラン河村を相手に落ち着いて試合を展開したことだ。

 快勝を収めた武居に対し、大橋秀行会長は「プロ4試合目で初めてボクシングというかたちだった。これまでは格闘技だったから」と目を細めた。この評価からも、武居がかなりプロボクシングの水に慣れてきたことをうかがわせる。

王座奪取を阻む未知の壁

 そうであっても、今度の初王座戦は武居にとってチャレンジマッチと言えるだろう。早く倒すということは、裏を返せば、長丁場で試されていないということである。しかも東洋太平洋タイトルマッチは日本タイトルマッチ(10ラウンド)より長い12ラウンド制となる。

 挑むチャンピオン、ペテ・アポリナル(フィリピン)は16勝10KO2敗。武居がフィリピン・ボクサーと対戦するのも初めてとなる。このアポリナルは和氣慎吾や久我勇作ら日本トップ選手を番狂わせで倒したジュンリエル・ラモナル(フィリピン)から王座を奪った選手。武居のセンセーショナルな強打がアポリナルをとらえるシーンは予測可能だが、未知の要素も少なからず存在する試合なのだ。

注目度に比例する前売チケット販売

 インターネットテレビの「ひかりTV」等で配信される今回の一戦の注目度は高い。前売チケットも7月のうちに完売し、当日券がわずかながら用意される程度という。

 果たして武居の初挑戦の結末は――。これは、近年の総合格闘技とボクシングとの関係性を考えてみても意義が大きい。練習現場の両者間の交流はすでに当たり前となり、キックボクシング出身者のプロボクシング転向も増えてきている。さる6月、東京ドームを満員にするビッグイベントを実現させた“キックの神童”那須川天心の動向が大きな話題になっているのはご存じの通りだ。

 彼らに先駆けるかたちの武居は常々「K-1を背負って戦う」と語っている。ボクシングに転じたのは自身のチャレンジ精神の発露からだが、ボクシングで結果をしっかり残すことが自分を育ててくれたK-1の価値にもつながると考えているのだ。これぞ大きなチャレンジだろう。

 ちなみに武居と那須川はプロのキックのリングで対戦していない。それぞれのキック団体の間に壁があったからだが、プロボクシングの世界で互いに出世して対決できれば――という夢も武居は抱いている。


VictorySportsNews編集部