異例の状況が、今年の“混戦”ぶりを表している。ドラフト会議前に1位指名選手を公表する球団が相次いでいるのだ。

◆ヤクルト 吉村貢司郞(東芝)
◆巨人 浅野翔吾外野手(高松商高)
◆広島 斉藤優汰投手(苫小牧中央高)
◆中日 仲地礼亜投手(沖縄大)
◆オリックス 曽谷龍平投手(白鷗大)
◆ソフトバンク イヒネ・イツア内野手(誉高)
◆西武 蛭間拓哉外野手(早大)
◆楽天 荘司康誠投手(立教大)
◆日本ハム 矢沢宏太投手(日体大)
※10月19日現在

 ドラフト1日前の10月19日までに公表したのは9球団。昨年は事前公表が西武(隅田)、ソフトバンク(風間)の2球団と少なかっただけに、違いが際立つ。その裏にあるのは「今年は、例年の1位指名クラスの選手が12人そろわない」という点。競合してくじを外した場合の、いわゆる「外れ1位」の実力が、本来の1位クラスに満たないとなれば、当然リスクは高くなる。そこで、他球団を牽制して競合を避けさせよう、1球団でも競合を減らそうと公表する球団が続出しているわけだ。

 戦略が求められる今年のドラフト。ここからはセ・リーグ6球団のドラフト指名ポイントを見ていく。

〔ヤクルト〕補強ポイント:小川・高橋に続く先発投手、外野手

 2年連続リーグ優勝を果たしたヤクルトだが、足りていないのが先発陣。2桁勝利を挙げた投手は1人もおらず、チームトップの9勝を挙げたのは外国人のサイスニードと救援の木沢、8勝で高橋、小川が続く。原、高梨、42歳の石川らも先発ローテーションを担ったが、1年を通じた安定感には欠け、日本シリーズでも第4、5戦で今季1勝のドラフト1位ルーキー・山下の起用が予想されるほど駒が足りていないのが実状だ。今季1試合しか投げられなかった奥川も右肘の状態が戻っていないようで来季復活となるかは不透明。それらを考慮に入れると、指名を公表した吉村(東芝)は先発で期待できる即戦力投手という点で合致する。小孫(鷺宮製作所)の評価も高い。

 また、外野手は塩見と山崎が来年30歳を迎え、青木が40歳と年齢構成がやや高くなってきており、高校生を含めて数年後にレギュラーを狙える選手が欲しいところ。昨年、明大の丸山を2位と上位で指名。今月には大卒4年目の中山を戦力外としており、外野陣のてこ入れを図る意志があるのは間違いない。競合覚悟で浅野(高松商高)にいくのも面白そうだ。

《指名公表選手》吉村貢司郎投手(東芝)
《指名候補選手》曽谷龍平投手(白鷗大)、浅野翔吾外野手(高松商高)、山田健太内野手(立教大)、菊地理吏玖投手(専修大)、小孫竜二投手(鷺宮製作所)

〔DeNA〕補強ポイント:捕手、救援投手

 昨季の最下位から2位に躍進を果たしたDeNA。ここ数年で上位指名してきたこともあって先発投手陣は豊富で、11勝の今永と大貫、浜口、石田に加え、手術明けで本領発揮といかなかった東や途中加入のガゼルマン、復帰が見込まれる平良、高卒2年目を迎える小園とセ・リーグ屈指の陣容を誇り、今年のドラフトでは他のポジションに目を向けたいところだ。

 まずは捕手。嶺井、戸柱、伊藤の3人を併用しているが、逆に言えば圧倒的な存在がいないということ。東妻、益子と楽しみな若手もいるが、このオフにはFA権を取得した西武・森の調査をしていたとの話もあり、チームが強化したいポイントであるのは確かだろう。今夏の甲子園大会で2本塁打を放った大阪桐蔭高の松尾が筆頭候補。2位以下で狙うなら桐蔭横浜大の吉田、“隠し玉”では独立リーグ、四国アイランドリーグplus・愛媛の上甲の動向が注目される。

 今季は山﨑、伊勢、エスコバー、入江といった救援陣の奮闘が上位進出の大きな要因となったが、終盤にエスコバーが安定感を欠き、三嶋が病気を抱えるなど、来季に向けて心配がないとはいえない。山﨑がこのオフにポスティングで米大リーグに挑戦するかは微妙なところだが、順調なら来季には海外FA権を取得する。伊勢が71試合に登板するなど、一部の投手に起用が偏る傾向もみられるだけに、投手を1位指名するなら救援適性を踏まえた人選となりそうだ。

 いずれにしても、当日まで非公表を貫くのが慣例で、今年も読みにくい球団であるのは確か。得意の“一本釣り”があるか、注目される。

《指名候補選手》松尾汐恩捕手(大阪桐蔭高)、荘司康誠投手(立教大)、吉村貢司郎投手(東芝)、小孫竜二投手(鷺宮製作所)、吉田賢吾捕手(桐蔭横浜大)、上甲凌大捕手(四国IL・愛媛)、田中晴也投手(日本文理高)

〔阪神〕補強ポイント:長打力のある右打者

 セ・リーグ断トツのチーム防御率2.67を記録した阪神。ウィークポイントは何と言っても打線だ。チーム打率.243、84本塁打、489得点はリーグ5位。近本、中野と走力の高い1、2番が強力だけに、大山、佐藤輝に続く長打力のある打者が是が非でも求められる。本拠地・甲子園球場の特徴といえば浜風。南西から吹き込んでくる風は左打者泣かせといわれ、右打ちのスラッガーの獲得が理想的だろう。

 今夏の甲子園大会で3本塁打を放つなど、今年の高校生ナンバーワン野手とみられている浅野(高松商高)は当然、有力候補となる。大阪桐蔭高で藤原や根尾と同期だった山田(立教大)、左打ちの蛭間(早大)に対して右のナンバーワン外野手と目される森下(中大)といった即戦力に目を向ける可能性も十ある。

《指名候補選手》浅野翔吾外野手(高松商高)、山田健太内野手(立教大)、森下翔太外野手(中央大)、松尾汐恩捕手(大阪桐蔭高)

〔巨人〕補強ポイント:将来性あるスラッガータイプ、投手全般

 5年ぶりのBクラスに沈んだ巨人。チーム防御率3.69、589失点はリーグワーストで、何より即戦力投手の補強が必要な状況だ。しかし、9月末にいち早く指名公表したのは浅野(高松商高)の1位指名。確かに坂本はけががちで、中田ら主軸野手もベテランが多く、将来性のある長距離打者の育成は必要といえる。ただ、浅野は今年のドラフトで数少ない競合必至な存在。2016年から6年連続で競合して抽選で外している中で“外れ1位”の戦略も重要になってきそうだ。

 投手陣は不安を抱える中で、今季8人の投手がプロ初勝利を記録するなど、若い芽が出てきている。その育成力を武器に門別(東海大札幌高)、山田(近江)といった高校生投手の上位指名も面白そうだ。投手・野手いずれにしても、巨人は浅野の指名公表から将来性を重視したドラフト戦略を考えているものとみられる。

《指名公表選手》浅野翔吾外野手(高松商工)
《指名候補選手》内藤鵬内野手(日本航空石川高)、門別啓人投手(東海大札幌)、山田陽翔投手(近江)、田中晴也投手(日本文理高)

〔広島〕補強ポイント:エース候補、強打の外野手

 10月13日のスカウト会議後に斉藤(苫小牧中央高)の1位指名を公表。伸びのある直球が武器の高い能力を持つ右腕だが、他球団を牽制して競合を避けるため先手を打ってきた印象だ。栗林、森下と近年は大学、社会人出身の即戦力投手を指名してきており、ここで将来のエース候補となる素材型に目を向けたのは自然な流れといえる。

 また、鈴木誠也(カブス)がメジャーに移籍し、その穴を埋められない現状がチーム低迷の大きな要因にもなった。即戦力の期待を架けられる外野の強打者も狙いたいところだ。

《指名公表選手》斉藤優汰投手(苫小牧中央高)
《指名候補選手》門別啓人投手(東海大札幌高)、山田陽翔投手(近江高)、森下翔太外野手(中央大)、萩尾匡也外野手(慶応大)

〔中日〕補強ポイント:強打者

 立浪監督はアマ野球の試合会場を行脚して、指名選手の視察に自ら乗り出している。明大・村松、中大・森下らを高評価し、鷺宮製作所の小孫にも高い評価を与えるなど、他球団とはやや異なる動きを見せている。指揮官の意向が大きく反映されると見られ、思いがけないサプライズ指名もありそうな雲行き。事前公表をしない方針を示していたが、前日に急転。仲地(沖縄大)の指名公表に踏み切った。

 一方で、チームの課題は明確だ。62本塁打、414得点は12球団ワースト。大野雄、柳、小笠原ら先発陣にR・マルティネスら救援陣と投手陣は頼りになるだけに、とにかく得点力不足の解消が求められる。長打力は浅野以上とされ、180センチ、100キロの堂々たる体格を誇る高校通算52本塁打の内(日本航空石川高)、個性的なフォームから長打を連発する西村(京都外大西高)といった高校生スラッガーが候補に挙がってきそうだ。いずれにしても、2位以下は打者中心の指名が予想される。

《指名公表選手》仲地礼亜投手(沖縄大)
《指名候補選手》内藤鵬内野手(日本航空石川高)、西村瑠伊斗外野手(京都外大西高)、イヒネ・イツア内野手(誉高)、森下翔太外野手(中央大)、蛭間拓哉外野手(早稲田大)、村松開人内野手(明治大)



【2022/10/19 19時訂正】球団よりの新規情報の公表に伴い、内容の訂正を致しました。

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VictorySportsNews編集部