異例の状況が、今年の“混戦”ぶりを表している。ドラフト会議前に1位指名選手を公表する球団が相次いでいるのだ。
◆ヤクルト 吉村貢司郞(東芝)
◆巨人 浅野翔吾外野手(高松商高)
◆広島 斉藤優汰投手(苫小牧中央高)
◆中日 仲地礼亜投手(沖縄大)
◆オリックス 曽谷龍平投手(白鷗大)
◆ソフトバンク イヒネ・イツア内野手(誉高)
◆西武 蛭間拓哉外野手(早大)
◆楽天 荘司康誠投手(立教大)
◆日本ハム 矢沢宏太投手(日体大)
※10月19日現在
ドラフト1日前の10月19日までに公表したのは9球団。昨年は事前公表が西武(隅田)、ソフトバンク(風間)の2球団と少なかっただけに、違いが際立つ。その裏にあるのは「今年は、例年の1位指名クラスの選手が12人そろわない」という点。競合してくじを外した場合の、いわゆる「外れ1位」の実力が、本来の1位クラスに満たないとなれば、当然リスクは高くなる。そこで、他球団を牽制して競合を避けさせよう、1球団でも競合を減らそうと公表する球団が続出しているわけだ。
戦略が求められる今年のドラフト。ここからはパ・リーグ6球団のドラフト指名ポイントを見ていく。
〔オリックス〕補強ポイント:先発投手、強打の外野手
リーグ2連覇を果たしたオリックスは、既に曽谷(白鷗大)の1位指名を公表済み。山本、宮城と軸となる若い先発投手に続く即戦力の補強で、さらに盤石の体制を築く狙いだ。確かに、今年のドラフト1位ルーキー、椋木がトミー・ジョン手術を受けて来季復帰は絶望的。山本も遠くない未来にメジャー挑戦を見据えているとなれば、その方針はうなずける。
今季のチーム本塁打は89とリーグ最少。昨季の本塁打王・杉本が不調だったこともあり、やや打線は迫力に欠けるところがあった。ただ、今年の候補に長距離型は少なく、浅野(高松商高)、イヒネ(誉高)は既に巨人、ソフトバンクがそれぞれ1位指名を公表済み。競合確実な曽谷を外した場合、森下(中央大)、萩尾(慶応大)ら即戦力の外野手が残っていれば打線の活性化を促す意味でも有力な候補となってきそうだ。
《指名公表選手》曽谷龍平投手(白鷗大)
《指名候補選手》森下翔太外野手(中央大)、萩尾匡也外野手(慶応大)、森下瑠大投手(京都国際高)、大野稼頭央投手(大島高)
〔ソフトバンク〕補強ポイント:今宮・千賀の後継者
来季から4軍制を敷くことを発表したソフトバンク。千賀、周東、大関ら育成から飛躍を遂げる選手が多い背景には、大所帯を維持できる資金力がある。このところドラフトの上位指名選手から生まれたスターが少ないのが気になるところだが、戦力面の充実度は高く、数年後のチームを見据えた素材型の選手を中心にした指名が予想される。
既に1位指名を公表しているイヒネ(誉高)は、走攻守そろった、まさに未来のスター候補生。ナイジェリア出身の両親を持つ大型遊撃手で、高校通算18本塁打。甲子園大会出場はないが、31歳の今宮の後継者として大きな期待がかかる。千賀の後継者になり得るスケールの大きな投手も求められるところ。門別(東海大札幌高)、赤羽蓮(霞ケ浦高)、山田(近江)ら伸びしろがありそうな高校生の指名が予想される。
《指名公表選手》イヒネ・イツア内野手(誉高)
《指名候補選手》門別啓人投手(東海大札幌高)、赤羽蓮投手(霞ケ浦高)、山田陽翔投手(近江高)
〔西武〕補強ポイント:FA流出に備えた主軸打者
「獅子おどし打線」「山賊打線」などの呼称もあったように、強打のイメージが強かった西武だが、今季は一転した数字を残した。昨季リーグワーストの3.94だった防御率はリーグトップの2.75と劇的に改善。失点は589から153も減らしている。
一方で、打線は低迷。本塁打数こそ118でリーグトップながら、チーム打率はリーグワーストの.229と安定性に欠けるところが見られる。その中で、1位指名を公表したのが早大の蛭間。大学通算12本塁打を誇り、シュアなバッティングも光る外野手は、まさに補強ポイントに合致する。小学生時代にライオンズジュニアでプレーし、埼玉・浦和学院高出身、渡部GMと同じ群馬出身など、縁の深さを感じさせる経歴も魅力。米大リーグに移籍した秋山(現広島)の後継者となれる可能性を秘めた存在といえる。競合で外した場合は、中村や山川のような“巨漢スラッガー”の系譜を受け継ぎそうな内藤(日本航空石川高)の指名も期待されるが、“外れ1位”まで残っているかは微妙なラインかもしれない。
また、救援防御率2.31はオリックスの2.96、ソフトバンクの2.72を大きく上回り、平良と水上が35ホールドポイントで最優秀中継ぎ投手のタイトルを同時に獲得するなど不安がないのに対して、先発投手は高橋、今井、與座らに続く存在を2位以下の指名で確保しておきたいところ。ウェーバー順で3、4位前後のチームは戦略を立てにくい側面があるが、スタミナ豊富な菊地(専修大)、や最速151キロの本格派右腕・仲地(沖縄大)といったリーグの格にとらわれない指名もありそうだ。
《指名公表選手》蛭間拓哉外野手(早稲田大)
《指名候補選手》内藤鵬内野手(日本航空石川高)、菊地吏玖投手(専修大)
〔楽天〕補強ポイント:田中・岸らの後継者となる先発投手
ソフトバンクに次ぐ533得点を挙げた強力打線に不安は少なく、早急に求められるのは先発投手だろう。チーム防御率3.47はリーグワースト。西武に逆転でCS進出を許し、上位に差を付けられた大きな要因として投手力の差が挙げられる。
来季は田中が34歳、岸は38歳、則本も32歳と、主戦がいずれも30代。フレッシュな力を先発ローテーションに加えたいところだ。そこで10月18日になって氏名を公表したのが立教大の荘司。慎重188センチ、最速157キロを誇る大型右腕で、新潟明訓高時代は無名だったものの、即戦力として、さらに将来性も期待されるポテンシャルの高さが魅力だ。岩手の富士大で活躍する最速150キロで高い制球力を誇る右腕・金村にも注目しており、東北に縁のある逸材の指名も十分に考えられる。
《指名公表選手》荘司康誠投手(立教大)
《指名候補選手》金村尚真投手(富士大)、吉村貢司郎投手(東芝)、益田尚武投手(東京ガス)
〔ロッテ〕補強ポイント:先発投手、遊撃手
盗塁王に輝いた高部ら若手の台頭があった中で、求められるのはやはり先発陣の強化。規定投球回に到達した投手は小島だけで、その小島も3勝11敗と大きく負け越した。10勝の美馬、史上最年少で完全試合を達成した佐々木朗とともに軸となる投手を補強したいところだ。
となると、即戦力ではやはり曽谷(白鷗大)の名が挙がる。最速151キロのストレートは威力抜群だ。また、石川、美馬に続く東京ガス出身選手として最速153キロ右腕・益田も挙がる。曽谷は今年のナンバーワン左腕としてオリックスが既に指名を公表するなど競合必至だが、ロッテは指名選手の事前公表をしない方針。競合承知で攻めるか、一本釣り路線でいくのかで、大きく方針は変わってきそうだ。
また、レギュラーを固定できていない遊撃も補強ポイント。田中(亜細亜大)、奈良間(立正大)らの2位指名が考えられる。
《指名候補選手》曽谷龍平投手(白鷗大)、益田武尚投手(東京ガス)、田中幹也内野手(亜細亜大)、奈良間大己内野手(立正大)
〔日本ハム〕補強ポイント:「その年一番の選手」、即戦力投手、捕手
日本ハムのドラフト方針は明確だ。それは「その年一番の選手」。ポジションやチームの補強ポイントとは関係なく、とにかく「ナンバーワン選手」を取ることに注力しており、大谷(現エンゼルス)、ダルビッシュ(現パドレス)、菅野(入団拒否→巨人)ら過去の1位指名にもビッグネームがずらりと並ぶ。
そんな球団が今年公表したのが矢沢(日体大)。投打二刀流でプレーする選手で、“元祖”である大谷を育成したチームにはうってつけの存在といえる。ただ、走力を持ち合わせる打者としての評価も高く、他球団と競合する可能性は十分。“外れ1位”は手堅く補強ポイントを重視した指名になるとみられ、菊地(専修大)や荘司(立教大)といった新庄監督が希望する即戦力投手が候補となりそうだ。捕手も層が薄く、野口(名城大)、吉田(桐蔭横浜大)らの指名も考えられる。
また、注目は加藤(メッツ傘下)。新庄監督がかねて熱視線を送る大型二塁手で、今季はブルージェイズでメジャー初安打も放った。米国出身選手の“逆輸入”となれば、大きな話題を呼びそうだ。
《指名公表選手》矢沢宏太投手(日体大)
《指名候補選手》菊地吏玖投手(専修大)、荘司康誠投手(立教大)、野口泰司捕手(名城大)、吉田賢吾捕手(桐蔭横浜大)、加藤豪将内野手(メッツ傘下)
【2022/10/19 19時訂正】球団よりの新規情報の公表に伴い、内容の訂正を致しました。
「10.20プロ野球ドラフト会議ガイド」 戦力分析で探る12球団のドラフト戦略 ~セ・リーグ編
プロ野球のドラフト会議が明日20日午後5時から東京都内で行われる。本命不在といわれる今年のドラフトで、各球団はどのような戦略を取るのか。戦力面などから、その行方を探る。