ミツカンが4年前に立ち上げた新ブランド

 あまり聞き慣れない名前かもしれないが、ZENB JAPAN(ゼンブジャパン)は食品大手のミツカングループの100%子会社で、ミツカンが2019年に新しく立ち上げたブランド「ZENB(ゼンブ)」の商品の国内外の販売を行う。ZENB商品は、黄えんどう豆100%で製造されたパスタやラーメン、またそれに伴うソースやスープも豆や野菜から作られていて、動物性原料や食品添加物を使用していないのが特徴だ。さらに、今までは製造過程で捨てられてきた植物の皮、芯、さやなどのあらゆる部位を可能な限り使い、美味しさや栄養も追及した、いわゆるサステナビリティ、SDGsの観点が入ったブランドである。

 今回、FCバルセロナと結んだ契約名にもなっている「グルテンフリー」とは、小麦をはじめとする穀物などの主成分「グルテン」を取り除いた食事や食品を指す。こうしたグルテンフリー食品は、本当はラーメンやパスタが大好きなアスリートにとって、シーズン中はなかなか口にしづらい、といったストレスにも対応している。昨年11月17日のイベントにゲストとして登場した元サッカー日本代表の中村俊輔氏は、イベント内でZENBヌードルを活用したパスタを試食し、「豆のうま味がパスタからする。美味しいし、体に良いし、アスリートが普通の食事としてあっても良い」と評価していた。

バルセロナの試合でロゴが表示されるかも?

 今回の契約は2022・2023年シーズンから4シーズンで、金額については非公表。チームへのZENB商品の提供以外には、「恐らく、試合でのピッチ脇にあるバナーへの露出になる」(ZENB JAPAN濱名誠久代表取締役社長)という。

 濱名社長は「まだまだメジャーではないですし、B2C(※日本では主にECサイトを通じて販売)に絞っていて、そんなに一般の流通で売れてる訳でもない。よく声かけてきたなと思いました(笑)。小さい会社ですし、もっと他にあるだろうと…」と笑いながら契約のきっかけを明かした。一方で、バルセロナ側からすると「海外(企業)だからかもしれませんが、サステナビリティとか『未来に向けて一緒に成長していく』というストーリーがあるからかもしれない」と推察する。

 日本の企業でもサステナビリティやSDGsは活発だが、欧米ではさらにその度合いが強いのかもしれない。企業がこれらの取り組みをしているかどうかが、その企業の評価に結びついていく。

 一方で、ZENB JAPANとしてはさらに市場を広げて、まだこの新しいブランドを世界で広めていきたいということがある。親会社のミツカングループの決算資料によると、2021年2月の通期決算で売上高2355億円、北米と欧州の売上高がそれぞれ1018億円、152億円と、半分が海外での事業からだ。ZENB事業による売り上げ規模は非公表だが、「日本では比較的知ってる人は知ってるという状態なんですが、海外ではまだ知られてないので、(バルセロナとの契約をきっかけに)是非認知を広げたい」と意気込む。

ミツカンが別会社でZENBブランドを始めた理由

 ただ、不思議なのがミツカン本体で新規事業として行ってもよさそうなところを、わざわざ別会社を起こして事業を展開したこと。濱名社長はその理由をこう説明する。

「(理由は)2つあって、グローバルで共通の価値をブランドとして作っていこうという考え方があった。地域(国、エリア)ごとではなく、グローバルに横で作りたい。でも、そうなると今は事業体がエリアごとなので、そこ(ミツカン本体)から一回切り離そうっていうことが1つですね。あと、技術力で全く新しくやろうということだった。会社としての英断だと思います。今の延長線上の未来はこうなるだろうからどうこうしようとするよりは、違う組織でやった方がいい。商品をどうするかではなくて、こういう未来を作る為にどんな商品や売り方をするべきか、から入ったので、その段階で新しい組織でやらなきゃダメなんじゃないかっていう話でした。(ミツカンのそれまでのやり方とは)全然違いますね。収益のことだけ考えれば別に切り離す必要なかったと思います」

 その結果、FCバルセロナの目に留まったのかもしれない。

株式会社ZENB JAPAN代表取締役社長 濱名誠久氏

 日本の市場が縮小しつつある中で、日本の食品メーカーたちがどうやって業績を伸ばしていくか。主に2つある。1つが海外市場での売り上げを伸ばす。もう1つが高付加価値の製品を開発する。いずれも既に長年取り組まれているが、特に後者においてチラホラと目にし始めているのが、アスリート向けの食品開発だ。

 健康食品とうたう製品、健康志向者向けの食品自体は過去にも多く存在するが、近年、アスリート向けに栄養価の高い、摂取効率の良い、そして美味しさをうたった食品が開発されている。ミツカン以外の大手食品会社がアスリート向けの食品を販売している。価格も同じ食品より数倍するが、人々の健康志向が益々高まっていることもあって注目が集まっている。まだまだ開発余地のある市場であり、企業にとっては大きなチャンスではある。

 ZENB JAPANとFCバルセロナの契約からは、こういった背景も見えた。


大塚淳史

スポーツ報知、中国・上海移住後、日本人向け無料誌、中国メディア日本語版、繊維業界紙上海支局に勤務し、帰国後、日刊工業新聞を経てフリーに。スポーツ、芸能、経済など取材。