2022年シーズンのJリーグの均等配分金(順位による賞金とは別)はJ1が3億5000万円、J2は1億5000万円、J3は3000万円で、1部と2部では7:3の比率だった。昨年11月にJリーグが掲げた新たな成長戦略は二つで、全クラブがそれぞれの地元でさらに輝くこと、そしてトップ層がコンテンツとして魅力あるものになることとうたっている。
そして、その中でリーグ全体の価値を高めていくために、J1:J2の配分金比率についての目安としてJ1が5~6倍程度(現在は2倍程度)になるまで配分割合を段階的に高めていくことを目指すとしている。同一カテゴリー内の配分方法も見直し、均等配分中心から競技成績やファン増加等の成果に応じた配分(結果配分)中心へと段階的にシフトするとともに、それらの成果を出すことを後押しするための施策に重点投資を行うとしている。
Jリーグの野々村芳和チェアマンは「強かったら、人気が出たら、そこのクラブが利益を得られるといった競争の世界をより強く推進することで、どのクラブがトップに行くのかという、競争のフェーズに入っていくと考えています」と説明している。いわゆる「護送船団方式」とよくいわれた旧式の日本のビジネスモデルではなく、実力を反映した「成果主義」の考え方と言えるだろう。
欧州では配分金の傾斜は、これまでの日本に比べて圧倒的に上位に手厚く、スペインでは1部と2部で9:1の比率、ドイツでは6:1になっているという。同カテゴリー内でも過去シーズンの成績や、試合のテレビ視聴者数などに応じて支払われる額が決まるため、実力主義の色が濃く、ビッグクラブの方がより多くの資金を得ることになる。世界一のリーグとも称され、莫大な放映権を得るプレミアリーグも、放映権収入の50%を各クラブに平等に分配し、残りの50%をリーグの成績と放送される試合数に基づいて分配する仕組みだ。
配分金比率変更によるメリットとしては①競争の激化②ビッグクラブの誕生の可能性③上位クラブによるスター選手の補強-などが考えられる。クラブの成長やスター選手の補強が現実のものとなれば、国内での人気が高まるだけでなく、アジアにおいてのプレゼンスも高まり、欧州サッカーのように放送権料の高騰を呼び込んでJリーグ全体の成長につながるという視点がある。
一方、デメリットとしては、配分金の比率が低下するJ2、J3クラブが経営難に陥る懸念や、クラブ格差が生じることでリーグ優勝チームが固定化してしまうことなどが考えられる。レアル・マドリード、バルセロナ、アトレチコ・マドリードというビッグクラブを抱えるスペイン・リーグでは、近年強豪クラブと他クラブの大きな経済格差を是正するため、同カテゴリーのチーム間の配分金の格差を小さくしていく動きもあるという。
今回のJリーグの成長戦略を受けて、実際にJ2の水戸ホーリーホックは「断腸の思い」(水戸公式ホームページより)でクラウドファンディングを開始した。収入が5%減となることを見込み、トップチームの活動費・補強費の補填などのためで、目標額は1000万円。1月25日時点で480万円以上が集まっている。
昨季まで均等配分金として、カテゴリー別でもなるべく急激な差をつけなかったJリーグだが、実はこれとは別に「理念強化配分金」という制度が存在した。J1の上位クラブに対して総額27億8000万円を3年間に分けて支給するもので、優勝クラブは賞金や均等配分金とは別に15億5000万円を手にできていた。
この実現を支えたのは2017年にDAZNと締結した「10年約2100億円」という大型契約(後に12年総額約2239億円に契約を見直し)だった。それまでのテレビ放送権料に比べて文字通り桁違いの収入をもたらし、リーグ全体がその恩恵を享受できると思われたが、2020年に新型コロナウイルス禍が世界を直撃。理念強化配分金の制度は停止され、これを原資として各クラブの経営安定を図ったという経緯が実はある。
コロナ禍も3年が経ち、Jリーグは再び競争へと舵を切る。ただし、配分金総額の23年予算は、22年から37億4700万円減の大幅なマイナスで、114億4400万円となっている。先細るパイとともに全体が地盤沈下するのではなく、思い切って一部に手厚く投下するというのが今回の成長戦略と見ることができる。Jリーグは60クラブが「上限」で、今季からは日本フットボールリーグ(JFL)との入れ替えも行われる。これまではいったんJリーグに加盟すれば、そのステータスは安泰と言えたが、これからはJ3から再びJFLへと降格するチームも出てくる。
各クラブの競争力を高めることを目指す野々村チェアマンは「ここまでの30年ですごく成長してきたと思いますが、一方でここからの30年、40年、50年も変えていかなければいけないという思いがありました」と長期的な視野での展望を語る。
本日25日には、都内で「Jリーグ 30 周年オープニングイベント」が開催され、30周年の記念事業等が発表された。今年、大きな節目を迎えるリーグ。現状に安穏とせず、常に上を目指す姿を見せ続けることを、各クラブは求められている。
より競争を促進する仕組みへ 配分金見直す30周年のJリーグ
1993年5月15日にヴェルディ川崎(現・東京ヴェルディ)と横浜マリノス(現・横浜F・マリノス)による東京国立競技場での歴史的な開幕から、今年で30周年を迎えるJリーグ。それまで日本になかったプロサッカーリーグとして発展し、全国にJクラブは増えてきた。10クラブで始まってから、今季はJ1~J3まで合計60クラブにまで拡大。大きく成長したJリーグは、さらに魅力あるリーグとなるべく、新たな成長戦略の一環として配分金を見直す改革を打ち出している。なるべく均等に分配していたものを、競争を促して互いのクラブがより切磋琢磨できるような環境を整えようという試みだ。
1月25日に開催された30周年記念イベントに登壇した野々村チェアマン