「老い」はアンチするものではない

「アンチ・エイジングという言葉がありますけど、『年を重ねること』に『アンチ』を付けても、そんなに面白くない。だって、最後には全部負けちゃうんですから」

——人間は誰しも寿命があるので、加齢を「悪者」とすれば、たしかに「負け」ですね。

「アンチと名付けると、それだけで全部が敵になってしまいます。だからこそ、『年を重ねること』を敵ではなく『味方』にしたいと考えるようになったのですが、そう簡単にはいきませんでした。男としての性能を落としていく自分がいることは、はっきり分かる。かつてほどのエネルギッシュさもないし、男の色気もぐんぐん落ちていく」

性の不思議

「身体の持っている不思議に最初に気がついたのは、やっぱり性なんです。これはコントロールできないんですよね。中学、高校とか、自分がさっぱり勉強できなかったのは、性欲に邪魔されて、集中できなかったからだと思う」

——ははは。叱られた子の言い訳みたいですね。

「本当ですって。勉強に集中できる子がもう不思議で仕方ないっていう思春期があって」

——そこまでは分かりますが。

「だって、英語で『W』って書いてあるだけで、思春期ならぜったい乳房を連想しちゃうでしょ。すぐに性欲が暴れ始めて、乳房を見たくなる。英語の授業だったら、妄想で胸を見に行っている間に、今度はおへそを連想する『X』も気になるし、下のほうの形に似た『Y』も気になる。『WXY』という記号めいたもので、異様に反応しちゃう」

——男性は大変ですね。

「思春期ってね、上手に渡らないと落っこっちゃう、山の吊り橋なんですよ。うっかりしたら、千尋の谷に真っ逆さま。色気づいた自分を引きずりながら、コントロールを利かせるまで20年から30年はかかるでしょう」

——じゃあ、コントロールが利く頃には、もう中年になっているじゃないですか。

「そうそう。だから芸能界の30代、40代はスキャンダルだらけでしょ」

——たしかに、まだまだコントロールできていない(笑)。

一緒に汚れる

——最近、動画配信サイトで観られるようになって、『3年B組金八先生』の人気が再燃しています。30年以上も続いた作品の魅力、金八先生の魅力はどこにあると思いますか。

「それまでの学園ドラマの先生は、スマートで恰好良い人。金八先生はまるで垢抜けない。つまり、いかにも15歳の子供たちが抱くような悩みを大量に持っていそうで、だから子供たちが唯一先生だって呼べる存在だったんじゃないでしょうか」

——パート1、2での金八先生は、生徒の仲間という印象でした。生徒は「きんぱっつぁん」と呼んでいましたしね。生徒を頭ごなしに叱ることはせず、パート1の「学ラン長ラン大混ラン」の回は近藤真彦さんが演じる星野清たちと一緒に長ランを着てサングラスをかけて街を歩くストーリーで、今でも記憶に残っています。
 あとパート2の、クラスの子たちを集めて学校のお便所掃除をやって、硬いうんこが詰まっている管を貫通させてトイレを救い、学校中から感謝される、『クソまみれの英雄達』の回も印象的でした。

「ありましたねぇ。懐かしいな。腐ったミカンの加藤優(直江喜一さん)のエピソードの合間の、比較的のどかな、私も好きな回です」

——金八先生もはち巻きして「スッポン」を持って、一緒に汚れるんですよね。

「飛び抜けて評判がいい回はみんな共通していて、金八が生徒と一緒に汚れる内容でした。パート2の終盤の回で、警官隊が流れ込んできて一緒に突き飛ばされる時とか。生徒が金八を呼び捨てにしたり愛称で呼んだりするのは、一緒に汚れてくれることに対する安堵感が根っこのところにあるのかもしれません」

中編につづく

向かい風に進む力を借りなさい

武田鉄矢の人生はジェットコースターのように山あり谷あり。そして、自分でもいまだ原因がわからずじまいの「しくじりの謎」が数多くある。海援隊の紅白出場直後の人気の急降下、名だたるプロに教えを乞うても上達しないゴルフ、ずっと思い描いていたラストシーンにならなかった「3年B組金八先生」……。そうした若き日の「しくじりの謎」を74歳の今、読書や武道修業での学びを頼りに解明していく。「わからなかったことを判るために人は老いるのだから」と。 「3年B組金八先生」の初めの生徒たちが還暦を迎える今、かつての教え子世代への、老いにくじけず老いを味方につけるための授業が始まる……。 リー・トレビノや青木功プロとの思い出を綴った「打っちぃみい」、65歳で始めた合気道での道場生たちとの触れあいを描く「道場の四季」、四十数年を経て山田洋次監督の意図がようやくわかった「幸福の黄色いハンカチ」を含む19の痛快エッセイを収載。

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武田鉄矢
1949年、福岡県生まれ。歌手。俳優。1972年に海援隊のボーカルとしてデビュー。「母に捧げるバラード」や「贈る言葉」などヒット曲多数。1977年、映画「幸福の黄色いハンカチ」で、日本アカデミー賞最優秀助演男優賞受賞。1979年開始のドラマ「3年B組金八先生」は、30年以上にわたる人気シリーズとなった。現在は「武田鉄矢の昭和は輝いていた」(BSテレ東)、「ワイドナショー」(フジテレビ系列)に出演中。1994年よりパーソナリティをつとめる文化放送「武田鉄矢・今朝の三枚おろし」は、自ら選び読んだ本をテーマに語る長寿番組として愛されている


VictorySportsNews編集部