バンタム級でWBA(世界ボクシング協会)、IBF(国際ボクシング連盟)、WBC(世界ボクシング評議会)、WBO(世界ボクシング機構)のメジャー4団体の王座をまとめ、唯一無二のチャンピオンとなったのが昨年12月のこと。偉業達成を節目にして、1階級上のスーパーバンタム級進攻を表明すると同時に4本のバンタム級チャンピオンベルトを返上したのはご存じの通りだ。

 そして井上がスーパーバンタム級でフルトンの2王座を奪ってほどなく、バンタム級は再び4人の世界チャンピオンが並立する日を迎えた—。

 まず井上戦から5日後、ラスベガスで行われたWBC王座決定戦で、アレハンドロ・サンティアゴ(メキシコ)という苦労人がレジェンド、ノニト・ドネア(フィリピン)に3−0判定勝ちを収め、新チャンピオンとなった。続いて現地時間8月12日、メリーランド州のIBF王座決定戦で、エマヌエル・ロドリゲス(プエルトリコ)が戴冠。これより先に新王者が決まっていたWBA、WBOを合わせて4団体すべての王座が埋まったのだ。

 “モンスター”が去った後のバンタム級に誕生した王者は、順にWBA井上拓真(大橋)、WBOジェイソン・マロニー(オーストラリア)、WBCサンティアゴ、そしてIBFロドリゲスとなる。いずれもチャンスをものにするまで雌伏のときを送ってきた実力派のチャンピオンたちである。

井上尚弥と関係が深い各団体のチャンピオン

 4月に曲者リボリオ・ソリス(ベネズエラ)を大差判定で下した拓真はWBCの元同級暫定王者。チャンピオンに返り咲くまで3年5ヵ月待ったが、この間にはスーパーバンタム級も含め国内のトップ選手たちを軒並み退け、その力を示してきた。タイトルマッチの機会が長く訪れなかったのは兄尚弥のバンタム級統一があったためで、適正階級で晴れてWBAチャンピオンとなった拓真はさっそく、尚弥に続きこの階級の4団体統一を目標に掲げている。

 その翌月にビンセント・アストロラビオ(フィリピン)を接戦の末破ったWBO新王者のマロニーは、以前ラスベガスで尚弥にKOされた敗北から立ち上がって掴んだ栄光だ。昨年の挑戦者決定戦では、自身が尚弥に倒された右ショートカウンターで会心のダウンを奪った。世界チャンピオン奪取をあきらめず、尚弥戦から続けた努力をうかがわせる一撃だった。

 サンティアゴも2度目の世界トライでタイトルを手にした。5年前の初挑戦はスーパーフライ級で王者ジェルウィン・アンカハス(フィリピン)を大いに苦しめ、三者三様のドロー。その後コツコツと試合をこなし、今回はあのドネアに明白な判定勝ちを収めて夢を叶えた。ここまで28勝14KO3敗5分と、引き分けの多さが特徴的。決して派手ではないものの小回りの利くボクシングは相手にとってやりづらい。

 そしてバンタム級最後のピースを埋めたロドリゲスは、かつて尚弥にIBF王座を譲り渡した元チャンピオン。グラスゴーで行われた尚弥との試合は2ラウンドKO負けだったが、通を唸らせる技巧派として実力評価の高い選手である。今回、メルビン・ロペス(ニカラグア)との一戦も、安定したスタイルから繰り出す多彩な右ストレートでコントロールし、最終回は3度のダウンを奪ってなんと15点差もつける勝利。あらためて、このロドリゲスを屠った井上の強さを実感したファンも多いのではないか。

日本人の統一チャンピオンが君臨する可能性も

 近年の例にもれず、4人の新チャンピオンはそれぞれがライバル対決(統一戦)を希望している。バンタム級統一戦レースが再び展開されたとして誰が勝ちあがるのか、あるいはその過程で新たな世界チャンピオンが生まれる可能性もないとは言えない。日本人ボクサーに限っても、WBAで石田匠(井岡)、IBFで西田凌佑(六島)がすでに「挑戦者決定戦」に勝ってタイトルマッチに接近しているのだ。ほかにも、話題の1000万円賞金トーナメント(井上尚弥4団体統一記念杯 バンタム級モンスタートーナメント)に参戦中の日本王者、堤聖也(角海老宝石)や強打のOPBF東洋太平洋王者、栗原慶太(一力)、さらにフライ級王者時代に15連続KO記録をマークした比嘉大吾(志成)など、個性豊かなタレントが王座を目指している。


VictorySportsNews編集部