「悔しいです。まだ整理はつかないけど、しっかり受け止めて、CSに向けて準備していきます」。勝てばリーグ2位となり、CSファーストステージの横浜スタジアム開催が実現していた10月4日の巨人戦(東京ドーム)。0-1で惜敗し、三浦監督は唇をかんだ。しかし、3位でCS出場権を勝ち取ったチームには、1998年以来25年ぶりとなる日本一への道は開かれている。10月14日からマツダスタジアムで行われる広島とのCSファーストステージ、同18日からの甲子園での阪神とのファイナルステージ。その突破への強みとなるのが「打線の爆発力」だ。

打線の破壊力は上位3球団でも随一

 今季5得点以上の試合は昨季と同じ42試合(35勝7敗)で、シーズン全体の約30%を占めた。本塁打が出た試合は44勝22敗。先制した試合は49勝18敗1分け。終盤戦は、9月25、26日に大貫、東の両先発が粘って2日連続の1-0勝利を飾るなど、僅差の試合を勝ち切る展開が増えたが、数字から浮き彫りになるのは、世間のイメージ通りともいえそうな勢いに乗ったら手が付けられない破壊力。序盤の一発長打で“令和のマシンガン打線”に火がつけられるか否かが、勝利への大きなカギを握っている。

 中心にいるのは今季セ・リーグで3人しかいない3割打者の一人で6年ぶり2度目の首位打者に輝いた宮崎(.326)と、103打点で打点王、164安打で最多安打の2冠を獲得し、リーグ4位の打率.293、同3位の29本塁打を記録した牧。このリーグ屈指の4、5番コンビに、かつての本塁打王ソトが控え、代打にはリーグ3位の代打安打数(14)をマークする楠本、同4位の10安打で得点圏打率.328(61打数20安打)をたたき出す大和を擁するなど、タレント的には十分な顔触れが並ぶ。

 一方で、課題となるのは得点力。昨季最多安打のタイトルを獲得した主将の佐野が右有鉤骨を骨折したことが10月2日に判明し、CS出場が絶望となった。オースティンも右肩の手術を受けるため既に帰国と、オールスターキャストとはいかない点は気がかりだ。また、チーム打率.247は阪神の.247、広島の.246とほとんど差がないにもかかわらず、得点は阪神の555(リーグトップ)に対してリーグ4位の520。2得点以下の試合は昨季の51から59に増えており、チーム得点でリーグ4位(497得点)だった昨季も見られた得点効率の悪さ、大味な攻撃という課題は克服しきれていない。

先発三本柱と充実の救援陣が投手力支える

 続いては投手。チーム防御率3.16はリーグ3位で、打率同様に3.20の広島と僅差。先発防御率3.14、救援防御率3.19と先発、救援に差はなく、安定した投手力を見せている。ただ、16勝の東、7勝の今永、10勝のバウアーと、この3人が登板し勝っている試合が多く、今季精彩を欠き昨季の11勝から5勝にとどまった大貫、右肘手術からの復活途上にある4勝の平良と、同じく4勝の石田が続く。投手の能力測定で使われ、1.00以下でエース級とされる指標「WHIP=(与四球数+被安打数)÷投球回数」のトップ5(規定投球回以上)に東(0.95=2位)、今永(1.05=5位)の2人が入るなど、1位の村上(0.74)、伊藤将(0.96=3位)がランクインする阪神と遜色ないエース級の先発投手を擁する一方で、バウアーを加えた三本柱への依存度が高い点のも事実。バウアーが右腸腰筋遠位部の損傷でレギュラーシーズン終盤に離脱した点も不安要素だ。

 救援では今季、シーズン途中に異例の守護神交代劇があった。不調の山崎に代わり、森原が7月に新クローザーとなり、17セーブをマーク。その役割を果たした。10月3日に足の張りで出場選手登録を抹消された影響は気になるところだが、“代役の代役”でクローザーを務める来日1年目のウェンデルケンが防御率1.66、2勝2敗3セーブ、33ホールドの成績を残し、中継ぎに回った上茶谷も防御率2.11と安定感を見せている。昨季リーグトップの71試合に登板し防御率・1.72、42ホールドポイントをマークした伊勢は、昨季ほどの信頼感はないものの最後の5試合は無失点と調子を取り戻しつつある。ほか後半戦で防御率1点台と復調しているエスコバー、若手の石川、宮城の台頭もあり、ラインアップは充実。山崎、入江が2軍落ちする想定外の事態に見舞われながらも、昨季15試合あった逆転負けが今季は9試合に減り、先制・逃げ切り勝利も33試合から38試合に増えたように、救援陣は粘り強さを発揮しており、短期決戦でも大きな武器となる。

対広島のポイントはエース&主軸による寄り切り

 ここからはファーストステージ、ファイナルステージをそれぞれ展望していく。まず、ファーストステージで戦うのは広島。今季の対戦成績は10勝14敗1分けと負け越した。その10勝のうち4勝を挙げたのが、今季16勝でセ・リーグの最多勝に輝いた東で、6試合に登板して4勝0敗、防御率は1.84、クオリティスタート(QS=6回以上自責点3以下)率100%と完璧に近い形で抑えている。ほか今永、バウアー、石田が先発した試合でチームとして勝利しているが、石田は0勝1敗、対戦防御率6.60と相性が良くなく、東、今永(対広島は今季1勝1敗、防御率2.61)の2人で突破を決められるかが重要になる。

 広島はWHIPで九里(1.10)がリーグ9位で最上位であるように、圧倒的な先発投手が不在。打者もOPSで最上位が全体の12位である西川(.760)と、飛び抜けた成績をした選手はいない。総合力の高さが武器ではあるが、リーグ屈指の活躍を見せた選手が投打に2人以上いるDeNAとしては、その個人能力の高さで押し切るシーズン同様の形が出せれば、優位に試合を進められそうだ。

“シーズン通り”では苦しい 対阪神で重要となるのは

 ファイナルステージの相手は、今季セ・リーグ覇者の阪神。2位に11.5ゲーム差をつけて圧勝したように、その強さは数字にも表れている。得点は先述した通り、リーグトップの555。昨季リーグ5位の489得点だったチームは岡田監督が就任した今季、得点効率を大きく向上させた。

 チーム打率はDeNAと並んでリーグ2位の.247、本塁打に至ってはリーグ5位の84本で、DeNA(105)、広島(96)を下回る。それでも、総得点でDeNA(520)、広島(493)を圧倒できている要因が、走力と選球眼だ。盗塁はリーグトップの79で、近本(28盗塁)、中野(20盗塁)とリーグ1、2位の盗塁数を誇る1、2番コンビだけでDeNAのチーム盗塁数(33)を上回る。

 盗塁数、盗塁企図数、三塁打数、得点などをポイント換算して走力を割り出す指標「Spd」(最低0、最高10)は阪神がリーグトップの4.92で、DeNAは5位の3.21。盗塁の成功率も阪神の73.1%(リーグ2位)に対して、DeNAはリーグワーストの55.9%。四球を選んだ数は阪神がダントツの494(DeNAは4位の355、広島が5位の349)で、四死球によってどれだけ出塁したかを表す選球眼の指標「IsoD」でも阪神がリーグトップの.075に対して、DeNAは同3位の.058(広島は4位の.057)と大きな差をつけている。

 そんな打撃面以上に、阪神が他球団を圧倒しているのが投手力だ。チーム防御率はセ・リーグ唯一の2点台となる2.66と圧倒的な数字をたたき出す。先発では防御率1.75でトップの3年目右腕・村上、現役ドラフトで加入し復活を遂げた大竹、防御率2.39で5位につける社会人出身の3年目左腕・伊藤将の3人が2桁勝利を挙げ、抑えに最多セーブに輝いた岩崎擁する救援陣も防御率2.31と盤石の布陣。先発には、さらに今季の8勝中5勝をDeNAから挙げる青柳や同じくシーズン8勝の西勇も続く。

 投打に充実する阪神に対して、果たしてDeNAにつけいるスキはあるのか。ここまでの数字を見ると、厳しい戦いになるのは間違いない。ファーストステージからの勝ち上がりが必要な2位以下のチームにとっては、3人目の先発投手でスタートする日程面の不利もある。

 逆に言えば、DeNAにとって3人目の先発の存在が、下克上を目指すチームにとっては重要になるともいえる。その観点では、頼りになる右腕がタイムリーに現れたのは追い風だ。10月1日の中日戦(横浜)で、大貫が2安打完封勝利。わずか94球で投げ切り、マダックス(100球未満での完封)を達成する圧巻の投球を披露したのだ。昨季は11勝でチームの勝ち頭となった5年目右腕だが、5イニング前後でつかまる“悪癖”が顔を出すなど今季は精彩を欠き、2軍落ちも経験するほど苦しんでいた。しかし、キャリアハイの1試合11奪三振をマークした9月25日の巨人戦(横浜)に続いて、今季最終登板でも本来の実力を発揮。2連勝と勢いに乗り、一気にポストシーズンの“3人目の男”筆頭格に名乗りを上げた形だ。

 さらなる追い風も吹く。バウアーの回復が順調で、CSで復帰できる見通しとなった。ブルペンでの投球練習を経て、10月6日の練習ではライブBP(打者相手に行う実戦形式の投球練習)に登板。直球の最速は151キロを計測した。通常なら母国に早々と帰国していてもおかしくない時期のけがだったが、そこで諦めず、ストイックに取り組めるのが、このサイ・ヤング賞(米大リーグ最優秀投手賞)投手のすごいところ。5月のデビューから中4、5日で登板を続け、10勝を挙げた最強右腕が戻ってくるならこれ以上頼もしい存在はいない。

 レギュラーシーズンの対阪神は5連勝で終えており、シーズンの対戦成績も12勝13敗とほぼ互角。打線も、OPSトップ5に1人もいない阪神に対して、DeNAは先述した通り牧、宮崎の2人が並び、長打力・爆発力では大きく上回っている。直近の対阪神5試合で先発起用された駒大出身のルーキーの林や、4試合でスタメンに入った関根といった走力のある選手が攻撃面のエッセンスとなれれば、十分に渡り合えるはずだ。

「ヒーローは最後にやってくる」

 そうバウアーは自身のYouTubeチャンネルで力強く語った。昨季はファーストステージで敗退し、シーズンを終えたDeNA。2年連続Aクラスという球団の生え抜き監督では初となる好成績を残した三浦監督のもと、“下克上”への道筋は見えている。


VictorySportsNews編集部