文=池田敏明
「補強」か「育成」か。交差する2強の戦略

スペインサッカー界における積年のライバルであるレアル・マドリーとバルセロナ。チーム強化の方法について、皆さんはどんなイメージをお待ちだろうか。巨額の資金を費やしてスター選手を買い漁るR・マドリーに対し、バルサは下部組織の選手を育て、トップチームに昇格させて主力に据える育成型のクラブ。そんなイメージを抱く方は多いだろう。
実際、歴代の移籍金ランキングではクリスティアーノ・ロナウドやギャレス・ベイルが上位にランクインし、現在のチームは彼らが中心となっている。一方のバルサは、下部組織出身のリオネル・メッシやアンドレス・イニエスタが主軸だ。「R・マドリーはスター選手をかき集めているだけでチーム強化に一貫性がない」、「バルサの育成力は世界屈指」。そんな意見が大半を占めるのではないだろうか。
しかし、近年は少し事情が変わり、両者の逆転現象が起きつつある。つまり、R・マドリーが下部組織出身選手を重視し、バルサは移籍市場に高額資金を投入するようになっているのだ。
ほんの数年前まで、R・マドリーの先発メンバーにはスター選手がズラリと並び、下部組織出身選手GKイケル・カシージャスだけという状況も珍しくはなかった。しかし、16ー17シーズンのチームではDFダニ・カルバハルやDFナチョ、FWルーカス・バスケス、FWアルバロ・モラタといった下部組織出身選手が重要な役割を演じている。トップチームに所属している全24選手のうちで下部組織出身選手は、Bチーム所属経験のあるカゼミーロを含めれば8人に上る。
●16-17シーズンのレアル・マドリー 下部組織出身選手
キコ・カシージャ(GK)
ルベン・ジャニェス(GK)
ダニ・カルバハル(DF)
ナチョ(DF)
カゼミーロ(MF)
ルーカス・バスケス(FW)
マリアーノ・ディアス(FW)
アルバロ・モラタ(FW)
一方のバルサは、かつてはピッチに立つ11人全員が下部組織出身選手、ということもあった。
この試合、13分にブラジル代表DFダニエウ・アウベスの負傷に伴いスペイン代表DFマルティン・モントーヤがピッチに入ったことで、クラブの近代史上初となる、11人全員が、カンテラーノ(バルセロナの下部組織出身選手)という編成が完成した。レバンテ戦でバルセロナのピッチ上11人全員がカンテラ出身者に | サッカーキング
しかし近年は、FWボージャン・クルキッチやFWペドロ・ロドリゲス、ジオバニ・ドス・サントス、チアゴ・アルカンタラ、マルク・バルトラと下部組織出身選手を次々に放出。大金を費やしてネイマールやルイス・スアレスを獲得するなど、クラブの哲学とは相反するチーム強化をしている。16ー17シーズンのチームにおける下部組織出身選手の数は22人中、Bチーム所属経験のあるMFデニス・スアレスを含めて10人。R・マドリーとの割合の差は縮まっているのだ。
●16-17シーズンのバルセロナ 下部組織出身選手
ジョルディ・マシップ(GK)
ジェラール・ピケ(DF)
ジョルディ・アルバ(DF)
アレイクス・ビダル(DF)
セルヒオ・ブスケ(MF)
デニス・スアレス(MF)
アンドレス・イニエスタ(MF)
ラフィーニャ(MF)
セルジ・ロベルト(MF)
リオネル・メッシ(FW)
“買い戻し”を効果的に用いるR・マドリー

この変化は何に起因しているのだろうか。R・マドリーの場合は、レンタル移籍や買い戻しオプション付き移籍を活用するようになったことが大きい。カシージャやカルバハルは、一度は完全移籍で他のクラブに移籍しているが、R・マドリーはその際の契約に買い戻しオプションをつけていた。そして移籍先で十分に成長したと判断したタイミングで、彼らを買い戻しているのだ。今シーズン開幕前には、同じ方法でモラタをユヴェントスから復帰させている。
また、L・バスケスは買い取り権利と買い戻し権利を付帯してエスパニョールにレンタルし、先方が買い取り権利を行使して完全移籍が成立したものの、直後にR・マドリーが買い戻し権利を行使して復帰するという経緯を持つ。彼らの存在は、R・マドリーの下部組織に所属する選手たちに「努力を続ければ、いつかトップチームでプレーできる」という意欲を持たせることに繋がり、クラブとしても「たとえ放出することになっても、常にチェックしている」というメッセージを送ることができる。現在、フランクフルトにレンタル移籍中のDFヘスス・バジェホも、来シーズン以降の復帰が確実視されている。
バルサが補強への積極性を見せるようになったのは、2011年にカタール・スポーツ・インベストメントと胸スポンサー契約を結んだことと無関係ではない。バルサは元々、胸スポンサーを入れない哲学を貫いていたが、06年にユニセフのロゴを入れて禁忌を破ると(この時はバルサがユニセフに寄付をする形を取っており、スポンサー料は発生していない)、11年からはカタールから年間3400万ユーロ(約42億円)を受け取っていた。そして、17-18シーズンからは楽天と年間5500万ユーロ(約68億円)の4年契約を結ぶことになった。
サッカーがビッグビジネスと化し、選手の移籍金の額も高騰する一方の昨今、チーム力を維持し続けるためには、高額のスポンサー料収入を元手に補強するのが近道となる。バルサが「育成」から「補強」へとチーム強化の方針を変え始めたのも、時代の変化を捉えた生き残り策と言えるだろう。同じくR・マドリーの方針転換もまた、選手たちのモチベーションを上げつつ補強の成功率を高める新たな戦略と言えそうだ。
経営者 2017/02/02 09:43
バルサが補強に力を入れだしたのは、下部組織にいい選手が育ってないためです。現在のバルサB、フベニルを見てもトップチームでやれそうな選手がいない。トップチームではタイトルをとることが求めらるので、止むを得ず補強せざるを得ない。一方で財政はよくなってきてるので大型補強ができていると。
もっと読むあと5〜6年は今のような状況は続きそうです。天文学的契約解除金でネイマールやスアレスと契約延長を行ってるのも、単にあと1年とか2年で出ていかれては困るためです。
fangate(株) 代表取締役/一般社団法人日本スポーツマンシップ協会理事 2017/01/31 15:50
クラブが出来た当初はどこも自前の選手の育成をスタートとしていたはず。育成システムが機能しチームが強くなれば、良い選手が集まり、さらに強くなるという好循環が生まれる。サッカーが現在のように大きな経済価値を持つと良い選手がいる強いチームにお金が集まってくる。そのお金をどのようにクラブ内で再配分するかはクラブの戦略による。さらに育成に投資するか、あるいはクラブのスタイルが確立した後であればスタイルに合った人気選手を外から呼んだ方がチームの強さを維持し、底上げし、人気を高めるために効率的な場合もある。ビッグチームはチームの成功をピッチ内外両面をみながら戦略構築をしているのだろう。
もっと読むライター/コラムニスト 2017/02/05 04:27
育成部門では、ビッグクラブだからこそ直面する問題もありそうですね。現在インテルで活躍中のイカルディのケースをよく覚えているのですが、彼はバルセロナの下部組織に所属していた頃、自分のプレーがクラブのスタイルと合わないこと、バルセロナではライバルが多すぎてトップチームでデビューできる可能性が低いことなどから葛藤し、イタリア行きを決意したという経緯があったそうです。近年アルゼンチンでは、ビッグクラブよりもプレーできるチャンスの多い中堅クラブに才能が集まる傾向にあるのですが、もしかしたらスペインでも同じような現象が起きているのでしょうか。興味があります。
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