文=池田敏明

ビッグクラブの胸に陣取る「エミレーツ航空」

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 サッカーチーム、それもレアル・マドリーやバルセロナ、マンチェスター・ユナイテッドといった世界的知名度のあるビッグクラブのユニフォームの胸スポンサーになることは、各企業に大きな経済効果をもたらす。何しろ試合では90分間、企業のロゴマークが画面に映り続け、それが世界中に配信される。チームが勝利すれば企業のイメージアップにもつながるし、ビッグトーナメントで優勝しようものなら、選手たちが歓喜する映像の中にロゴが映り続けることになる。15秒ないし30秒のCMを制作するより、よほど効果的ではないだろうか。

 ビッグクラブの胸スポンサーを射止めるのは、それなりの資金を準備できる大企業となる。現在、最も多くのビッグクラブの胸スポンサーになっているのは、UAEのエミレーツ航空だろう。R・マドリーを始め、ミラン、アーセナル、パリ・サンジェルマン、ベンフィカ、ハンブルガーSVと、ヨーロッパ各国のビッグクラブがユニフォームの胸に「Fly Emirates」のロゴを掲出している。アーセナルにいたってはホームスタジアムのネーミングライツも取得しており、彼らの本拠地は「エミレーツ・スタジアム」と呼ばれる。

 一方、バルセロナはカタール航空、マンチェスター・シティはエティハド航空が胸スポンサーになっている。中東の航空会社は現在、胸スポンサー業界の一大勢力となっているのだ。

 自動車関連企業も負けてはいない。ユヴェントスはフィアット・クライスラー社と契約しており、ユニフォームには「Jeep」のロゴが入る。また、マンチェスター・ユナイテッドはゼネラルモーターズ社(以下GM)と7年間の長期契約を結んでおり、胸には同社の代表的車種である「CHEVOLET(シボレー)」のロゴが輝いている。

「楽天」がバルセロナと巨額契約を締結

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 日本企業はどうだろうか。かつてはソニーがユヴェントスの、シャープがマンチェスター・Uの、セガがアーセナルの、トヨタがフィオレンティーナやバレンシアの胸スポンサーを務めていた時代があった。最近は外国の企業の後塵を拝してきたが、15-16シーズンから横浜ゴムがチェルシーとスポンサー契約を結んでユニフォームに「YOKOHAMA TYRES」のロゴが入っている他、17-18シーズンからは楽天がバルセロナの胸スポンサーを務めることになり、大きな話題を呼んだ。この契約が発表されたことによって「RAKUTEN」の名は世界中に知れ渡ることとなった。この時点で、楽天には大きなメリットがあったと言えるだろう。

 ちなみに、バルセロナと楽天の契約は年間約64億円で、優勝ボーナスなどを含めれば最大で約71億5000万円に達する。これはマンチェスター・UとGM社が結んだ年間約82億円に次ぐ額となっている。

クラブのマーケティングを取り仕切るマネル・アロジョ(Manel Arroyo)副会長は、「基本契約は年間5500万ユーロで、リーグ優勝した場合は150万ユーロ(約1億7000万円)、欧州チャンピオンズリーグ(UEFA Champions League)で優勝した場合は500万ユーロ(約5億8000万円)のボーナスが支払われる」と明かしている。
バルセロナが楽天と胸スポンサー契約、来季から年間64億円 写真6枚 国際ニュース:AFPBB News

 これまでは我々日本人にとってある程度、なじみのある企業を紹介してきたが、「日本ではあまり知られていない大企業」が複数のクラブと契約を結んでいるケースもある。その代表例として紹介したいのが、メキシコのパンメーカー、「グルーポ・ビンボ」だ。

 同社は世界最大のパンメーカーで、メキシコ国内はもちろん、アメリカやカナダ、中南米諸国にも商品を展開しているため、これらの国々の多くのクラブとスポンサー契約を結んだ実績を持つ。メキシコではクラブ・アメリカやチーバス、モンテレイ、ネカクサ、MLSのフィラデルフィア・ユニオン、コスタリカのデポルティーボ・サプリサ、アルゼンチンのベレス・サルスフィエルドなど、枚挙にいとまがない。ラテンサッカー好きの方なら、「BIMBO」という大きな赤文字のロゴを見たことがあるのではないだろうか。音の響きだけを聞くと、日本人にとってはいいイメージが湧かないかもしれないが、「BIMBO」はれっきとした大企業なのである。

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池田敏明

大学院でインカ帝国史を専攻していたが、”師匠” の敷いたレールに果てしない魅力を感じ転身。専門誌で編集を務めた後にフリーランスとなり、ライター、エディター、スベイ ン語の通訳&翻訳家、カメラマンと幅広くこなす。