文=村上晃一

批判に違和感を覚える関係者は多いはず

共同通信

 日本最高峰リーグである「ジャパンラグビートップリーグ」は企業スポーツである。最近は、他のプロスポーツと比較して、運営面での批判を受けることも多いが、これについては違和感を覚える関係者、ファンは多いだろう。トップリーグの実態は、プロリーグとは大きく違っている。トップリーグの選手資格には次のような条文がある。

「選手と当該チームの親企業等(当該チームに係る費用の主たる部分を負担する企業及びその連結対象またはそれに相当する関連企業をいう)との間に雇用・嘱託・業務委託の契約関係があること」

 現在のトップリーグはプロとアマチュアの選手が混在している状況だ。ここでいう「プロ」とは、主にラグビーをする契約社員のこと。基本的に海外でプロとして活躍し、日本にやってきた外国籍選手はほぼこの形。だが、日本で生まれ育った選手のプロはいまだ少数派で、正社員としてラグビーの他に職場を持つ選手が多い。つまり、「アマチュア」である。

 2015年ラグビーワールドカップで優勝候補の南アフリカ代表を破り、世界を驚かせた日本代表選手の中にも、プロとアマは混在していた。同じサントリーに所属していても、畠山健介、松島幸太朗らはプロだが、真壁伸弥はウィスキーエキスパートの資格を持ち、社業ではウィスキーの営業に回っている。同じように、リコー、トヨタ自動車、NEC、東芝など多くの企業でラグビーと仕事を両立する選手が多い。

 なぜ、企業スポーツの形態が続いているのかといえば、ラグビーの競技規則には長らく「アマチュア規定」があったからだ。プレーによる報酬を禁じる規則で、これが撤廃され、世界的にプレーによる報酬が容認されたのは1995年のこと。それまではラグビーワールドカップに出てくる世界各国の選手もラグビーとは別の仕事を持って生計を立てていた。トップ選手でありながら医者や弁護士であったいう例は枚挙にいとまがない。ニュージーランドなど海外の強豪国は地域のクラブチームを軸にラグビーが発展したため、職業もばらつきがあったが、日本ラグビーは明治時代に慶應義塾の学生がラグビーを始めたことから、旧制中学、旧制高校、大学に通うエリート層を軸に発展したため、卒業後に就職した会社でもラグビー部を作る流れになり、大きな企業の部活動が盛んに行われるようになった。

ラグビーと仕事を高いレベルで両立させる

共同通信

 こうした文化があったからこそ、日本では、ラグビー出身で企業トップになる人が多いわけだ。最近では、サントリーフーズの社長を務めた土田雅人氏(同志社大学)が日本代表選手だったし、ローソンの玉塚元一CEO(写真)も慶應義塾大学時代はスター選手だった。ラグビーと仕事を高いレベルで両立してこそ尊敬される。それがラグビー界で長らく続いた価値観だった。現在はプロ選手も増え、価値観は変化してきたが、それでも両立を目指す選手は多く、仕事にしっかり取り組めるという条件で企業チームを選ぶ大学生も多い。

 この前提を抜きに他のプロスポーツと比較することはできない。ファンを喜ばせる仕掛けや、観客をリピーターにする仕組みづくり、チケット販売方法など見習うべき点は多いのは確かだが、トップリーグは各チームが参加費を支払って運営されており、プロの興行という感覚が薄い。プロ化を進めるべきとの声もあるが、選手のセカンドキャリアの問題など考えれば簡単にはいかない。また、ラグビーは激しい身体接触のともなう競技のため、怪我も多く、一人の選手がこなせる試合は年間で30数試合。15人という大人数のチームで戦うこともあって、その3倍超の選手を抱えていなくてはならず、人件費もかさむ。プロ化にはきわめて不向きなスポーツだ。企業の関係者が二の足を踏むのは当然だろう。

 東京都港区と日本ラグビー協会が共同で開催する講演会「みなとスポーツフォーラム」で、サントリーの広報兼普及担当を務める田原耕太郎氏は次のような話をしていた。

「ラグビーを通じて得られる多様性、責任感、役割、チームワーク、規律、応用力などの能力は、ビジネスで通用しないわけがありません。現役選手がラグビーで養ったノウハウを職場でも活用して、会社の即戦力になる。こうなればチームの勝ち負け以外にも会社がラグビー部を持つ価値が生まれます。こういうアプローチができるのは企業スポーツの強みです」

 ただし、現実にはトップ選手の仕事とラグビーの両立は年々難しくなっている。日本代表、そしてスーパーラグビーに参戦したサンウルブズでプレーすれば約半年間は会社に行くことができないからだ。日本代表の立川理道(クボタスピアーズ)も、2016年春からプロに転じている。

 また、2019年のラグビーワールドカップに出場する日本代表強化のため、来季からは日本代表、サンウルブズの日程を優先し、トップリーグは短期化される方向だという。2019年以降については決まっていないが、ラグビー協会主導ではなく、各チームが興行権を持って試合を運営し、リーグが別組織として独立するなど、ラグビー独特の事情のなかで、さまざまな方法が検討されることになるだろう。プロ・アマの共存はいつまで続くのか。日本ラグビー界のジレンマはしばらく続きそうだ。

村上晃一

著者プロフィール 村上晃一

1965年、京都府生まれ。10歳からラグビーを始め、現役時代のポジションはCTB/FB。大阪体育大時代には86年度西日本学生代表として東西対抗に出場。87年にベースボール・マガジン社入社、『ラグビーマガジン』編集部勤務。90年より97年まで同誌編集長。98年に独立。『ラグビーマガジン』、『Sports Graphic Number』などにラグビーについて寄稿。