ACL決勝進出なるか? しぶとさを見せる今季の浦和

近年、日本勢の前に立ちはだかってきた中国の壁を乗り越えられるだろうか。

浦和レッズが10月18日、ACL準決勝の第2試合に臨む。ホーム・埼玉スタジアム2002に迎えるのは、ブラジル代表のフッキやオスカルを擁する中国の新興クラブ、上海上港である。

敵地に乗り込んだ9月27日の第1戦では、GK西川周作が神がかり的なセーブを連発し、1対1のドローに持ち込んだ。勝点1と貴重なアウェーゴール。アドバンテージを手にして第2戦を迎えるだけに、ワシントンや田中マルクス闘莉王らの活躍で初優勝した2007年以来、10年ぶりとなるファイナル進出への期待も高まる。

もっとも、こうした期待とは裏腹に、今季の浦和は苦しいシーズンを送っている。

春先にはJ1の首位に立ったが、5月に入ってから急失速。7月30日には5年半指揮を執ったミハイロ・ペトロヴィッチ監督の解任に至った。要因を探れば、メンバー固定による競争力の低下、戦術のマンネリ化が招いたサイクルの終焉に突き当たる。

後を引き継いだ堀孝史監督がメンバーの入れ替えを実行し、チームの風通しは改善されたが、新たな戦術を構築している最中で、成績がなかなか安定しない。

そんな状況で迎えた川崎フロンターレとのACL準々決勝。第1戦を1対3で落とすと、第2戦でも先制され、崖っぷちに追い込まれた。ところが、ここから奇跡的な展開を見せる。前半のうちに追いつくと、相手が退場者を出したのに乗じてゲーム終盤に3ゴールを連取し、劇的な勝利で準決勝進出を決めたのだ。

崩れそうでいてなんとか踏みとどまり、敗退寸前まで追い込まれながらしぶとく勝ち上がる。そんなチームの原動力となっているのが、エースのFW興梠慎三とMF柏木陽介だろう。

アジア制覇のキーマンは、覚悟を決めた10番

1トップの興梠はゴール前に入り込む動きが老獪で、ポストプレーは国内屈指の安定感を誇る。フィニッシュワークも落ち着いていて、J1得点ランクのトップに立つのもうなずけるプレーぶりだ。

興梠をサポートする柏木は、後方に下がってボールをピックアップして攻撃を組み立て、ゴール前まで飛び出して決定機に絡む――。まるでボランチとトップ下の二役を1人でこなしているかのようだ。

9月9日の柏レイソル戦以降、チームは4−3−3のシステムを採用し、柏木はインサイドハーフとしてプレーしているため、ある意味、当然の役回りといえるかもしれないが、そのプレーには“覚悟”を感じさせる。ACLを獲るという“覚悟”であり、恩師に恩返しをしたいという“覚悟”だ。

今季の柏木は、本調子ではない。シーズン前に古傷である左内転筋の痛みが再発し、シーズン序盤に5試合、半ばに2試合の欠場を余儀なくされた。後半戦に入ってからも痛みがぶり返し、7試合を棒に振っていて、「今年は本当にもどかしい」と、本人も表情を曇らせる。しかし、だからこそ、コンディションを整えて、出場した試合でのパフォーマンスが光る。

堀監督の初陣となった8月5日の大宮アルディージャ戦で長い距離を走ってゴールを奪うと、続くヴァンフォーレ甲府戦では美しいループシュートを決め、新監督に初勝利をプレゼントした。6試合ぶりの出場となった川崎とのACL準々決勝第2戦では2アシストをマーク。上海上港とのACL準決勝第1戦で値千金の同点ゴールを決めてみせた。

柏木を突き動かす恩師への想い、チームへの想い

7月に指揮官が解任された際、誰よりも心を痛めたのが、柏木だった。サンフレッチェ広島時代にレギュラーに抜擢してくれたのも、浦和からオファーが届いた際に背中を押してくれたのも、再び浦和で出会い、さらなる成長を促してくれたのも、ペトロヴィッチ監督だったからだ。

「嗚咽するぐらい泣いた。ミシャに出会っていなかったら、今の自分はない。ここからチームが上に行くことが、ミシャへの恩返しになると思っている」

と同時に、「苦しむチームを俺が救う」と誓った。堀監督就任後の決定的な仕事の数々は、有言実行のパフォーマンスでもあったのだ。

「年々、個人の夢がどんどん減ってきているんですよ」

春先に、柏木はこんなことを語っていた。

「もちろん、日本代表に返り咲きたいっていう想いはありますよ。けど、今はチームとして結果を出すことのほうが大事だと思っている。目標はリーグ優勝とACL優勝。ただ、去年リーグ最多勝ち点を記録したわけだから、まったく経験していないという点で、ACL優勝が最大の目標。今季はACLを絶対に獲りたい」

16年10月を最後に柏木は日本代表から遠ざかっている。ロシア・ワールドカップまで残された時間は長くない。焦りがあってもおかしくないが、柏木は個人よりもチームの目標のほうが大事だと言い切ったのだ。

10月18日のACL準決勝第2戦、ゴールを奪わなければ勝ち上がれない上海上港は猛攻を仕掛けてくるに違いない。そんなとき、いなして、焦らして、仕留められるか――。浦和の背番号10が落ち着いたゲームコントロールと相手の隙を突くチャンスメイクを見せたとき、浦和にとって10年ぶりの決勝が近づいてくる。


<了>

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飯尾篤史

明治大学を卒業後、編集プロダクション、出版社勤務を経て、2012年からフリーランスのスポーツライターに転身。著書に『残心 Jリーガー中村憲剛の挑戦と挫折の1700日』(講談社)、構成として岡崎慎司『未到 奇跡の一年』(KKベストセラーズ)などがある。