(C)荒川祐史

世界ランキングトップ10の選手を呼ぶ

「若いころは主観的なモチベーションが強かったです。自分がこれをやりたいからやる。その結果として社会に貢献できていたらいいかな、と」

やるからには誰にも負けない努力をしてそれを達成する。その覚悟の強さが松下氏を成功に導いてきた。それは50歳を迎えた今も変わらないが、仕事に対するモチベーションは少し変わった。

「今は主観的なモチベーションというよりも、日本のために何ができるかということを考えるようになりました。Tリーグが開幕することをきっかけに、卓球を通して日本が良くなってほしい。卓球の試合を見て、一人でも多くの人に感動してもらい、翌日も頑張ろうと思ってもらいたいと考えています」

世界一の卓球リーグをつくる。掲げた目標を達成するために、松下氏はTリーグにさまざまな独自性を仕掛けていきたいと語る。1部の「Tプレミアリーグ」に参加するクラブには、世界ランキング10位以内に準ずる実績を持つ選手を1人以上所属させることが義務付けられている。

「世界トップレベルの選手をTリーグに呼びたいですね。基本的には、十分な契約金を用意できれば呼べると考えています。特に中国のトップ選手に来てほしいので、中国のリーグと開催期間が重ならないように配慮しました」

発足前ということもあり、ビッグネームの獲得には各クラブの努力に頼っているだけでは実現が難しい。リーグが主導で交渉を行い、そこから各クラブに割り振る方針をとる。Tリーグの開催期間は10月から翌年の3月までとし、中国のプロ卓球リーグ「スーパーリーグ」でプレーする選手たちが、Tリーグにも参戦できる日程を組むことにした。

「人生は一度しかありませんし、自分のやりたいことをとことんやりたいタイプです。中途半端な成果はいらないんですよ。だからこそ、Tリーグにも高いハードルを設けています」

22歳でスウェーデンに卓球留学し、日本人プロ卓球選手のパイオニアとして海外に挑んだ。そのチャレンジ精神は、今も衰えていない。

(C)荒川祐史

成功する唯一の方法は、「諦めない」ことと「しぶとく行く」こと

「卓球用品メーカーの社長(※)をやっていたほうが、誰にも文句を言われないですし、気持ち的には楽です。それでも、日本のためにTリーグが必要だと思っているからやることに決めました」
※松下氏は、卓球用品メーカーの株式会社VICTASで代表取締役社長を務めていた(現在は代表取締役会長)

日本に卓球のプロリーグをつくりたいという思いは、スウェーデンに卓球留学していたころから抱いていた。Tリーグ発足は、松下にとって28年越しの悲願だ。

「スウェーデンに行って、自分の中の価値観が大きく変わっていったことを覚えています。日本では文武両道という教えが強く、卓球も勉強も一生懸命やることを美德とする指導を受けてきました。それはもちろん素晴らしいものですが、一つのことに一生懸命になって打ち込むことも同じように素晴らしいことだと思います。日本にも卓球だけに打ち込める環境をつくりたい、プロリーグがあったらいいなと感じていました」

しかし、ただプロリーグを発足するだけでは意味がない。世界のトップ選手獲得にこだわる松下の意図は明確だ。

「放映権を中国や東南アジアの卓球が盛んな国に売りたい。最大のターゲットは中国です。Tリーグを放送したいという話もいただいています」

サッカーや野球とは違い、卓球観戦には3000人規模のアリーナが適しているという。試合数も年間21試合にプレーオフを加えたものとなるため、会場に集客しての収益はさほど見込めない。そこで、収益の柱となるのが海外への放映権料だ。世界トップ10の知名度と実力を獲得することは、Tリーグ成功のために欠かせない。東京オリンピックでの結果がどうなっても競技人口が減らないように、今、Tプレミアリーグを発足し、成功に導きたいという。

「どんな目標であれ、成功させる唯一の方法は、諦めないこととしぶとく行くことだと思っています。そのためには覚悟を持って腹を括ることです。仕事が変わったら給料が減るんじゃないかとか、そんなことで踏みとどまっていてはチャレンジはできません。誰だって人生山あり谷ありですから、そこから逃げないでやり続けることが大切なんです」

松下にはTリーグ成功よりも大きな目標がある。

「中国に勝ちたい」

その野望のために、日本卓球界のパイオニアが新たな卓球文化を日本に根付かせようとしている。

<了>

(C)荒川祐史

[PROFILE]
松下浩二(まつした・こうじ)
1967年8月28日生まれ、愛知県出身。明治大学在学中、スウェーデンへと卓球留学。同大学卒業後、国内では協和発酵、日産自動車、グランプリ、ミキハウスに所属。ドイツ、フランスへも移籍。ドイツ・デュッセルドルフでヨーロッパチャンピオンズリーグ優勝に貢献する。バルセロナ、アトランタ、シドニー、アテネ五輪出場。ITTF世界ランキング最高17位。株式会社VICTAS代表取締役会長。一般社団法人Tリーグ理事を務め、日本初のプロフェッショナルな運営をする卓球リーグの創設に尽力している。

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VictorySportsNews編集部