プロ野球OBが口を揃えて名言「優勝の条件は外国人選手の活躍」
今オフ、複数のプロ野球OBに2018年シーズンの展望を聞く機会があった。
その誰もが口をそろえて明言する「優勝の条件」。それが、「外国人選手の活躍」だ。
事実、昨季パ・リーグ優勝を果たしたソフトバンクにはセーブ数日本記録を樹立し、最多セーブのタイトルを獲得したサファテ、本塁打&打点の二冠を獲得したデスパイネ、先発投手として13勝を挙げたバンデンハーク、シーズン途中に育成から支配下登録され19HPを挙げたモイネロがいた。セ・リーグ覇者の広島にも、セットアッパーとして60試合に登板し32HPを挙げたジャクソン、チーム最多の27本塁打を放ったエルドレッドらがおり、チームの優勝に貢献している。
プロ野球界における「外国人選手」の活躍は、チームの勝利には不可欠なファクターだ。「助っ人」という言葉からも分かるように、外国人選手に求められるのは「即戦力」であり、分かりやすい「結果」。近年は育成目的で20歳そこそこの若い外国人選手を育成契約などで獲得するケースも見られるが、外国人枠として登録される選手に関しては育成している余裕などない。
しかし、その一方でプロ野球界における「新外国人」の前評判ほど、信用できないものもない。
過去にも、「現役バリバリのメジャーリーガー」、「最速160キロ」、「マイナーで本塁打王」など、あらゆる肩書を持った外国人選手が日本球界にやってきては、結果を残せずにひっそりと去っていった。かと思えば、入団時は大した評価もされず、格安の年俸にもかかわらず、いきなりタイトルを獲得するような選手もいる。
外国人の獲得は、言ってみればギャンブルに近い。
出たとこ勝負でキャンプ、オープン戦での結果もあまりあてにはならない。
とはいえ、それなりの年俸を払って来日させる以上、各球団は外国人選手獲得の成功率を上げなければいけない。
その中でもっとも信用できるパターンが、すでに日本球界で実績を残している選手の獲得だろう。今季でいえば、昨季中日で本塁打王を獲得し、巨人へと移籍したゲレーロが該当する。
国内での実績、海外担当スカウトの評価、所属しているリーグと球団のレベル、さらには日本向きの性格かまで……。
各球団は細かなリサーチのもと、「この選手なら大丈夫」と判断した選手のみ、貴重な外国人枠を埋める選手として獲得する。
そして、それでも失敗する。
そんな中、今日本球界が熱い視線を送るのが「韓国プロ野球界」だ。
韓国でコーチ、選手経験のあるOBが語る韓国球界の現状
(C)Getty Images今季の新外国人選手の中で断トツの評価を受けている阪神のロサリオ。推定年俸3億4000万円は来日1年目の助っ人としては球団史上最高額。日本プロ野球全体でも、「超一流」と言っていい評価額だろう。
メジャーでは2011年にデビューを果たすと、5年間で通算71本塁打。強打の捕手兼内野手として活躍した。しかし、ロサリオがメジャーでプレーしたのは2015年が最後。高額年俸を勝ち取った最大の理由は、2016年から2年間在籍した韓国プロ野球・ハンファでの活躍が大きい。
2年間で打率.330、70本塁打、231打点という結果を残したロサリオはその実績が評価され、韓国経由でジャパニーズドリームを掴んだことになる。
実はこの「韓国経由で日本球界入り」というケースは、決して珍しくない。打者でいえばロッテ、西武、楽天、オリックスでプレーしたホセ・フェルナンデスや、横浜、中日でプレーしたタイロン・ウッズが韓国球界で成績を残し、日本球界に移籍。その後はチームの主力として活躍した。投手でも前述のバンデンハークが2014年までの2年間、韓国でプレーした後、ソフトバンクに入団している。
もちろん、昨季ロッテに入団したナバーロのように、「韓国で活躍→日本球界入り」といったルートを辿っても、失敗に終わるケースはある。それでも、太平洋を越えたメジャーリーグでの実績より、お隣韓国での成績の方が、日本球界で活躍できるかどうかの基準としてはまだ信用できる。これが、昨今の「外国人選手獲得事情」の傾向となっている。
とはいえ、韓国プロ野球界のレベルが日本よりも格下なのは間違いない。WBCなどでは日本と接戦を演じることも多いが、選手の層や全体のレベルを見れば、その差は明らかだ。
筆者は以前、巨人、中日でプレーし、2015年に韓国のハンファで投手コーチを務めた西本聖氏に、韓国プロ野球界の実情を聞いたことがある。そこで西本氏が語ったのは、日本と韓国の歴然たる「違い」だった。
「まず、練習量が多い。私の現役時代よりも、さらに前のプロ野球といったイメージ。キャンプでは朝8時前にはグラウンドに出て、宿舎に帰ってくるのは夜の9時。休みもほとんどない」
まるで高校野球の合宿のような練習を、韓国のプロ野球選手は行っているという。さらに、首脳陣の在り方も、日本とは大きく違う。
「日本では監督を中心に、選手の指導は役割分担がしっかりされている。投手の練習は投手コーチが、打者の練習は打撃コーチが見るし、シーズン中の継投も投手コーチが任されているケースが多い。ただ、韓国の場合は監督の存在が絶対。練習から技術指導、試合中の采配まで、監督が絶対的な決定権を持っている」
スパルタに近い練習に、監督の独裁政権……。話だけ聞いていると、いかにも前時代的な野球だ。
また、2009年から3年間、韓国でプレーした門倉健氏は韓国プロ野球界における「外国人選手」のシビアな現状をこう語る。
「日本ではシーズンが終わると、すぐに戦力外通告が行われる。これは、翌年の所属先を探すための配慮でもある。ただ、韓国の、特に外国人選手に対してはそんな配慮は一切ない。2010年にシーズン14勝を挙げてチームの優勝に貢献したんだけど、翌年の年明けにいきなり戦力外通告を受けた。国内外、ほとんどの球団が戦力補強も終えている時期だったので、所属先を探すのに本当に苦労した。故障していたという理由もあったんだけど、さすがに『マジかよ……』と思いました」
韓国は日本以上に外国人選手に対しての見切りが早く、契約解除も突然訪れる。
ただ、裏を返せばそれだけシビアな環境で結果を残し続けるには、確かな実力がないといけない。
日本とは大きく違う韓国球界の現状を語ってくれた西本、門倉両氏だが、そのレベルについては奇しくも同じ見解だった。
「全体のレベルは日本の方が上だけど、トップ中のトップは日本の一流選手と比べても遜色ない」
特に、打者のレベルは近年メジャーリーグでも評価が高い。
日本と韓国の球界を比較して見える傾向
2015年に姜正浩がメジャー移籍1年目で126試合出場、打率.287、15本塁打、58打点を挙げたのを皮切りに、翌2016年にはソフトバンクでプレーした李大浩ら4人の韓国人野手がメジャーデビュー。昨年も黄載鈞がメジャー移籍を果たしている上、2014年から3年間、韓国・NCでプレーしたエリック・テイムズがメジャー復帰1年目でいきなり31本塁打を放つ活躍を見せるなど、「韓国球界の打者」はメジャーからも熱視線を浴びている。もちろん、そのすべてが成功を収めているわけではないが、2013年の田中賢介以来、純粋な「野手」のメジャー移籍が実現していない日本とは対照的だ。
一方で、投手はというとメジャーでの評価は日本の方が断然高い。ドジャースで2013~14年に2年連続で14勝を挙げた柳賢振、昨季カージナルスで20セーブを挙げた呉昇桓などもいるが、ダルビッシュ有、田中将大といった各チームのエースクラスを擁する日本人と比較すると、その差は歴然だ。
そもそも、韓国球界の大きな特徴と呼べるのが、極端なまでの「打高投低」。日本球界よりもはるかに「飛ぶボール」を公式球として使用しているという話もあるが、それを差し引いても打者有利の偏重具合は「異常」といっていいレベルにある。
以下に、昨季の日本球界と韓国球界の成績を比較してみる。
※韓国プロ野球は10チームの1リーグ制でシーズン144試合、日本プロ野球はセ・パ各6球団でシーズン143試合制。データは各リーグの公式サイトを参照。
【リーグ打率】
韓国 .287
セ・リーグ .251
パ・リーグ .250
【リーグ本塁打】
韓国 1547本(1試合平均2.15本)
セ・リーグ 718本(1試合平均1.67本)
パ・リーグ 782本(1試合平均1.82本)
【3割打者人数】※規定打席到達者
韓国 33人(1チーム平均3.3人)
セ・リーグ 7人(1チーム平均1.17人)
パ・リーグ 2人(1チーム平均0.33人)
【リーグ防御率】
韓国 4.98
セ・リーグ 3.68
パ・リーグ 3.66
リーグ打率は3分以上、防御率は1点以上の開きがある。前述の公式球、さらには球場の広さなど、一概には比較できないが、韓国球界は意識的に「打高投低」を推進している節もあるという。ライト層のファンは特にそうだが、0対0の投手戦よりも、本塁打が乱れ飛ぶ乱打戦の方が人気も出やすい。こればかりは「お国柄」といえるかもしれないが、少なくとも韓国球界は「投手王国」の日本とは真逆のアプローチでリーグを運営していると言えそうだ。
その中で、世界でも通用する打者が育ち始め、シビアな環境でプレーする外国人選手も他国でのプレーに順応し、どんな環境でも本来のポテンシャルを発揮できる能力を開花させる。
韓国球界を経由して来日したロサリオがレベルの高い日本プロ野球の投手に対し、どんなパフォーマンスを見せられるかは、まだ分からない。
ただ、ロサリオの活躍次第で今後、日本の海外担当スカウトの目が、より韓国に向く可能性は否定できない。もちろん、その逆も然りだ。
遠くて近い国、韓国。
日本プロ野球とは対照的な成長を見せるこのリーグには、近い将来日本で活躍する選手が、まだまだいるかもしれない。
<了>
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