波乱含みだった2017-18シーズンの前半戦

4年に1度の特別なシーズンはISUチャレンジャーシリーズ(CS)から話題豊富だった。ネイサン・チェン(アメリカ)が4ループを鮮やかに降りて優勝すれば、同時期に宇野昌磨がショートプログラム(SP)、フリースケーティング(FS)、総合得点の全てで自己ベスト(PB)を更新して優勝。その数日後には羽生結弦が自身のSP世界歴代最高得点を塗り替え、ハビエル・フェルナンデス(スペイン)が逆転優勝して存在感を示した。さらにミハイル・コリヤダ(ロシア)が美しい4ルッツを遂に決め、10月には2人の4回転(クワド)ジャンパー、ヴィンセント・ジョウ(アメリカ)とボーヤン・ジン(中国)が空中戦を繰り広げるも、クワド1本のアダム・リッポン(アメリカ)が追い上げ、それぞれに持ち味を活かした戦い方を見せた。

グランプリシリーズ(GPS)が始まると3人の新旧世界王者に試練が訪れる。

ジャンプの不振から自身のGPS初戦で4位に終わった元世界王者のパトリック・チャン(カナダ)が、国内選手権に専念するために2戦目の欠場を発表。11月最初のGPSで前世界王者のフェルナンデスが表彰台を逃し、GPF進出が絶望的となる。さらに現世界王者の羽生は、NHK杯の前日公式練習中に4ルッツジャンプの着氷で右足を痛め、無念の欠場。前人未踏のグランプリファイナル(GPF)5連覇は幻となった。

歴代世界王者の戦線離脱という予期せぬ事態を迎える中、スピンやステップ、間の取り方などでも成長した姿を見せて2連勝したチェン、昨季の世界選手権から4試合連続となる300点超えで優勝を飾った宇野、SPのPBを更新して優勝し、GPF進出一番乗りを決めたコリヤダ、高さとキレのあるジャンプと力強く安定感のある演技でNHK杯初優勝の歓喜に沸いたセルゲイ・ヴォロノフ(ロシア)、安定感のある演技と独自の世界観を築きつつあるリッポン、美しいプログラムで定評のあるジェイソン・ブラウン(アメリカ)が名古屋で顔を揃えた(6番目のジンは怪我により欠場)。

五輪の行方を占うシーズン前半戦の栄冠を手にしたのは、SPを自分のものにしつつあり、FSで6クワド構成を組んだチェンだった。名古屋を練習拠点とする宇野は、演技構成点でトップの評価を受けながらもタイムオーバーやジャンプミスによる減点が響き、0.5点差で初のタイトルを逃し、3位には伸びのあるスピードに乗った滑りで演じ切ったコリヤダが入った。

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各国五輪代表選手の動向は?

●スペイン
自身最後のGPSで有終の美を飾ったフェルナンデスは、国内選手権7連覇を果たし、五輪出場を決めた。欧州選手権では他を寄せ付けない圧倒的なスコアで6連覇を達成。個人戦だけに集中できるアドバンテージと質の高い軽やかなジャンプ、観客を引き込む演技力がもたらす高い演技構成点を武器に、『チャーリー・チャップリンメドレー』『ラマンチャの男』で、3度目の正直に挑む。

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●中国
両足首の怪我によりGPFと国内選手権を欠場したジンだが、CSの優勝やGPS2戦の成績により初の五輪代表に選ばれ、四大陸選手権では怪我明けとは思えないほぼパーフェクトな演技で優勝。2年連続で世界選手権銅メダリストでもある高難易度構成の先駆者は、五輪でも侮れない存在となりそうだ。

昨季肩を負傷したハン・ヤンは、今季ニースカップで優勝、GPS2戦で5位に入るなど調子を取り戻しつつあり、国内選手権では3年ぶりに優勝を果たして代表入りした。四大陸選手権ではジャンプミスが続いたが、カナダのチャンを彷彿とさせるスケーティングで2大会連続となる五輪へ臨む。

●ロシア
12月、国としての参加が認められないことが国際オリンピック委員会から発表となり、個人として五輪へと参加することとなったロシアは、コリヤダとドミトリー・アリエフが五輪へ向かう。

コリヤダはここ一番の大舞台で実力を発揮できずにいたが、GPS初優勝、初進出のGPFで3位表彰台と代表候補の中でも今季抜群の成績を残し、国内選手権でも2連覇を達成。五輪のメダルを争う存在として名乗りを上げる。

国内選手権3位のアリエフは、背中や肩、指先の美しい表現が光る若手の注目株だ。初出場で2位に入った欧州選手権の再現ができれば、上位進出も見えてくる。

●日本
NHK杯開幕前日に負傷した右足首の回復が遅れている羽生が、2年連続で欠場することとなった全日本選手権。実績や今季の成績で群を抜く羽生と宇野の代表入りが確実視される中、注目が集まった「第三の男」争いは、SPで会心の演技を披露し、FSでは『フェデリコ・フェリーニメドレー』で会場を盛り上げた田中刑事がその座を射止めた。全日本で堪えながらも着氷させた2本の4サルコウ、四大陸でもFS後半に軽々と決めた4トゥループを初の大舞台でも成功させられるかどうかが入賞(8位)の鍵となってくるだろう。

地力で勝る宇野はジャンプミスがありながらも大会2連覇で初の五輪代表を手にした。4種類目のクワドとなる4サルコウを成功させるなど今季も進化を遂げているが、GPS2戦目以降ピリッとしない演技が続いていた。四大陸選手権のFSでは、課題だった後半のジャンプを全て成功させ、前半のジャンプミスを忘れさせるまずまずの演技を見せた。激しく上体を動かしてもぶれることがない氷に吸い付くようなスケーティングと音楽と一体化になった演技力で演技構成点でも世界王者達に迫る二十歳の全日本王者が、どう攻めるのかに注目したい。

3人目は右足の回復具合が気になる羽生だ。強い姿を平昌の地で見せるに違いないと思わせるのは、幾度となく数々の苦難を乗り越えて無類の強さを発揮してきたからだろう。「圧倒的に勝ちたい」と言い続けるソチ五輪王者だが、例え自身最高の構成でなくとも、『バラード第1番』『SEIMEI』という2シーズン前に世界最高得点を2度更新したマスターピースを滑り切れば、66年ぶりの五輪2連覇は決して夢ではない。最強プログラムの再演を心静かに待ちたい。

●アメリカ
今季全勝しているチェンが圧倒的な強さで全米2連覇を達成し、満場一致で代表に選出された。構成やその滑りからも状態は万全ではなかったが、ミスらしいミスはアクセルのみ。SPの『ネメシス』では軽やかなエッジワークや緩急のある演技を、FSの『Mao’s Last Dancer』では高いジャンプ技術と滑りや所作の美しさも感じさせるGPF王者は、5種類のクワドに強さと自信を携え、五輪の頂を狙う。

2人目には2017年の世界ジュニア優勝とCSフィンランディア杯2位の実績が評価された、全米選手権3位のジョウが選ばれた。4種類のクワドを駆使するジャンパーは、4ルッツからの連続ジャンプで大きな加点を稼ぐ一方で、回転不足が課題だ。現に全米FSでも5クワド中4クワドで回転不足判定だったが、100点近い技術点を獲得。高難易度構成故の強みとも言えるだろう。

3人目にはクワド複数本構成が主流の時代に、4ルッツ1本で勝負をかけたリッポンが入った。質の高いクリーンなエレメンツで出来栄え点を積み重ねて音楽を体現する多彩な演技力で演技構成点を伸ばし、今季の安定した成績、そして代表の座へと繋げた。

●カナダ
出場枠2のうち1枠は10回目のカナダ王者に輝いたチャンとなった。スケートカナダの後、一時期リンクから離れていたが、拠点を母国に戻して再始動し、国内選手権では、4トゥループ3本の構成で臨んだ。正確なエッジワークと変幻自在で心地よいスケーティングが奏でる『すべては風の中に』と『ハレルヤ』で、自身3度目となる五輪を心から楽しんでほしい。


表現者として高みを極めつつあるミーシャ・ジー(ウズベキスタン)、キレのあるジャンプで躍動するアレクセイ・ビチェンコ(イスラエル)、自国開催の五輪代表を逆転で勝ち取ったチャ・ジュンファン、復調の兆しを見せつつあるソチ五輪銅メダリストのデニス・テン(カザフスタン)も見逃せない。夢舞台で放つそれぞれの輝きを、この目にしっかりと焼き付けたい。

<了>

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