世界有数の“ラグビーの国”オーストラリア

昨年11月、かねてから日本ラグビー・フットボール協会の特任理事を務めていた横浜DeNAベイスターズ初代社長、池田純氏がサンウルブズの運営母体となるジャパンエスアールのCBOに招聘されました。10億円の売り上げで1億の赤字と資金にまだまだ乏しく、さらに今季は興行の日程や種々の契約環境によってできることは限定的なサンウルブズですが、同時に発表された聖地・秩父宮ラグビー場で試合を行う時の『青山ラグビーパーク構想』は、大きな反響を呼びました。今季から日本代表のジョセフ・ヘッドコーチが指揮を執ることになり、2019年の開幕を控えワールドカップに向けて日本のラグビー人気の底上げに貢献したいサンウルブズ。“ラグビーの国”オーストラリアを視察した池田氏に話を聞きます。

「オーストラリアでのラグビー人気は、人気という言葉で言い表せないくらいすごいです。誰に聞いてもラグビーのことがわかるし、みんな興味を持っている。日本の野球のような存在。オーストラリアの文化です」

先週、シドニーにあるスーパーラグビーの運営組織SANZARのCEOと意見交換し、オーストラリアのラグビー環境とそのマネジメントを視察してきた池田氏は、現地の人々とラグビーの密接な関係性に感じるものがあったと言います。

オーストラリアは、1991年、99年にはワールドカップで優勝、日本が躍進した2015年のイングランド大会では準優勝と世界的な強豪であるナショナルチーム「ワラビーズ」を擁しています。さらに、日本で“ラグビー”と認識されているラグビー・ユニオンに加え、もう一つのラグビーと呼ばれるラグビー・リーグがそれぞれ大人気。加えて国内ナンバーワンの観客動員を誇るのが、独自のルールで行うオーストラリアン・フットボールという、世界でも他に例がないほどラグビーが根付いている国なのです。

(C)Getty Images

オーストラリアのラグビーを支えていたのは“パブ文化”だった

池田氏はオーストラリアと日本の差を目の当たりにして、日本ラグビー発展のために、サンウルブズが果たすことができる可能性の大きさを改めて感じたと言います。

「2015年に日本代表が南アフリカに勝って、日本でもラグビーブームが来ました。五郎丸選手がメディアにも度々登場して、ブームと呼べるような時期がありました。でもいま、そのブームが去ってしまった。2019年に日本でラグビーのワールドカップが開催されますが、この大会は確実に盛り上がるでしょう。そして、2015年の時のようにブームが終わるのではなく、2019年以降も引き続き、未来に向かってラグビーの景色が変わっていかなくてはならない。未来を創らなくてはいけません」

池田氏は、ラグビー界の未来の鍵を握るのが、サンウルブズが参戦するスーパーラグビーという「世界リーグに日本のチームが参戦している、その存在、活躍』だと言います。

「サンウルブズはスーパーリーグに参戦していますが、これは野球で言えば、メジャーリーグに日本の球団が参加しているような状況です。ニュージーランド、オーストラリア、南アフリカを軸に、各国からプロチームが15チーム参加しています」

世界最高峰のリーグに日本のサンウルブズが参加していることは紛れもないチャンスです。毎年必ず“おらがチーム”の試合がある『プロリーグ』は、競技の発展には不可欠なシステム。しかも、世界各国を転戦しているスーパーリーグは、もちろん日本でも試合を開催するので、日本に居ながらにして世界の超一流選手のプレーを堪能できるという贅沢な状況なのです。

池田氏は、こうしたサンウルブズを取り巻く状況をもっと日本国内で知らせることが日本のラグビーの未来につながると説きます。資金面ではまだまだ十分ではありませんが、その中でスーパーラグビーの興行の日に秩父宮をラグビーパーク化させるなどの施策では、今季から変化を見せ始めていきたいと意気込みます。

「今回のオーストラリア視察で特に考えさせられたのが、冒頭でも紹介したオーストラリアのラグビーファンの競技やゲームへの接し方でした」

日本のプロ野球がここ数年で変わったのと同様に、オーストラリアで必要な変化のヒントを得たと言います。

「オーストラリアはパブ文化です。私も20年前くらい前にオーストラリアに住んでいたことがあるのですが、みんなパブが大好きで、週末はもちろん平日でもビールを飲みに行きます。今回の視察で驚いたのは、そのお金がラグビーにちゃんと落ちているということなんです。これは今回初めて知りました」

パブでお酒を飲んだお金がラグビーのためになる? これだけではどういうことかわかりませんが、現地でその仕組みを視察したという池田氏の説明はこうです。

「オーストラリアは街中だろうが田舎町だろうが至るところにパブがあるんですが、その中で“ラグビーパブ”なるものがあちこちの街にあるのです。そうした街には、パブのそばに必ずといっていいほど、日本の野球場と同じくらいのラグビー場があるんです。同じく現地で人気のクリケットもできる施設がいっぱいあるんです。実はこの膨大な数のラグビー場を、パブが運営していたりするのです。これは私も本当に驚いたんですが、地域の人たちがパブの運営に関わっていて、そこで使われた飲食代が少年ラグビーチームの運営費や施設の維持費に充てられているのです。パブではテレビ画面で、アメリカの野球やアメフト、バスケならぬ、ラグビーが必ず流れている。地域の人たちが理事のような立場で地域のラグビーを支えている。ラグビー文化を支える草の根の活動が自然にある。子どもから大人までラグビーに触れる文化があって、それがプロにつながっている。すごい文化を見せてもらったと思いました」

青山ラグビーパーク構想を推進するために

(C)Getty Images

『青山ラグビーパーク構想』もまさにこうした生活や文化とラグビーの融合を目指したもの。今回の視察でその思いはさらに強くなったようです。

「オーストラリアでラグビーとパブが密接に関わり合っているのを見て、これがすごくヒントになると思いました。そのまま日本に持って来るわけにはいきませんが、まずは青山という一等地にある秩父宮ラグビー場をスーパーラグビーの試合日だけでいいから“ラグビーパーク”にしよう、大きな日本風パブ空間をつくって、そこにみんなが集まり、ラグビーをきっかけに会話を楽しむ場所にしようと。現在の秩父宮は、多くの人が“ラグビーの試合を観に来ています”。ほぼ熱心なラグビーファンで占められています。それ自体はまったく悪いわけではありませんが、試合が終わるとすぐに人がいなくなってしまう。もっと秩父宮に楽しい時間と、楽しい時間を過ごせる人が増えるといい。試合後も社交場として、コミュニティづくりの場として活用できたら、単純に楽しいと思うんですよ。要は日本のプロ野球が、“野球の試合だけを熱心に観に来て、必死に試合を観る”文化から、ここ数年でボールパークに遊びに来る、“野球をつまみに野球場に楽しい時間を過ごしに来る”文化に変わったように」

池田氏が目指すのは「試合はもちろんだけど、試合の前後もみんなで楽しめる空間づくり」。

「秩父宮に大きなパブをつくろう! と言っても、はじめのうちはなかなか受け入れてもらえない面もありますよね。なんと言ってもラグビーの聖地ですから。本来、スポーツは楽しむためのものなので、試合を見るだけでなく、ファンや足を運んでくれた人たちにも楽しんでもらいたいんです。別府の合宿で選手たちと直に話す機会がありましたけど、それぞれラグビーの人気を定着させていくためにはどうしたらいいかということを考えていました。そんなサンウルブズの選手たちと一緒にどんなことをしていけるかがこれからの日本のラグビー人気に大きく関わっていくと思っています」

サンウルブズが秩父宮で見られるのは6試合。今季の開幕戦は2月24日オーストラリアのブランビーズを迎えて行われます。世界最高峰のプレーはもちろんですが、秩父宮ラグビー場が“大きなパブ”、社交の場としてどんな変化を見せるのかにも注目です。

<了>

取材協力:文化放送

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