善戦したサンウルブズと開幕戦を彩ったイベント
©Getty Images地下鉄・外苑前駅の階段をのぼって地上に出る。ここからサンウルブズの本拠地である秩父宮ラグビー場までは、徒歩で約5分。スタジアムへ向かう道中は、サンウルブズの選手たちが掲載されたポスターや赤いフラッグなどで彩られており、非日常的な空間を創り出していた。そんな道を歩くのは、選手起用や細かい戦い方などの議論を繰り返すオールドファン、初めて息子を会場に連れてきた親子連れ、ビール片手に盛り上がる外国人たちとさまざまだ。2月24日、サンウルブズのシーズン開幕戦を心待ちにし、集まった観客は1万4614人を数えた。試合開始直前には歌手の郷ひろみ氏が登場し、君が代を斉唱して会場を盛り上げた。
スーパーラグビー参戦1年目は1勝で18チーム中最下位。2年目の昨年も、わずか2勝にとどまっていたサンウルブズだが、3年目となる今季は大型補強を敢行し、ジェイミー・ジョセフ ヘッドコーチを招聘して、トップ5入りを目標に掲げた。優勝2回、準優勝4回を誇るオーストラリアの名門であるブランビーズとの開幕戦では、前半を19-15で折り返す健闘を見せた。ハーフタイムショーには、郷氏が再び登場し、「2億4千万の瞳」を熱唱し、場内を大いに盛り上げた。
開幕戦の勝利を目指すサンウルブズだったが、後半の開始早々に逆転を許してしまう。その後、一時は10点差までリードを広げられてしまったが、試合終了間際にSOヘイデン・パーカーがペナルティゴールを決めて、最終スコアを25-32とした。それでも最後のPGで7点差以内の敗戦としたことで、開幕戦で勝ち点1を得ることができた。
観客動員数こそ昨シーズン開幕戦の1万7553人には及ばなかった。それでもサンウルブズは、オーストラリアの名門から勝ち点1を挙げ(昨季の開幕戦は17-83の完敗)、場内では、スタジアムグルメに舌鼓を打つ人、グッズを買う人、チアガールやマスコットと写真撮影をする人と思い思いに空間を楽しんでいた。
上映中止となったラグビー ドラマ「スクール・ウォーズ」
©Getty Imagesその中で、一つのイベントが行われなかった。この日、ラグビー ドラマである「スクール・ウォーズ」の上映会が予定されており、主演の山下真司さんからの応援コメントもサンウルブズに届けられていた。23日、サンウルブズの公式HPでは以下のような発表が行われていた。
「一般社団法人ジャパンエスアール(東京都港区、会長:上野裕一、CEO:渡瀬裕司、CBO:池田純)は、2月24日(土)開幕の三菱地所スーパーラグビー2018シーズンのヒト・コミュニケーションズ サンウルブズ主催(ホーム)試合にて、一世を風靡した人気ラグビードラマ「スクール・ウォーズ」の名場面集を、会場内ビジョンつきのステージにて上映いたします。また、ドラマに登場する、熱血教師・滝沢賢治を演じた俳優の山下真司さんからサンウルブズへの応援コメントも放送いたします。ドラマを見たことがある方もない方も、「スクール・ウォーズ」の熱い世界をぜひお楽しみください」
「スクール・ウォーズ」が、日本のラグビー界に与えた影響は小さくない。日本のラグビーファン、いやスポーツファンなら誰もが知っているドラマである。放送された1980年代、タイムリーにこのドラマを見ていた人たちは、40代、50代となっており、現在のラグビー人気を支えている年代だ。秩父宮ラグビー場で放映されていれば、多くのファンが熱狂しただろう。実際、この上映を伝えるサンウルブズのツイッターには、ファンから「すごい! 楽しみ! でも、観てたら泣いてしまうかも」「なんかちょっと泣きそうになる!!」といった声が寄せられていた。
秩父宮での「スクール・ウォーズ」上映を楽しみにしていた人は、少なくなかっただろう。しかし、試合開始の一時間前になっても場内では上映が行われていなかった。会場にいた関係者に聞いたところ、「前日の夜になって、公式HPのリリースを見たラグビー協会の専務理事からストップがかかったようです」と、明かしてくれた。その後、公式HPでは試合開始直前になって、朝にアップされた山下氏のメッセージが上書きされ、「スクール・ウォーズ名場面集、上映見送りのお知らせ」というタイトルになり、以下のメッセージが記された。
「ファンの皆さまへ 有名作品スクール・ウォーズの名場面集を上映することにつきまして、諸事情により、上映は見送らせていただくことになりました。 一般社団法人ジャパンエスアールCEO 渡瀬裕司」
©Getty Images上記の関係者に中止になった理由をたずねると、「専務理事が、『インテグリティなんだ』と。『文科省の副大臣も来るんだから』と。それでストップがかかったそうです」という答えが返ってきた。中止になった理由として挙げられた「インテグリティ(integrity)」という言葉だが、和訳すると「誠実、正直、高潔、完全な状態、無傷」などの意味がある。ラグビー界では、フェアプレーの推奨や暴力禁止などの意味でも用いられているようだが、今回はドラマ内にある暴力的なシーンが放映されることが問題となったようだ。
「この『インテグリティ』という言葉を言い出したのは、河野一郎副会長と坂本典幸専務理事なんです。だから『インテグリティ』というものに、みんな忖度しなくてはならないから、渡瀬さんも従わざるえなかったのでしょうね。河野一郎と坂本専務理事、この2人から睨まれると、ラグビー界からは追い出されてしまいますからね」
筆者はすぐに疑問符が頭に浮かんだ。たしかに、12月末にサントリーに所属する外国籍選手が暴行事件を起こしたこと、さらにそれを1月中旬まで隠ぺいしていた事例は、インテグリティ違反にあたる。他のスポーツ界なら責任問題だろう。
しかし、スクール・ウォーズはラグビー愛に満ち溢れた〝名作〝。不良から抜け出すために、体を張って守ってくれている先生への暴力が、それに該当すると考えたのだろうか。このシーンがあるからこそ、スポーツマンシップやフォア・ザ・チームという考え方が伝わった名シーンであり、R指定もされていない作品に対して、放送開始数十年後に疑問を投げかけること自体、どんなインテグリティが存在するだろうか。さらに別の関係者に会場で聞いたところ、「インテグリティ? 協会のツートップ自分たちにインテグリティがない、スポーツマンシップと真逆な人たちなのに(笑)」と、その関係者はインテグリティとラグビー界の組織の問題点に眉をひそめる。
本来、こうした試みの積み重ねが、日本のラグビー人気を定着させることにつながるはず。一見すると、前進したかのようにも見える「青山ラグビーパーク化構想」だが、実際にはこのようにジャパンエスアールは、日本ラグビー協会からの圧力を受けている。
2019年に自国開催のW杯を控える日本ラグビー界は、本当に変わろうとしているのか。サンウルブズの開幕戦の裏では、そんな疑問を残す出来事が起きていたのだ。
池田純CBOが描く2019年以降の日本ラグビー界 「サンウルブズには可能性がある」
2月24日、サンウルブズはスーパーラグビー2018の初戦を秩父宮ラグビー場で戦う。昨年11月、日本のスーパーラグビーチーム「サンウルブズ」を運営する一般社団法人ジャパンエスアールのCBOに招聘された池田純氏(42)は、世界最高峰のリーグを戦うプロチームであるサンウルブズには、大きな可能性があると語る。その理由とは――。(文=VICTORY編集部)
なぜサンウルブズは、ひたすら選手を追い込むのか? 辿り着いた普遍的な準備とは
2016年からスーパーラグビーに参戦しているサンウルブズが、2月24日に2018シーズンの初戦を行う。今季からはラグビー日本代表のジェイミー・ジョセフHCが、サンウルブズのHCも兼任することとなった。ジョセフHCはチームの始動から、ハードなトレーニングを実施。2016年は1勝で18チーム中最下位、2017年は2勝で18チーム中7位にとどまったが、今季は5位以内という高い目標を掲げ、結果を求めながら強化に取り組んでいく。(文=向風見也)
なぜ弱小サンウルブズは「削減対象」とならないのか?
スーパーラグビーは、2018年シーズンから現行の18チームから15チームに縮小すると発表。削減対象とされる南アフリカとオーストラリアのチーム関係者は戸惑いと怒りを隠せないが、参戦2年目でまだ通算2勝のサンウルブズが削減対象とならない理由を検証する。
サンウルブズがスーパーラグビーで戦う意義とは
日本国内のラグビーシーズンが終わっても、大勢のファンが聖地・秩父宮に足を運んでいる。ラグビー史上初の"プロチーム"であるサンウルブズの戦いを見届けるためだ。2年目のスーパーラグビーに挑む、その意義を問う。
ラグビー日本代表ジョセフHCがサンウルブズも指揮 19年W杯へ向け強化を一本化
スーパーラグビーの日本チーム、サンウルブズは2日に記者会見を行い、ラグビー日本代表のヘッドコーチ(HC)であるジェイミー・ジョセフ氏が、18年シーズンの同チームのHCに就任したことを発表した。2年後に迫っている日本開催のラグビーW杯での歓喜を目指し、前例のない兼任HCとして采配を振るうジョセフHCは、どのような強化策を描いているのか。