人気に実力が追いついてきた22歳

(C)岩本勝暁

自分の歩くペースを他の誰かに合わせる。はじめは足並みが揃わないこともあるだろう。だが、2人の歩調がピタリと合わさった時、その力は2倍にも3倍にも膨れ上がる。

それもまた、ビーチバレーボールの醍醐味の一つだ。

7月9日、ドイツのミュンヘンでビーチバレーボール世界大学選手権が開幕する。日本からは男女各2チームが参戦。2月の選考会を経て、男女各4人の派遣選手が決まった。

「以前は自分のことしか考えられないタイプでした。たとえば、誰かと歩いていても、相手のことを気にしないで先に行っちゃう。相手がまだ何かをやっているのに、それを待っていられない。相手に対する思いやりを欠いたところが、プレーにも表れていたように思います」

初めて日の丸をつけて戦う舞台に、胸を高鳴らせている選手がいる。

坂口佳穗、22歳。

大学に進学して本格的にビーチバレーボールをはじめた。173cmの長身。愛らしいルックスと相まって、瞬く間に「新ビーチの妖精」と騒がれた。大学とビーチを往復する毎日の中、誰よりもたくさん練習を重ねてきた。しかし、トップビーチバリヤーがしのぎを削る勝負の世界は甘くない。結果を残せない時期が続いた。
「ビーチバレーボールをはじめた頃は、なかなか同年代の選手に勝てませんでした。技術面はもちろん、人間的な部分や精神面が今よりも劣っていたと思います」

飛躍のきっかけは、勝利への貪欲な気持ちだった。普段のチームでペアを組む鈴木悠佳子から言われた言葉がある。

「『成長したいんだったら、まずは自分のダメなところを認めなさい。そうしないと、次には進めないよ』って言われました。難しいんですよ、認めるのって。でも、『ここを乗り越えたら必ず変わるから』って。勝ちたい。そう心から思い、素直に認める努力をしました」

私生活から少しずつ変えていった。どんなプレーをすれば、パートナーを助けられるのだろう。こう考えれば、できるプレーってたくさんあるんだ。相手を思いやることで、一足す一が三にも四にもなった。攻守においてプレーが安定し、自然と勝ち星がついてくるようになった。

2018年に入り、FIVB(国際バレーボール連盟)が主催するワールドツアーで3位に入るなど、着実に実績を残してきた。5月には、ジャパンビーチバレーボールツアー2018の東京大会で初優勝を飾った。海外を転戦する有力チームが不在ではあったが、プレッシャーに打ち勝っての価値ある優勝だった。

世界大学選手権では、1歳下の村上礼華とペアを組む。これまで年上の選手と組むことが多かった坂口にとっては新たなチャレンジだ。

「お互いに普段のパートナーが年上で、試合や練習では頼っている部分が多い。今回の大会は、お互いに自分の意志を言い合って、2人で一緒に決めていけたらいいねという話をしています。そのためには、自分のプレーに集中することも大事。そうすることで余裕が生まれるので、ゲームの流れを読む力をつけたいと思っています」

ようやく人気に実力が追いついてきた。遅咲きと言うなかれ。まだ22歳。自信と覚悟を身にまとった坂口が、花を咲かせるのはこれからだ。

2人のレジェンドに育てられた村上礼華

(C)岩本勝暁

一方、ペアを組む村上は、華やかな道を歩んできた選手と言えるだろう。坂口より1歳年下ながら、キャリアは豊富だ。大学から本格的にビーチバレーボールをはじめ、19歳、20歳で出場したU-21アジア選手権で2年連続準優勝。U-21世界選手権の出場も果たしている。

在籍する松山東雲女子大学では、インドア、ビーチで3大会のオリンピックに出場した佐伯美香さんから指導を受けている。昨年までのパートナーは、アテネ、北京と2大会連続で出場した楠原千秋。2人のレジェンドによって、高さを生かした攻撃力に磨きをかけてきた。世界大学選手権で女子チームの指揮を執る佐伯さんは言う。

「(村上)レイカは今シーズンから社会人の鈴木千代と組むことになって、世界を舞台にして戦う機会が増えました。もともとうまさがある選手ですが、よりいっそうパワーアップしたように思います。(坂口)カホも全体的に安定感が出てきた。日本代表の自覚を持ちつつ、どんどんトライしてほしいですね。連携を合わせる時間は短いですが、大会を通してお互いが成長してくれたらと思っています」

村上は同年代の坂口について、「組んでみたい選手の一人だった」と言う。
「今回、一緒に出場することができて素直にうれしいです。カホさんは、レシーブもブロックもできる。私も同じで競技歴はそれほど長くないけど、常に言葉を交わして連携を合わせていけるようにしたい」

度胸は満点。何ごとにも物怖じしないタイプだ。

「とにかく楽しんでプレーしたい。ミスしても落ち込まないよう、明るくプレーしたいですね。カホさんが求めているトスを上げられたらいいなと思います」

世界大学選手権で結果を出せば、おぼろげに見えていた東京オリンピックへの道筋も明確になってくるかもしれない。村上は言う。

「世界大学選手権はそれまで5位が最高の成績。それよりも上に行きたいというのが一番近い目標です。2年後には東京オリンピックも開催される。その頃には大学も卒業していると思うので、今よりも出たい気持ちが強くなっているかもしれません」

ドイツから帰国すると、2人はパートナーを変えて、7月25日から始まるFIVBワールドツアー東京大会に参戦する。

「(世界大学選手権は)今後、ビーチバレーボールで日本のトップに立つための、いかに存在感をアピールできるかの重要な大会だと思っています」

坂口は世界大学選手権に向けて、こう意気込みを話す。

その先に見据えるのは、2年後の東京オリンピックか――。

夏。本格的なシーズンを迎えるビーチバレーボール。殻を破った「期待の新星」が、混沌とする女子のトップ争いに割って入る。

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岩本勝暁

著者プロフィール 岩本勝暁

1972年生まれ。大阪府出身。2002年にフリーランスのスポーツライターとなり、バレーボール、ビーチバレーボール、サッカー、競泳、セパタクローなどを取材。2004年アテネ大会から2016年リオデジャネイロ大会まで、夏季オリンピックを4大会連続で現地取材する。