シーズン終盤の3位争いに新たな価値を生んだCS

「3位と4位では全然違いますよ。もうまったく違います」

横浜DeNAベイスターズの球団社長として2016シーズンのCSを経験している池田純氏は、球団から見たシーズン終盤のCS争いをこう振り返ります。

「もともとは、優勝チームが早々と決まってしまうとレギュラーシーズンの終盤が盛り上がりに欠けるということで、MLBを参考にして導入された制度ですよね。優勝争いの行方が決まってしまうとやはりお客さまの出足が鈍くなってしまうのは事実で、ファンの気持ちとしても優勝の芽がなくなった時点で『今シーズン終了』というモードになってしまいます。そこに日本シリーズへの挑戦権もあるCSへの道が開けるわけですから、シーズン終盤まで盛り上がるようになったわけです」

2007年から始まったCS制度によって、シーズン終盤にも3位以上に与えられる出場権争いという新たな価値が生まれました。

「レギュラーシーズンだけだと、年間144試合で終了ですが、CS、日本シリーズとポストシーズンの試合が増えればそれだけ球団としても収入が増えるわけで、球団にとってもCS出場権の有無、シーズンを3位で終えるか4位で終えるかは天と地ほどの差があります」

2012年から16年まで5年間、横浜DeNAベイスターズの球団社長を務めた池田氏は、ラストシーズンとなった2016年に3位でCS進出を経験しています。

「それまではCSが近づくと、球団内では宮崎で10月に開催されるフェニックスリーグの話題が多くなっていました。フェニックスリーグ自体は次代を担う若手のためにとても重要なリーグですが、他球団がCS、日本シリーズで盛り上がっている時期に『今年の野球』に関われないのは、正直寂しいものがありました。2016シーズンは、選手だけでなく、球団職員も含めた全員が『いまの時期に俺たちまだ野球やれている!』という充実感がありました」

ラミレス監督に率いられた当時のベイスターズは、3位でCS出場。ファーストステージを2位のジャイアンツと戦うことになります。

「さらにいえば、2位と3位も全然違うんですよ。3位はホームで試合ができないので、2016年のCSでの巨人戦は横浜スタジアムでの開催はありませんでした。東京ドームで試合をしたので、チケット収入はゼロです。ただ、CSの盛り上がりでグッズが売れたり、CS向けに新たにグッズをリリースできますし、シーズンが長くなることでスポンサーが喜んでくれるので、翌年のスポンサー収入にも好影響があるという恩恵もあります」

広島で感じた圧倒的な“ホームの圧力”

第1戦、第3戦を制したベイスターズは、ジャイアンツを破ってCSファイナルステージに進出。アウェーでの盛り上がりは池田氏の記憶に強く残っていると言います。

「1勝1敗で迎えた第3戦では、多くのベイスターズファンが東京ドームに応援に来てくださいました。東京ドームの半分ぐらいが青く染まって、あんな光景は初めて見ました。ベイスターズファンの歓声が大きくなって、それにチームが力をもらったことをよく覚えています」

ファイナルステージではペナントレースを制した広島東洋カープに挑むことになります。舞台は当然カープの本拠地、MAZDA Zoom-Zoomスタジアム広島です。

「広島は、空港に降り立った時から空気が違っていました。大げさではなく、目に入るものすべてが真っ赤になっていましたし、スタジアムは9割、いや9割7分、カープファンで埋め尽くされていて圧倒されましたね。たまたま第3戦、ベイスターズが勝った日に、広島であるお客さまとの会食があったんですが、思わず『個室でにしてください』とお願いしてしまうぐらい、街中がカープ一色で、ものすごいアウェー感でした」

当時、アウェーで経験した盛り上がりが強烈に印象に残っているという池田氏は、CS争い真っただ中の古巣・ベイスターズにこうエールを送ります。

「今シーズンはとにかくCSに出場してほしいですよね。そしていつか、ペナントレースを制して、CSファイナルステージを本拠地・横浜スタジアムで戦う姿をファンに見せてあげてほしいと思っています。日本シリーズは昨年経験していますが、CSを全試合ホームで戦って、横浜中が盛り上がる様子を見てみたいですよね」

接戦が続くセ・リーグのCS争いは、日程の関係からCS開幕2日前の10月11日時点の順位で出場チームを決めることが決まっています。球団の今シーズンの「天国と地獄」が決するのは10月11日 。シーズンのクライマックスに向かうプロ野球からますます目が離せません。

<了>

取材協力:文化放送

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VictorySportsNews編集部