1局独占のビジネスモデルを続けるべきか

9月29日に開幕した世界バレー女子大会。バレーボール界では最も歴史が古く、規模も大きい4年に一度の世界一を決定する大会である。連日熱戦が繰り広げられ、日本はここまで無敗のイタリアにフルセットまで持ち込み、土をつけるかと思われたが惜しくも敗れ、メダルへの道はなくなった。日本チームの熱戦をTBS系列が独占放送しているが、20億円もの巨額の赤字が見込まれる、そして日本バレーボール協会にも数億円単位の赤字が見込まれると朝日新聞が報じた。

1998年、2006年、2010年に継ぐ日本開催となった今大会の「バレーボール女子世界選手権」。9月29日アルゼンチン戦からずっと日本戦の激戦の様子をTBS系列が地上波のゴールデンタイムで放送している。端的に言えば、TBSの赤字は「CMを集められなかったこと」に尽きる。テレビ斜陽の時代で高額スポンサーはなかなか集められない。木村沙織、迫田さおりといった、バレーファンでなくても一般の視聴者にもわかる国民的スターが引退し、視聴率が危惧されたのだという。また、今大会の直前に行われたアジア大会で、ガチメンのAチームを送り込んだにもかかわらず、中国、韓国、タイに完敗して4位。メダル無しという惨状もそれに拍車をかけた。「女子バレーがアジアですらメダルが獲れない」というのは、バレーファンにとっても大きな衝撃であった。

近年はどのスポーツも放映権料が跳ね上がり、旧来のビジネスモデルでは採算が合わない状態になっている。バレーボールの国際大会の特異な点は、一つの局が大会まるごとを独占中継できる方式をとっていることだ。これは、その局にとっては全力をかけて番組を宣伝してくれるが、一方では他局は「そんな大会あったの?」とばかりに結果すら放映してくれないことが多い。オリンピックもサッカーワールドカップも、中継がどの局でも、結果は他局も放映する。それは持ち回りで中継することからテレビ局界全体で大会を盛り上げようという機運がある。バレーボールは逆で、「独占中継の放送の番宣代わりになってはたまらない」と他局は結果さえ放映しないのだ。独占放送させることで1局が総力を上げてくれるメリットと、デメリットと。そろそろこのビジネスモデルを考え直す時期に来ているのかもしれない。

日本戦のチケットが完売する裏で余っているチケット

もう一つ、日本バレーボール協会の赤字の方は、会場の使用料、運営費の他に、他国のチームの宿泊費、移動費を全負担していることからくる。これまでは、テレビ局がその分も上乗せしてFIVBに支払い、FIVBから日本協会には現地運営補助費として支払われてきた。だが、今大会はTBSがその負担を拒否。FIVBもたらい回しにして日本協会がそのつけをかぶることになったわけだ。日本協会はチケット収入でこれをしのごうとした。肝心の日本戦も、第1次ラウンドの最初の頃はガラガラだった。それでも勝ち進むに従って観客は増え、第1次ラウンドの最後の頃や、第2次ラウンドの土日祝日にかかる日、第3次ラウンドのセルビア戦などは「満員御礼」でチケットは完売した。にもかかわらず、赤字になった。なぜか。

それは、世界バレーはバレー界最大の規模を誇るだけあって、日本戦以外にも会場が複数あったことに起因する。29日開幕のブルガリアvsイタリア戦(北海道)の観客数は620名。熱心なサポーターのいるブラジル戦などは日本戦でなくても3,000人を超す観客がいることもあるが、ほとんどの試合が500名から600名という、どこかの小学校の体育館でやったほうがいいのでは? という観客数で終わった。チームの移動費・宿泊費に加え、ガラガラの会場の使用料、警備費など諸々の諸経費が重くのしかかってくる。

日本協会とTBSは方針を見誤ったのである。サッカーのワールドカップも、それ自体は放送した局にとっては巨大な赤字だった。しかし、少しでもその元を取ろうとした感覚のおかげか? 日本戦以外の海外戦の様子も各局で中継された。日本が敗退したあとも、国民は関心を持ち続け、高い視聴率を誇った。

今大会、男子大会はイタリアとブルガリアの共催で行われ、200万ユーロを超えるチケット収入でホクホクだという。イタリアが3次ラウンドで敗退したあとも、観客数は10,000人を超え、多くのイタリア国民が、ハイレベルなバレーボールの試合を楽しんだ。イタリアのテレビ局は、積極的に海外同士の試合も放映し、一般家庭でそれらが視聴され、贔屓のチームが生まれ、決勝まで関心をつないだ。

しかし、日本ではどうだろうか。「世界バレー開幕まで〇〇日!」とカウントするとき、女子大会の前に開催される男子大会のことは全く無視。そして、日本チーム以外のことも全く無視。世界には男子顔負けの身長や身体能力を誇る怪物がこれでもかといる。少し下世話な取り上げ方で、美女アスリート特集もこれまでやってきたが、今回はなし。これでは、今回の日本が弱そうだという触れ込みでは、さおりんもいないから、見る気にならないし、たとえ勝ち進んでも、他国同士の試合に興味が湧く訳がない。サッカーなら海外の選手が日本の選手より有名になってコンテンツの顔になることもしばしばある。その機会を逸したのである。

日本開催の世界バレーは今回が最後か

更にいうと、今回のこの「世界バレー大赤字」の記事は、朝日新聞社の記者が執筆していた。系列のテレビ朝日は、以前はTBSやフジテレビ、日本テレビらと同じく、1局で抱えるバレーの国際大会を持っていた。その中でいち早くバレー中継から撤退したのがテレ朝だったのである。自分のところがバレーを扱っていないからこそのやっかみとも言える。なにせ女子バレーは視聴率2桁を叩き出す優良コンテンツのままだからだ。また、この記事は署名記事ではないが、著名なサッカー経験者(アンダーカテゴリ代表の経験もある)の朝日記者が会場に現れた日に書かれたという噂も聞く。つまり「サッカー至上主義>>>他競技」「朝日至上主義>>>他局」の現れが、このバッシング記事だったのではという見方である。

もうひとつ、バレーボールを長年支えてきた他局の関係者はこう憤る。
「数十年間、僕らは『育成型コンテンツ』の“代表格”として、バレーボールと向き合ってきました。もちろん採算を合わせることにも全力を注ぎますよ。
それなら新聞さん、あなた達は? 高校野球が、箱根駅伝が、数々の新聞社が支えているマラソン大会は、一体どれだけの事業収入をあげているのですか? どうぞ報道してください!!  実は採算を度外視して支えて来ているんじゃないのですか?」

この記事を書いた朝日新聞記者は、どう答えるのだろうか? サッカーワールドカップも、オリンピックも、事業収入としてみれば放送局は大赤字のはずだ。

FIVBは世界バレー2022年以降の開催国を競争入札制に変更する。中国やタイなどが名乗りを上げており、テレビマネーにおんぶにだっこだった日本では、今後の開催が危ぶまれる状態だという。もっとも、中国やタイで外国同士の試合でも人が入るような盛況ぶりなら、その方がいいのかもしれないが……。

毎年世界大会のあるバレーボール 2017年は「グラチャン」イヤー

バレーボールの国際大会は頻繁に地上波で放送されている。「4年に1度の世界一を決める大会」というフレーズが頻繁に聞かれるが、それもそのはず。毎年「4年に1度の世界一を決める大会」があるのだ。今年、開催される「グラチャン」ことグランドチャンピオンズカップは、どのような大会なのか。

VICTORY ALL SPORTS NEWS

なぜポスト木村沙織は現れないのか ニューヒロイン誕生を待つ女子バレー界

2017年に現役を退いた木村沙織。女子バレー界最大のスターの後継者問題は、彼女が現役の頃から取りざたされてきた。古賀紗理那、宮部藍梨、黒後愛といった「ポスト・サオリン候補」は現れたが、彼女たちとのサオリンの違いは何か。(文=中西美雁)

VICTORY ALL SPORTS NEWS

なぜバレーボールの日本代表は「全日本」と呼ばれるのか?

バレーボールの日本代表は「全日本」と呼ばれる。他競技では「全日本」と言うと、全日本選手権を連想してしまうことも多いため、「日本代表」と呼ばれることが一般的だ。なぜ、バレーボールだけ「全日本」という呼称が使われているのか。

VICTORY ALL SPORTS NEWS

「NEXT4」の次に来るのは今村貴彦!? ユニバ男子バレー代表のスター候補たち

バレーボールの全日本男子は2年前に「NEXT4」が登場して人気に火が付いた。彼らと同世代の選手たちで構成されているユニバーシアード日本男子チームは、現在、台湾で開催されている第29回ユニバーシアード競技大会に出場している。「死のグループ」とも言われたグループAを首位で通過し、準々決勝進出を果たしたチームのスター候補を探る。

VICTORY ALL SPORTS NEWS

石井優希、東京五輪期待のエースの誓い 3つの個人賞が与えたメンタルの変化

2017-18V・プレミアリーグも終わり、いよいよ2018年度の全日本バレーチームが始動した。注目は、V・プレミアリーグで久光製薬スプリングスを2年ぶり6度目の優勝に導き、MVPなど、3つの個人賞を受賞した石井優希である。2016年のリオ五輪を経験し、中田久美監督の下でもプレーしている26歳。昨季は全日本のメンバー落ちを経験するなど、悔しさも味わった。それでも東京五輪の主軸を担えるだけの高いポテンシャルは誰もが認めるところ。始動したばかりの全日本で、自身の役割をどのように捉えているのか。(文=中西美雁)

VICTORY ALL SPORTS NEWS
VictorySportsNews編集部

著者プロフィール VictorySportsNews編集部