4月12日、世界中の視線がそのグラウンドに注がれた。新型コロナウイルスの感染拡大で世界中のスポーツイベントが延期や中止に追い込まれる中、当初3月14日に予定していた開幕日を2度延期していた台湾プロ野球(CPBL)が開幕。無観客開催ながら日本や米大リーグなどに先駆けて公式戦をスタートさせた。

「国民やファンに元気を与え、社会的な責任を果たしたい」と言葉に力を込めるのは呉志揚コミッショナーだ。チーム関係者は公共交通機関の利用を自粛。選手らに感染者が出た場合や政府から外出禁止令が出た場合は即中断。それら厳しい姿勢を打ち出しながら、その後も順調に試合を消化しており、4球団による前後期120試合の開催を目指している。

”世界最速”の開幕にこぎつけた台湾プロ野球は、当然大きな注目を集めた。ケーブルテレビで中継された中信兄弟-統一ライオンズの開幕戦は例年の約2~3倍の視聴率を記録。台湾メディアによると、15日の楽天モンキーズ-統一ライオンズの試合を公式ツイッターでライブ配信したイレブンスポーツの視聴者数は65万人、米国からのアクセスが6割を占めた。さらに、4月25日付サンケイスポーツは、公式ネット配信サイト「CPBL TV」で開幕戦の中継が前年比137%の視聴者を集めたと伝え、こちらも日本や米国からのアクセスが目立ったという。

さまざまな企業、業界が新型コロナの影響に苦しむ半面、任天堂のゲーム機「Switch」やアマゾンの「Fire TV Stick」が品薄になるなど、世界的な外出禁止・自粛を受けて在宅型エンターテインメントの世界は盛り上がりを見せている。世界のスポーツイベントが中止、延期となる中で、CPBLもスポーツ観戦に“飢えた”世界のファンのニーズを捉えたといえるだろう。CPBL関係者によると、この反響を受けて海外のテレビ局との放映権契約の交渉も浮上している。

日本やメジャーリーグでも模索されている無観客での開幕。この台湾の事例を参考にすることが、早期開幕への一つの後押しにもなりそうだが、実はそう単純に言い切れない側面もある。プロ野球・横浜DeNAベイスターズの初代球団社長で、現在バスケットボール男子3部(B3)・埼玉ブロンコスのオーナー兼取締役を務める池田純氏が「それぞれの環境の中での話。そのまま参考にすればいいというのは違うと思う」と話すように、日本と台湾、米国では、さまざまな環境が異なることを忘れてはいけない。

まず感染者数。台湾は4月30日現在で429人と少なく、1万4000人を超える日本とは大きな開きがある。ちなみに、台湾では米外交政策専門誌『フォーリンポリシー』で「世界の頭脳100人」に選出された38歳のデジタル担当政務委員、唐鳳(オードリー・タン)氏がマスク販売などでIT技術を積極的に取り入れ、感染者減に貢献するなど、そのリーダーシップが注目を集めた。

また、プロ野球自体が置かれた環境も異なる。さまざまな施策で観客動員を経営参画から7年間で約2倍にまで増やしたDeNAをはじめ、日本の球団の多くはここ数年の観客動員増で、入場料収入を主体に経営の黒字化を進めてきた。一方で、台湾は1試合あたりの平均入場者数が昨季の日本の3万929人に対して約5000~6000人と大きな差がある。各球団の収入はメジャー同様にテレビ、インターネットなど放映権料の割合が大きく、収益構造の違いは考慮に入れる必要がある。

さらに、台湾では今回、感染拡大防止のため、新幹線など公共交通機関の使用を原則禁止にしており、バスでの移動を徹底している。台北からバスで最大でも4時間程度で敵地に移動できる台湾と、日本ハムの本拠地・札幌からソフトバンクの本拠地・福岡まで航空機でも2時間半かかる日本とは、大きな差がある。これについては台湾代表の日本ハム・王柏融外野手も「一番難しいのは、やはり移動距離」とメディアに話しており、見過ごせない点といえる。

いずれにしても、今回の台湾の事例からも分かるのは、世界の野球ファン、スポーツファンが、スポーツイベントの再開に大きな期待を寄せているということ。5月5日には韓国プロ野球(KBO)も開幕を予定し、米スポーツ専門局ESPNが放映権獲得に動いているとの話もある。暗く沈みがちな世の中で、希望の光になり得るスポーツ。6月以降の開幕を目指す日本のプロ野球の動向、決断にも世界の注目が集まる。



【台湾プロ野球(CPBL)】
1990年から4球団でスタート。八百長事件発覚などで人気が低迷する中、2003年に中華職業棒球連盟が台湾職業棒球大連盟と合併し、中華職業棒球大連盟に。1リーグ6球団制となった。楽天が昨年ラミゴを買収して参入し、現在は楽天モンキーズ、中信兄弟、統一ライオンズ、富邦ガーディアンズの4球団(21年に味全ドラゴンズが1軍の試合に復帰予定)。レギュラーシーズンは前後期60試合ずつの120試合制。


VictorySportsNews編集部