当面は無観客、143試合から120試合に削減しての開催となるが、それでも早期の開幕にプロ野球界がこだわった理由は何なのか。斉藤惇コミッショナーが「外出自粛などによる閉塞感に苦しんだ国民を勇気づけることができれば」と話したように、国民的スポーツのスタートで世の中に活気を与えたいとの純粋な思いが根底にはある。

そして見逃せない要素が、もう一つ。無観客開催でも、一定の試合数を維持することで得られる放映権料とスポンサー収入の確保だ。横浜DeNAベイスターズ初代球団社長の池田純氏は「入場料やグッズ収入など、全売り上げの6割ほどが減るはず」と経験則を踏まえて試算する。例えば、100億円ほどの売り上げがある球団なら40億円ほどに減収となる計算。30億円前後の選手年俸総額に球団の運営費などを加えれば、10~20億円程度の赤字になることが想定される。5月中旬の臨時オーナー会議では、議長のDeNA・南場智子オーナーが「プロ野球はかつてない危機的ともいえる状況です」とメディアに語った。ただでさえ赤字必至の状況で、放映権料とスポンサー料は、まさに”虎の子の財布”。苦渋の決断とはいえ、まずはそれらが得られる無観客開催に舵を切るのは、経営判断として当然といえる。

一方で、新型コロナウイルスの影響が完全に消え去ったわけではない。東京ではプロ野球開幕週も連日2桁の新規感染者が出ており、ワクチンも開発途上。明確な治療法が確立されていないのが現実だ。それでも、特にセ・リーグでは5月上旬の段階から「6・19」開幕の方針で一致していた。そこで存在感を見せたのが巨人だという。協議で「開幕」の意義を熱く訴えるなど「リーダーシップを発揮していた」と関係者は証言する。

実際に、巨人は5月末に独自の抗体検査を希望者全員に実施するスクリーニング方式を導入するなど、開幕に向けた強い意志をその姿勢でも示している。回復を示す抗体が確認された坂本勇人内野手、大城卓三捕手がPCR検査を受け、無症状ながら陽性と判定される不測の事態はあったが、全選手、スタッフらにPCR検査を拡大するなど迅速に対応して事なきを得た。これを受けて、6月8日の12球団代表者会議で全球団が監督、コーチ、全選手らのPCR検査を定期的に行う流れにも発展。球界の主導権争いを巡る思惑が渦巻く中、もちろん全てが賛辞とはいかないが、コロナ禍の中でのプロスポーツ開催の先行事例、いわば「巨人モデル」を作ったと評価する声もある。

こうして無観客で開幕にこぎつけたプロ野球。今後は、いつ、どのタイミングで観客を入れるかが最大の焦点となる。政府の基本的対処方針では、プロスポーツは7月10日から最大5000人を入れた試合の実施が可能になることが示されている。スポーツ各紙の報道によると、杵渕和秀セ・リーグ統括は「政府の指針に従って、自治体と調整した人数で入れていきたい」との見通しを示しており、まずはこの「7・10」が一つの基準になりそうだ。

また、全面再開となる8月1日以降も、屋内では収容人数の半分以下、屋外では人と人の距離を2メートル程度確保することとされている。これら段階的な緩和に向けて、プロ野球には早急に観客を迎えるためのロードマップ、ガイドラインを構築し、来るべき時へ準備を進めることが求められる。

経営の観点からは、チケットに高い付加価値をつけて販売するなどの工夫も必要となりそうだ。新型コロナの第2波、第3波が到来し、いつ再びパンデミックが起こってもおかしくない状況は、しばらく続く。現在はバスケットボール男子B3リーグ・埼玉ブロンコスのオーナーとしてプロスポーツチームの運営に携わる池田氏が「緊急時でも、最低限の経営が成り立つ”保険”をつくっておく必要がある」と話すように、スポーツビジネスに携わる経営者は、球場、スタジアムを満員にする従来のビジネスモデルにとどまらず、コロナの時代にも成立する新しい経営の形を作り上げておくことが必要となる。

プロスポーツの先陣を切って動き出したプロ野球は、日本国内最大のスポーツとして、大きな責任と影響力を持つ。その動向は、他のプロスポーツ、エンターテインメント業界、さらには来夏に延期された東京五輪・パラリンピックの行方にも大きな影響を及ぼすことになりそうだ。


VictorySportsNews編集部